News:アンカーデスク 2003年6月16日 03:22 PM 更新

Mastering Studioに“堕ちてゆく”30男の1週間(3/3)


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 一番薄くかけても、プチノイズを除去した痕が、微妙に歪むのである。比較的大音量の部分ではあまり目立たないが、ピアノバックにヴォーカルといったパートでは如実にわかる。

 もし筆者がSteinbergのCLEANを使っていなかったら、まあこんなもんだろうと思っていたかもしれない。しかし標準価格9800円のソフトでもっと上質のノイズリダクションができることを知ってしまったからには、SMS搭載のノイズリダクションは、バンドルプラグインのレベルとあまりにも差がありすぎる。


画面は筆者が以前使用していたCLEAN3.0

 残念ながらLPレコードライブラリはまだSMSに任せるわけにはいかないというのが、筆者の結論だ。とりあえず録音だけして待っているので、次期バージョンに激しく期待している次第である。

日々是修行か……

 考えてみれば、SMSとは悲しいほどに内向的なソフトである。これが例えばDVDを焼きましょうとか写真をプリントしましょうって話なら、人に見せて自慢したり一緒に見たりといった楽しみの共有が可能だ。

 しかしオレのマスタリングを聴け!と吠えても、他人のマイベストCDを聴くのが十分うっとうしいように、うんざりされるのがオチである。もう完全に自己完結するしかないのだ。

 しかしそこが同時に、お金を出して惜しくないところでもある。自宅の地下室にコンクリート張りのリスニングルームをこしらえちゃう人と、ベクトル的には似ているかもしれない。他人のこと一切関係なしに、自分が納得いくところまでとことんまでやってみたい。そんな研究願望というのは、誰しも何らかの分野であるはずなのだ。

 今まで多くのソフトウェアでは、技術的背景がないことに対して、人はそれほど高いクオリティーを求めないだろうという想定の元に作られてきた。だが自分でこんなことやってみると、そういう考え方は間違っている。

 よく知らないからこそ、ものすごくいいものが簡単にできると思うものなのである。それに対してちゃんと応えるだけの度量がないソフトウェアは、定番として定着しない。

 もちろん良いものを自分でしっかりコントロールして作るには、ちゃんと技術的な背景を理解しなければならない。SMSは、そんな向上心と実地学習の場を提供してくれるという意味で、今までにはなかったスタイルのソフトウェアなのである。

 一日一マスタリング、まだまだ修行の道は険しい。

小寺信良氏は映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。



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[小寺信良, ITmedia]

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