News:アンカーデスク 2003年6月30日 07:46 AM 更新

DivX外部デコーダ「MediaWiz」発売に隠された裏の裏(2/3)


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 小規模VODの市場規模は、意外に大きい。役所や図書館、美術館、病院、ホテル、高級マンションといった施設では、いわゆる館内VODネットワークの構築がトレンドとなっている。

 また店舗での展開は、誰でも想像しやすいだろう。例えばスーパーやドラッグストア、ディスカウントショップなどでは、よくラジカセやテレビデオを使って、商品説明や宣伝文句を延々リピートしているのを目にする。「今日はお魚デー、お刺身がお買い得!」とか「ただいまサービス期間中につき1パック100円、1パック100円でのご奉仕価格!」とかいうやつだ。ああいうものをVODにすれば、時間帯で顧客に合わせたコンテンツ入れ替えや自動更新など、もっときめ細かいサービスが可能になる。

 従来では20〜30台のクライアントでシステムを組めば、3000万円程度のビジネスになるところだ。これがMediaWizの登場で、ヘタすれば数十万円規模でシステム構築ができてしまうことになる。

 なんだよ、今までの小規模VODはボリやがっていたのか、と思われるかもしれないが、これだけの価格になってしまうのには理由がある。

 この手のストリーミングシステム設計では、通常はまず「サーバありき」でスタートする。ストリーミングはDVDのような決め打ち固定メディアを使用しないので、圧縮コーデックをはじめ、通信プロトコルなどは、設計側が自由に選択する。

 そしてその事情にあわせてクライアント側のSTB(SetTopBox)をカスタマイズしていくので、小規模だろうが大規模だろうが、あんまり関係なくカスタマイズ費がかかっていくのである。  MediaWizの登場は、これとは逆のルートで行ってコストを下げよう、という動きになる。つまりクライアント側のSTBを、「MediaWizがデファクトスタンダードである」として先に固定してしまう。それに合わせてサーバを作れ、というわけだ。

 考えてみれば、ある特定のSTBをデファクトスタンダードにするには、莫大な広告宣伝費がかかる。そんな宣伝費を払うぐらいなら、コンシューマー機器としてアキバで製品をまいてしまったほうが安い――というのがバーテックスリンクの狙いだ。いや安いどころか、売れれば売り上げが立って儲かっちゃうのである。

 ではMediaWizという製品は、コンシューマユーザーにとって「安い」のか。これは内情を知れば、文句なしに安いと言えるだろう。

 MediaWizの設計開発はSigma Designs、製造とカスタマイズをバーテックスリンクが担当している。元々の製品企画はバーテックスリンク主導で動いており、日本独自の製品である。中身はほとんどチップ組み込みのボード1枚だが、これ実はSigma Designsのデコードチップ、EM855x用の開発キットと同じものだ。Sigma Designsでは、このボードにSDKや回路図を付けて、通常120万円程度で販売しているものだという。

 例えば他社が同様の製品を開発するとなると、まずこの120万の開発キットを購入し、そこからカスタマイズしてファームを書き、サーバソフトを書き、という段取りになる。これをやっていれば、半年や1年はあっという間に過ぎてしまう。もちろんその間の開発費は、着実に製品価格に反映していく。

 これが今、2万円程度で買えるのである。これはバーテックスリンクがSigma Designsの正規代理店であるという関係から可能になっている。タイミング的にも価格的にも、他社が競合製品を出せる余地がほとんどないという、ガッチリ固め打ちの製品だということが分かる。

なぜMediaWizか

 ユーザー側の素朴な疑問として、なぜMediaWizでVODなのか、もっと突き詰めればなぜSigma DesignsのチップでDivXなのか、ということがわいてくるだろう。

 ハードウェアデコーダチップとして見た場合、DVDプレーヤーなどに搭載されているチップは、だいたい単価500円以下である。ところがSigma DesignsのEM85xxはその10倍もする。当然低価格化競争になってきている普通のDVDプレーヤーで、EMシリーズを登載するメリットはない。

 しかしEMシリーズ最大の特徴は、多くのストリーミングプロトコルに対応しているところだ。チップメーカーとしては中小規模に属するSigma Designsでは、大手チップメーカーではまずやらないような、ストリーミングサーバの事情に合わせた細かいカスタマイズを行なってきた実績がある。そしてその技術が、すべて1チップに盛り込まれている。

 ストリーミングプロトコル対応の煩雑さは既に前段で述べたが(前回のコラム参照)、実際に多くのストリーミングサーバが、クライアントにはSigma Designsのチップを指定している。チップ単価が10倍高くても、即動くクライアント製品が作れるチップは、他にないからである。

 ストリーミングプロトコル云々という話が出たとたん、ピンと来る人はピンと来るだろう。ネットワークで動画配信できるAV機器やPC周辺機器には、大抵Sigma DesignsのEMシリーズがデコーダチップとして採用されている。

 具体的な製品名を出すとオトナの事情でいろいろ差し障りがあるが、例のアレとかあっちのアレとか、えっ、アレもなの、といった具合だ。ちょっと中身のボードやチップの写真が載ってる記事を探せば、いくらでも見つかるだろう。

 これらの製品は、潜在的にはDivXの再生能力を持っている。アプリケーションが対応していないので、できないだけだ。ではなぜ対応していないのかというと、根幹はライセンスの問題である。

 そのライセンスも、DivXの場合は事情がはっきりしてきた。

[小寺信良, ITmedia]

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