News 2003年7月11日 00:01 AM 更新

T-Kernelのオープンソース化は12月――標準化を進める「T-Engine」最新動向

組み込みシステム向けの新しい開発プラットフォーム「T-Engine」が実用段階に入った。ビッグサイトで開催している「組み込みシステム開発技術展」の技術セミナーで、T-Engineの最新動向が語られた。

 ユビキタスコンピューティング時代のオープンなリアルタイムシステム標準開発環境を提供する「T-Engine」。この組み込みシステム向けの新しい開発プラットフォームが実用段階に入った。ビッグサイトで開催している「組み込みシステム開発技術展」の技術セミナーで、YRPユビキタス・ネットワーキング研究所副所長の越塚登氏が、T-Engineの最新動向について語った。

 現在、T-Engineを取り巻く環境は急速に拡大している。

 T-Engineの規格推進団体「T-Engineフォーラム」は、2002年6月の発足当時には22社だったものが、わずか1年後の現在では204社(7月8日現在)と大幅に増加。「純国産の組み込みシステム向けプラットフォームとして注目を集めているT-Engineだが、フォーラムには海外企業も数多く名を連ねており、国際色豊かになっている」(越塚氏)

 T-Engineがこれほどまでに注目されているのは、家電製品や携帯電話/PDAといったモバイル機器など、組み込みシステムの応用範囲が大きく広がり、システム自体が複雑化しているといった背景がある。

 「これまでは単純にリアルタイム制御ができればよかったものが、応用範囲が広がるにつれ、分散処理やマルチメディア処理といった高度な処理が必要となり、セキュリティ対策も重要になってきている。システムが複雑になると組み込みソフトウェアの規模も大きくなり、開発の負担も増えてくる」(越塚氏)

 つまり、従来のカスタムメイド的なシステム開発は、システムの再利用性が低いため開発コストも増え、市場投入期間も長くなってしまう。組み込みシステムの世界でも、標準化が必要になってきたのだ。

 「過去、メインフレームでのIBM 360アーキテクチャや、PCの世界のWintelアーキテクチャなど、さまざまな分野で標準化が行われてきた。組み込みリアルタイムシステムの世界では、T-Engineが標準アーキテクチャとなる」(越塚氏)

 T-Engineの母体となっているTRONでは、APIだけ定めるというゆるやかな標準化だったため、BTRON、ITRON、JTRONと、さまざまなTRONが派生し、ミドルウェアの互換性が確保されなかった。“ミドルウェアの流通”を技術目標にしているT-Engineは、「アーキテクチャ」と「カーネル」を強く標準化することで、組み込みリアルタイムシステムでのソフトウェアの再利用性、生産性、保守性の向上を図ろうとしている。

 「T-Engineは、OSもシングルソースにしたり、ハードウェアのスペックもしっかり決めるなど、従来のTRONと違ってかなり細部まで標準化を定めている。小型の組み込みシステムから、携帯端末、PC/WS、サーバまで、共通のプラットフォームを提供し、ミドルウェアを流通させるのがT-Engineの目指すところ。いい例ではないが、捨ててある携帯電話やPCのROMだけを取り出して別の機種に取り付けたら動いてしまったという事件が起こったら、T-Engineは大成功といえる」(越塚氏)

 T-Engineでは、組込み機器の規模や用途に合わせて、現在4種類のハードウェアアーキテクチャ仕様を定義している。その中で、基本的なハードウェア構成、基板サイズ、コネクタの位置など標準規格の仕様が定まっているのが、比較的高度なユーザーインタフェースを持つ機器を想定した「標準T-Engine」と、家電や計装機器など比較的ユーザーインタフェースの少ない機器を想定した「μ(マイクロ)T-Engine」の2種類だ。

 そして現在、仕様の策定作業を進めているのが、μT-Engineの十分の一以下のサイズが予定されている「n(ナノ)T-Engine」と、米粒サイズの「p(ピコ)T-Engine」だ。


標準/μ(マイクロ)/n(ナノ)/p(ピコ)それぞれのT-Engineの大きさの違い

 「500円玉サイズのnT-Engineは、各種センサなどに組み込まれてネットワーク接続するためのもので、pT-Engineは無線で交信する微小なチップ。この2つのT-Engineはまだ試作段階だが、最終的な仕様は年内にも確定する見込み」(越塚氏)


組み込みシステム開発技術展で参考出展されたnT-Engine(左)とpT-Engine(右)

 ソフトウェア体系としては、リアルタイムカーネルである「T-Kernel」の上に、ファイルシステムやネットワーク通信機能など標準的なミドルウェアプロファイルを定義した「T-Kernel/SE(Standard Extension)」、コンパクトなハードリアルタイムシステム向けの「T-Kernel/TE(Tiny Extension)」、サーバシステム用の「T-Kernel/EE(Enterprise Extension)」という3つのネイティブエクステンションを用意。

 そして、T-Kernel上にLinux OSをミドルウェアとして利用できる「T-Linux」、情報家電用プログラミングフレームワーク(NSI)をT-Engine上に移植した「T-Integrator」、T-Kernel上の標準Java環境「T-Java」、第三世代携帯電話端末をT-Kernel上に構築する「T-Wireless」といったミドルウェアがエクステンションとして利用できる。

 現在、T-Engineフォーラムに参加するA会員メーカーには、T-Kernel上のソフトウェアはすべてソースコードが公開されて、検証が行われているという。

 「今年12月に開催するTRONショー2004までには検証を終え、T-Kernelをオープンソースとして公開する予定。非常に安い利用料を設定して、ほぼフリーなオープンソフトウェアとして利用できるようなライセンス体系で運用することになる。具体的には、初回だけ10万円ぐらいの費用を負担してもらえば、それ以降の商品開発には永久にソフトウェアを使用できるといったスタイルを考えている」(越塚氏)

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[西坂真人, ITmedia]

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