News | 2003年7月17日 00:08 AM 更新 |
坂村氏は「UCはPCではく非PCでなければならない」と主張する。現在のASICはパフォーマンスが上がっているので、ソフトウェアにPCと同程度の機能を持たせることは不可能ではない。しかし、だからといってPCベースの汎用機能を持たせることは、不便で使いにくいPCになることにほかならない、と坂村氏は考えている。
ユビキタスコミュニケータという名が示すように、UCに求められるのはコミュニケーション用途に特化したもの。だから、筐体は軽く、そして、持ち歩くのに必要な機能を実装していれば十分ということになる(デバイスがもてない機能はネットワークでカバーすればいいのだ)。
コミュニケーションに特化したUCが持つ機能とは、4つに集約される。第1の機能は先ほど紹介した「個人情報」。第2の機能が「通信マルチモーダル」。これは、どんなネットワークにもアクセスでき、どんな端末とも接続できるようにするため、UCで802.11x、Bluetoothでも使えるようにしておくものだ。
第3の機能が「ユーザーの周辺状況に関する情報の取得機能」。これはユーザーの周りにあるものの位置や種類の情報を、組み込まれたRF-IDチップなどから取得する以外に、UC内蔵のセンサーで温度や騒音レベルなどの環境情報を取得する機能も含まれる。
第4の機能が「ユーザーインタフェースのマルチモーダル」。この機能によってユーザーの身体状況や周辺の騒音レベル、明るさなどを認識し、その条件によって出力を「文字」「振動」「音声」などから最も適したものを使い分けることが可能になる。
このように、UCには多様な入出力データの処理が必要になってくるが、UCが搭載するCPUのパフォーマンスには制限があるため、RF-ID情報の読み書き処理や動画表示、音声入出力処理のために専用チップを実装しなければならない。また、個人情報や周辺環境の取得のために、さまざまなセンサーチップも実装するようになるが、これらのチップは、極力小型化が求めらる。この「小型チップの開発」がUC開発における一つの重要なステップになると、坂村氏は説明している。
UCは現在の携帯電話と同じくクイックデペロップメントが求められる。そのため、開発期間と労力を削減するために、開発ツールや基板規格を標準化する「T-Engineプロジェクト」が設立されている。このプロジェクトでは、開発ハードの標準規格などを提唱しており、現在市場に出ているほとんどのMPUに対応したT-Engine基板を開発している。
UCに組み込むOSカーネルはITRONベースで開発したT-Kernelが核になっている。ITRONは組み込み型OSとして最も普及し、実績のあるリアルタイムOSといってもいいだろう。その上位層にあたるファイル管理、メモリ管理、プロセス管理を行うミドルウェアを現在開発している。ファイル管理では、PCメディアとの互換を図るために、FAT、ISO9660ファイル管理機能もサポートする。
UCの実証実験はすでに開始されていて、ユビキタスコンピューティングのデモンストレーションでもたびたび試作機が紹介されてきたが、実用化のためには、さらなる小型化が必要と坂村氏は考えている。今回の講演では従来型のUC試作機と一緒に、より小型化したサンプルも登場し、12月に開催されるTRONイベントで、動態サンプルを大量に展示する予定であることを明らかにした。
しかし、UCが近い将来にすぐ普及するかについては、坂村氏は否定的な考えを述べている。その大きな理由が、UC開発のもう一つの重要なステップになる「エフォートレスなセキュリティの実現」に相当な時間がかかるためだ。かなり細かい個人情報をネットワークに流すため、セキュリティは最初から完全な形で実装しなければならないというのが、坂村氏の考えなのだ。
ユビキタスコンピューティングを推進する一部の団体では普及を促すために、関連システムの早期提供とコストダウンを重視し、セキュリティの実装を後回しにする動きがある。これに対して、坂村氏は講演のなかで強い懸念を表している。
いったん大量に出荷されてしまうと、問題が発生したときの影響とそのあとに残る不信感は計り知れないものがある。まずは強固なセキュリティを実装を優先した開発を進めていく必要であり、そのため「普及には10年がかかると考えている」(坂村氏)
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[長浜和也, ITmedia]
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