News 2003年7月18日 08:28 PM 更新

Handheld EngineがいるからUX50がいる

New CLIE「PEG-UX50」のために新たに開発されたHandheld Engine。この存在がUX50の小型化を実現し、長時間駆動とパフォーマンスを両立させた。このキーバーツの構造とパワーマネジメントの仕掛けについて紹介しよう。

 「Handheld Engine」(HD-Engine)は、CPU、DSP、DRAM、2Dグラフィックスエンジン、各種インタフェースコントローラなどをワンチップにまとめてしまったもの。「CLIE用アプリケーションCPU」と呼ばれているので、PXA250やStrongARMとも異なる、まったく新規のCPUというイメージを受けるが、Handheld EngineにはARM926が組み込まれているので、CPUコアだけを見れば、CLIEの兄弟「NX70」や「NR90」が搭載しているインテルのPXA250と通じるものがある。PXA250に実装されているXScaleコアはARM10ベースにインテルが拡張したもの。UX50のARM962は、その下位バージョンということになる。

 HD-Engineの構造で最も重要になるのが、広帯域を実現する128ビット幅のメモリバスだろう。このメモリバスの存在が、省電力とパフォーマンスを両立させていると言ってもいい。



HD-Engine(上)と内部レイアウト(下)統合CPUチップにDRAMを実装したのがPXA250とHD-Engineの大きな違いである


HD-Engineのシステムブロック図。四つのDRAMモジュールとそれを取り囲む128ビット幅のメモリバス、周辺にズラリと並んだインタフェースがHD-Engineの最も重要な部分

 HD-Engineの動作クロックは最大で123MHzと、高機能PDAとしては、かなり低く抑えられている。NZ90やNX80/70が200MHzで動作するのと比べたら、わずか半分。動画や音声の記録、再生などに活用したいUX50のパフォーマンスが不安になるのも無理はない。

 ただ、このようなエンコードやデコード処理で高負荷の原因になるのが、メモリからプロセッサ、インタフェースへのデータ転送処理。このような処理ではデータの通り道が広ければ広いほど、パフォーマンスに与える影響は大きくなる。

 HD-Engineには、16MビットDRAMが4モジュール実装され、それぞれ128ビット幅のメモリバスで接続されている。ソニーによれば、4本のメモリバスを同時に使ってデータを転送することで、DRAMからの帯域幅は7.68Gバイト/秒にも達する。Intel 875Pチップセットで、DDR400をメモリバス幅64ビットのデュアルチャネルで動作させた場合の帯域幅が、6.4Gバイト/秒であることを考えると、DRAMの帯域幅としては非常に高い値であることがわかる。

 この広いメモリバス帯域のおかげで、低クロックながらパフォーマンスを確保したHD-Engineだが、さらなる長時間駆動を実現するために、ソニーが開発したパワーマネジメントシステム「DVFM」(Dynamic Voltage and Frequency Management)を実装している。

 この機能は、HD-Engineの負荷状況に合わせて動作クロックを切り替え、それに合わせて駆動電圧を切り替えるもの。動作クロックは0.5MHz刻みで変更可能で、UX50に実装されたHD-Engineでは、最高120MHzから8MHzまで変更可能、駆動電圧は5ミリボルト刻みで1.6ポルトから1.2ボルトの間で可変する。

 負荷状況の判断のために何を監視しているかについて、ソニーは明らかにしなかったものの、発表会場にいた担当者によると、因子の一つとしてメモリのアクセス頻度などをチェックしているらしい。    なお、DVFMはチップ内で閉じた状態で使われ、ユーザーがコントロールするためのAPIなどは用意されていない。そのため、ユーザーがDVFMの機能を利用して、動作クロックや駆動電圧を設定できないようになっている。


DVFMにおける、パワーマネジメントフロー。負荷に合わせてクロックを変え、それに合わせて電圧を変える

 UX50がPXA250を採用せず、わざわざ新しいチップを作り出した理由はどこにあるのだろうか。その背景にあるのは、今年のキーワード「商品力を高めていく」ために構成パーツを自社内部で調達するというソニーの方針だ。このコメントは5月に行われた「経営方針説明会」以来、新製品発表会で何度となく述べられている。

 PXA250とHD-Engineの根本的な違いもここにある。PXA250は、CPUコアやインタフェースコントローラなどを「インテルが選んで」パッケージにした製品。それに対して、HD-Engineは、ソニーが必要と考えたユニットを組み合わせてワンチップにしたものだ。

 キャンピングカーで例えてみると、PXA250はベース車もハウスユニットもメーカーが組み合わせたパッケージ製品。使わないオーブンがあると思ったら、必要なヒーターユニットが付いていなかったりするようなもの。HD-Engineはベース車も、ハウスも、内装のギャレーやバースやヘッドに至るまで、必要と思うものだけを組み込んだ製品。限られたスペースを自分に合わせて効率的にデザインできるメリットがある。

 このおかげで、PXA250では内蔵されていなかった、CMOSカメラのコントローラやジョグダイヤル、メモリースティックPROインタフェースなどをチップに統合でき、UX50の基板面積の削減に大きく貢献している。

 このように、UX50の開発で求められた「小型化」「高性能」「常時間駆動」を実現したHD-Engine。現在のところ外販する予定はなく、ほかのCLIEシリーズへの搭載も考えられていない。UX50の商品力を高めるために新規に開発されたカスタムチップは、「コンセプトが共通する製品にだけ使う」(ソニー広報)ことを想定された、ある意味「非汎用チップ」という側面を持っているようだ。


UX50の基板。中央左側に見えるのがHD-Engineであるが、内部のプリントを見えるようにするため、特別に切り込みが入れてある



発表会会場で展示されていたUX50のスケルトンモデルの表と裏

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[長浜和也, ITmedia]

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