News:アンカーデスク | 2003年9月16日 11:16 AM 更新 |
デザインを90度回転して、今度は横に薄べったく持たせるというスタイルで再登場したのが、2世代機「SV-AV30」である。プロモーションも積極的で、浜崎あゆみを起用したイメージ戦略もさることながら、異業種合同プロジェクト「WiLL」ブランドの一環として発売された。
撮像素子は相変わらずCMOSだが、撮影機能は少しアップした。画面サイズは変わらないが、動画は15fpsぐらいまで細かくなり、フリッカー低減モードやホワイトバランス、逆光補正など、カメラとして当たり前のこともできるようになった。
だが平たいスタイルというのは、カメラよりもむしろ、ポータブルDVDプレーヤーを彷彿とさせる。D-snapは、初代からアナログのAV入力を録画できた。テレビ番組を本体で録画して、持ち出して見ることもできたのである。2世代目になって、スタイルとしてもカメラからビューワーという方向性を打ち出したと言えるだろう。
このとき筆者は他誌のAV-30のレビューで、「本体で録画するのではなくて、据え置きのデッキで録画した番組をSDカードにコピーして見られるようにならないか」という提言をしている。これを実現したのが、先月、今月と相次いで発売されたDVDレコーダー、DMR-E100H、E200Hだ。もちろん筆者がこんなことを言い出す前から研究してきたのだろうが、まさに「機を見るに敏」な販売戦略には舌を巻いた。
機能バランスの偏りをバリエーションに
これまでのD-snapは、動画、静止画、音楽、録音の4方向に対して、均等なプライオリティを持っていた製品であった。その中でどの方向性が行けるのか、模索するためのたたき台であったとも言える。
そのたたき台が5万台も売れただけでもエラいことだが、松下電器は今度のD-snap4タイプで、一気に10倍の市場規模拡大を狙う。キーとなるのは、この4種の機能にプライオリティを付けた製品構成にしたところだ(各モデルについてはこの記事参照)。
SV-AS10は、静止画機能を中心に据え、価格を抑えたモデル。動画は撮れなくもない、という程度に抑えられている。だが音楽の連続再生時間は10時間をキープと、他モデルにはない武器を搭載しているところがポイントだ。
SV-AV50は、AS10と同等の静止画機能を持ちつつ、MPEG-4ムービーも妥協しなかったモデル。モニタとレンズがシーソーのようにつながっている「マジックアクション」が面白いが、コンセプト的には初代機の横型ビデオカメラスタイルを縦型にした形だ。
SV-AV35は、形こそ2代目モデルと同じだが、機能的にはAV50とほぼ同等。このビューワースタイルが象徴するように、撮るよりも見るほうに集中したモデル。あるいはデザインを継承することによる「WiLL」ブランド継続に、何らかのメリットがあるのかと勘ぐるのは行き過ぎか。
SV-AV100は、動画撮影に集中したモデル。光学ズームや手ぶれ補正を備えた本格派だが、静止画はVGAサイズに抑えられている。もっとも「ポストDVカメラ」の位置に近い存在かもしれない。
つまり2世代目までのD-snapは、いろいろできるんだけど全部が“均等にイマイチ”だった。それを今回は各ポイントに突出させることで、とんがった製品に大化けしたのである。
気が付けば世の中を席巻している松下の技術
D-snapの市場は、松下電器が2002年1月から地道に種をまき続けた結果、ようやく花開いた自力開拓分野である。いくら日本人が集積好きだからと言って、ここまで一つのデバイスに機能をつぎ込んだ例はそうないだろう。
新D-snapシリーズが各機能に突出させたからといって、それがストレートにデジカメの代用品であったりビデオカメラの代用品であったりするかと言えば、それもちょっと違う。その根底には、「メモリさえあればなんでもできる」というデジタルデバイスとしての究極の姿が投影されているような気がするのである。
それを裏打ちしているのは、松下電器のモノ作りに対する絶対の自信だ。
発表会ではすべてのモデルの実働機を触ってきたが、フタの構造、液晶のヒンジ、ボタンの配置、すべてにおいて非常に緻密な製造が成されている。
今筆者の手元にはAS10があるが、ボタン類を囲む側面アルミパネルの繊細なベベルカーブと言い、ヘッドホン端子を微妙に避けた加工部分と言い、液晶の脇を一段低く流した立体的な作りと言い、この繊細な加工を月産5万台、しかも7色の色違いで作ろうってんだから、その製造能力に驚く。クレードルに至るまでまったく妥協のないその仕事ぶりに、こういうデジタルモノには免疫がある筆者も、久々に物欲が高まった。
経営不振が伝えられたあと、2002年にV字回復を達成した時点から、松下電器が作る製品にオリジナルのポリシーが感じるようになった。かつての「マネシタ電器」という揶揄は、D-snapにはまったく通用しないだろう。
小寺信良氏は映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。
[小寺信良, ITmedia]
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