News 2003年9月26日 03:18 AM 更新

MSのeHOME戦略(上)
「ゲイツの自宅」が生んだMedia Center PC(2/2)


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 その時点でも音楽、TV、ビデオなどは、既にPCで扱えていた。だが「自宅でゆっくりとその機能を楽しめる環境は存在しなかったのです。安価なAVシステムでも当たり前にできることが、何でもできるはずのPCではできない。これを解決するためには、独自のエンターテイメントPCを作る必要がありました」(レーメル氏)

 つまり、ビル・ゲイツの自宅システム向けに作ったハードウェアとソフトウェアの組み合わせが、Media Centerの原型というわけだ。

 「2年前、そのビジネスとしての可能性を感じ、新しい部門を社内に作り、エンドユーザーが家庭内でPCを楽しむときに、より良い使い勝手を提供するためのプロジェクトチームを作りました。集めたのは、実際にゲイツの自宅システム構築に従事した人、もともと趣味でAVパソコンを使っていた人、それにWindows XPのユーザーインタフェースを構築したメンバーなどです」

発想は単純――「自分たちが欲しいPCを作りたかった」

 家庭で使いやすいPCと言ってもコンセプトは漠然としている。プロジェクトが最初にフォーカスした分野はどこなのか?

 「最初にフォーカスしたのは、ホームユーザーにとっての“使いやすさ”とは何か、を追求することでした。われわれはユーザーインタフェースを改善し、Windows XPでは達成できなかった“リラックスした場面での使いやすさ”を提供することを目指しています」

 「Windows XPのユーザーインタフェースは、写真、音楽、ビデオなどを簡単に扱えるものにはなっていました。しかし、それは主にPCを積極的に使う場合の使いやすさです。ホームエンターテイメントの一部としてPCを組み込むためには、別のやり方が必要でした。そこでWindows XPのアプローチの中で評判の良い部分をベースに、Media Centerのユーザーインタフェースを構築し、出荷したのが昨年10月の製品だったわけです」


Media Center PCのリモコン

 もっとも、このとき発売したのは米国だけで、機種も限られていた。テレビ番組表サービスなどの問題があったことも一因だろうが、一方で、市場の反応を見るための“実験的な製品”という印象を強く受けたことも事実だ。

 「実際に製品を出荷し、既存PCに対して別のアプローチからデジタルメディアを楽しむユーザーインタフェースを加えるというコンセプトは評価してもらえました。ですから、われわれはこの分野に継続して投資を行うことにしたわけです。われわれのチームは、家庭でデジタルメディアを楽しめるPCが欲しかった。そして、自分たちの欲しいPCを作った。それがMedia Center PCなんです。1年後には新しい製品カテゴリーとして存在するようになっていると思います」

 もっとも、家庭向けPCに求めれる機能は、今日では多様化しており、ビル・ゲイツの自宅が建築された当時と現在とでは、業界内の技術トレンドも違う。単にユーザーインタフェースの改良やテレビ機能の標準サポートといった要素だけでは、新しい分野を開拓したと言うのは大袈裟であろう。Microsoftは初期版のMedia Centerユーザーから、どんなフィードバックを得て、新しいバージョンにおいてどのような改良を施しているのか。

 「実にたくさんのフィードバックをもらい、さまざまなニーズが浮かび上がっています。例えばインターネットラジオはどこにあるんだ、とか、ビデオやテレビ、音楽だけではなく、もっと多種のメディアを扱いたい、などです。まだまだ開発が終わりではないことを実感します」

「Media CenterでPCがAV家電の仲間入りなんて思ってもいない」

 Windows XP Media Center Editionは、ソフトウェア側からのアプローチでしかない。プラットフォームとしてのMedia Center PCには、静音性など快適さに関するスペックもあるが、それほどキビシイものではなく、機能的な要件を満たしていればいいだけだ。

 性能やハードディスク容量など必要最低限の規約も、ノートPCを意識したものになっており、ハードウェアのイノベーションを強制するものではない。

 無論、ハードウェアの進化はPCベンダーが自分たちで工夫していく分野だが、いくらMedia Center PCが家庭の中で使いやすいインタフェースを備えても、リビングの中で電源をオンにしたくない不快なデバイスならば使う気になどなれない。

 ソニーの安藤國威社長兼COOは今年のCESでのインタビューで「DVD記録・再生やサラウンド機能を備えたからといって、PCシアターなどと名乗って欲しくない。高品質のAV機器を作るノウハウはそれほど安っぽいものではない」と強い口調で述べたことがあった。言うまでもなく、PCのAV品質はAV家電のそれとは、同じ土俵に乗せて比べることすら難しい。

 「誤解しないで頂きたいのですが、われわれはMedia Center PCがAV家電に置き換わっていくとは思っていません。Media Center PCは、Windows PCに家電ライクな体験をもたらす製品ですが、家電と同じように使える製品などとは思っていませんし、AV家電と同じように使って欲しいとも考えていないのです」

 「もちろん、ユーザーの中にはAV機器の代替としてMedia Center PCを利用する人もいるでしょうし、実際やろうと思えば可能です。しかし大局的に見て、コンシューマーがDVDプレーヤーやオーディオ機器を捨てることはありません。Media Center PCとAV機器は、全く別のカテゴリーにある製品ですから」

 これまでに発表されているMedia Center PCには、通常のデスクトップPC、ノートPC型だけではなく、AVラックにピッタリと収まるAV機器型の製品もあった。これを見て、まさか、PCをそのままリビングに持ち込むことを本気で考えているのか、と懸念したのだが、どうやら杞憂だった。

 MicrosoftはMedia Center PCの目標を、一般的なAV家電とは別の位置に見据えているようだ。ではMicrosoftはMedia Center PCを、どのように進化させていこうとしているのだろうか?



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[本田雅一, ITmedia]

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