News 2003年11月17日 10:59 PM 更新

“デバイス”でプロジェクター画質はどう変わる?

低価格・高機能化が進むプロジェクターが、近年のホームシアター人気を牽引している。その表示デバイスには、用途や価格帯などによってさまざまなものが使われており、ユーザーも迷うところ。都内で行われたセミナーで、AV評論家の麻倉怜士氏がデバイス別のプロジェクター画質の違いについて語った。

 近年のホームシアターブームの一因になっているのが、低価格・高機能化が進む投影式のプロジェクター(フロントプロジェクター)だ。プロジェクターには、用途や価格帯などによってさまざまな表示デバイスが使われているため、ユーザーも迷うところだろう。

 11月17日から都内で催されているホームシアター専門セミナー「ホームシアター2003」で、AV評論家で日本画質学会副学会長の麻倉怜士氏が、デバイス別のプロジェクター画質の違いについて語った。


デバイス別のプロジェクター画質について語るAV評論家で日本画質学会副学会長の麻倉怜士氏


ホームシアター専門セミナー「ホームシアター2003」では、各社のホームシアター向けプロジェクターを同じ映像コンテンツで見比べられるシュートアウトも実施された

 現在、プロジェクターに使われるデバイスは、「透過型液晶」、「DLP(Digital Light Processing)」、「LCoS(Liquid Crystal on Silicon)」、「三管式(CRT)」の4つに大別される。中でも近年、低価格かつ高機能な製品が目白押しなのが透過型液晶方式だ。

 液晶プロジェクターの画質について麻倉氏は「液晶の画質を言葉で表すと“明朗闊達”。明るいだけでなく、コントラスト比も最高で1300対1と高い。特にAPL(平均輝度)の高い場面では、かなりのコントラスト表現をみせる。白ピークがそれなりに出るので、対比的に黒を見かけ上沈ませるダイナミックな映像表現ができる。“ネアカ”な雰囲気の映像が特徴」と述べる。

 透過型液晶のデバイスは、現在、セイコーエプソンの「Dシリーズ(ドリームパネル)」が市場を独占している。

 「セイコーエプソンとともにデバイス供給を競い合っていたソニーが急に撤退してしまったため、現在液晶プロジェクターを出している三洋電機や松下電器などもみなセイコーエプソンのデバイスを使い、液晶プロジェクターの性能の行方は、セイコーエプソン次第という異常な事態になっている。ドリームパネルは確かに素晴らしいが、競争原理が働いてこそよいデバイスが出てくる。非常に残念」(麻倉氏)

 もっとも、デバイスだけでプロジェクター全体の性能が決定づけられるわけではない。

 液晶プロジェクターの中で、麻倉氏がイチオシの松下電器産業「TH-AE500」は、デバイスはセイコーエプソン製を使いながらも、米国ハリウッドのカラーリストと協力して“絵作り”を行うことで映画フィルムに迫る高画質を追及したモデルとなっている。

 「TH-AE500は、液晶らしくない絵作りのプロジェクター。私が“能天気画質”と評する従来の液晶プロジェクターと違い、しなやかで艶やかな映像。担当したハリウッドのカラーリストは、あの映画『ムーランルージュ』を手がけた人。精細感はあるが味わいがないという従来のハイビジョンとは違い、フィルムっぽい“しっとり感”が表現できるモデル」(麻倉氏)

 DLP(Digital Light Processing)は、米Texas Instruments(TI)が開発した反射型ディスプレイ素子「DMD(Digital Micromirror Device)」を使った光学エンジン。透過型に比べて開口率が高いため、高精細で色再現性がよく、高コントラストな画像が得られるのが特徴だ。また、単板で形成できるため、機器の小型化が容易というメリットもある。

 「黒の浮きが少ないのが、ホームシアターとしてのDLPの最大のメリット。DLPプロジェクターがデビューした頃に比べて、画質は格段によくなり、ホームシアター市場でのDLPの地位は確立された。一方、暗部の階調(ビット数)が少ない点や、動画の擬似輪郭ノイズ、単板式ならではのカラーブレーキングノイズが、DLPの3大欠点。だが、近年のモデルはNDグリーンフィルターの効果で暗部階調表現も向上している」(麻倉氏)

 透過型液晶とDLPの“いいとこ取り”を目指したのが、現在話題を集めているLCoS(Liquid Crystal on Silicon)だ。その名の通り、シリコン上に液晶パネルを形成した反射型液晶素子で、透過型に比べて光の損失量が少なく、高開口率/高解像度/高コントラスト/高速応答性と、継ぎ目のない滑らかな映像を可能にする。

 「微細加工によって画素構造が目立たないため、DLP以上に滑らかでスムーズな画質が得られる。また、DLPにはない液晶ならではの階調表現も大きなメリット」

 日本ビクターが独自開発した「D-ILA(Direct-Drive Image Light Amplifier)」や、ソニーが高級ブランド“QUALIA”で出したプロジェクター「QUALIA 004」に採用された「SXRD(Silicon X-tal Reflective Display)」も、LCoSの派生デバイスだ。


LCoSの派生デバイス「SXRD」を採用したソニー「QUALIA 004」

 「QUALIA 004と液晶/DLP搭載モデルと見比べると、同じ映像ソースでもこんなに細やかなグラデーションがあるのかと驚く。特にQUALIA 004の場合は、デバイスとともに(光源に使っている)ピュアキセノンランプの影響も大きい。映画は、フィルムをキセノンランプを通して観ているので、プロジェクターもキセノンランプの効果が画質に表れるのだろう」(麻倉氏)

 以前は“ハイエンドAVマニア御用達”だった三管式プロジェクターも、ソニーや三菱電機など国内メーカーが相次いで撤退し、現在は三管式専業のBARCOぐらいしかないのが現状だ。

 「各社が撤退した三管式は、すでに市場価値はない。だが、自己発光でコントラストがいい点や、階調も素直で誤差拡散の心配もない点、そして白ピークの伸びは他のデバイスには真似できない。プロジェクターで私が重視する“情緒”を表現する機能は、白ピークと黒の沈み。それを両立できるのは、三管式の魅力」(麻倉氏)

[西坂真人, ITmedia]

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