News 2003年12月12日 08:24 PM 更新

CPUに必要なのは「パフォーマンス」より「スループット」

ネットワークシステムに特化したCPUでインテルに対抗するサン。彼らは、ムーアの法則のもと、クロックとパフォーマンスアップにしのぎを削るインテルとは違い、ネットワークのスループットの向上を目指している。

 サンマイクロシステムズ(サン)は、同社が開発を進めている「スループットコンピューティング」戦略に関する国内向け説明会を12月12日に行った。インテルが「ムーアの法則」に従ってCPUのパワーを上げていくのとは異なり、サンはCPUの処理効率を改善し、システム全体におけるパフォーマンスの向上を目指している。

 説明会の冒頭において、スループットコンピューティングの大前提としてサンが主張したのが、すべてのデバイスがネットワークに接続する「ネットワークコンピューティング世界」のトラフィック危機。PCやデジタル家電だけでなく、急増する携帯電話のすべてがネットワークに接続できるようになったおかげで、トラフィックは爆発的に増加している。

 「チケット予約やネット売買の拡大に伴なってバックにあるデータベースシステムには膨大なトランザクションが発生している。このネットワークの渋滞をいかにしてさばいていくかが、現在、最も困難な課題となっている」(ハードウェア製品事業部長 野瀬昭良氏)

 「いまのネットワークではWebサービスが主流になっている。従来型のアプリケーションでは、一つのアプリケーションが一つのプロセスを生成し、一つのスレッドで処理を行っていた。ところがWebサービスになると、複数のアプリケーションで複数のプロセスが同時に動き、複数のスレッドで並列に処理が行われる。このようなWebサービスでは、細かいモジュールが無数に存在している」(野瀬氏)

 このように膨大なトラフィックとモジュールがうごめいているシステムで求められるのは「パフォーマンス」なのか、それとも「スループット」なのか。「1時間かかるシミュレーションを30分で行いたいなら動作クロックをあげてパフォーマンスを向上しなければならない。しかし、1日で100本のシミュレーションを実行したり、100人が同時にアクセスしても応答時間を維持したいならば、パフォーマンスよりもスループットが必要になる」(野瀬氏)

 サンが「パフォーマンスではなくスループットが必要になる」と主張する物的証拠の一つが、メモリボトルネックの問題だ。CPUはムーアの法則に追従して2年で集積度2倍、パフォーマンスも2倍にしているが、メモリの駆動クロックは6年間で2倍のペースで推移しているだけ。CPUのクロックが83%アップしても、システム全体としては20%しかパフォーマンスが向上していない。

 「CPU内部で処理をしてメモリにアクセスするスカラータイプのCPUでは、クロックをあげてCPU内部の処理速度を短縮しても、メモリアクセス時間がそのままなので効果が少ない。処理サイクルの75%がメモリ待ちの時間になっている」(野瀬氏)


サンのスループットコンピューティングの説明でよく登場するCPUとメモリの進化ギャップ。ただし、メモリの速度はメモリバスやDDRIIなどのデータ出力の方法によっても変わってくる

 この解決のために、導入を進めているのが「チップマルチスレッディング」(CMT)だ。インテルのPentium 4で採用されている「ハイパースレッディング」もマルチスレッディングに対応した技術。一つのコアで複数のスレッドを動作させて、CPUの処理効率を向上させる手法だが、サンのCMTは、複数のスレッドを動作させるコアを一つのダイに複数実装するのが大きな特徴だ。

 サンが説明会で提示した、スループットコンピューティング戦略の開発ロードマップには、3世代のCPUがプロットされており、第1世代で2〜3倍、第2世代で15倍の性能向上を目指している。第3世代では実に30倍の相対性能を実現しようとしている。

 これとは別に、CPUのロードマップでは、対象とするシステムの規模ごとに、大規模向けの「s-Series」、アプリケーションサーバ向けの「i-Series」、ブレードクラスタ向けの「h-Series」の三つのラインが用意されている。このうちCMTに対応した初めてのプロセッサとしてs-Seriesの「Ultra SPARC IV」が2004年の初めに登場する予定。相対性能は従来の2倍になる見込みだ。


CMTにおけるスレッドの概念。単一のスレッドを処理できるコアを複数用意するCMP(Chip MultiProcessing)と一つのコアで複数のスレッドを動作させるSMT(Simultaneous Multithreding)を組み合わせて、複数のスレッドを処理できるコアを複数実装したのがCMT(Chip MultiThreding)となる


プロセッサ世代のロードマップ。相対性能が今の30倍にも達する第3世代プロセッサの登場は4〜6年先になる見込み


CPUのロードマップ。GeminiとUltraSPARC Vはコアを二つ実装する予定だが、相対性能はそれぞれ3倍と5倍となっている。これについては「クロックの向上や内部構造の改良で実現する」(野瀬氏)と答えている

 サンは、11月に発表されたAMDとの「戦略的提携」についても説明を行った。11月に発表された提携では、サンが2ウェイ、4ウェイのOpteron搭載サーバを市場に投入し、Solaris OSとJava EnterpriseのOpteron最適化と64ビットモード対応を進めることになっている。

 サンがOpteronサーバを投入するという話を聞いて「SPARCとSolarisをやめるのか」という反応が多かったそうだが、「サンがSPARCとSolarisをやめることは100%ない」と同社プロダクト・マーケティング本部長の山本泰典氏は明言する。

 「Opteronサーバは、はっきり言ってインテルの32ビットCPUがターゲット。インテルの32ビットCPUは全面的なリプレースを行わないとIA-64の世界に入っていけない。32ビットと互換性のあるAMD64は、IA-32の正統な後継といえる」(山本氏)

 すでに、中国ではAMD製CPUとJavaを組み合わせたシステムが50万台導入されている。「これはWindowsマシンのリプレースだ。将来的には2億台導入することになるだろう。AMDとの提携でサンのビジネス領域は広がっている」(山本氏)


山本氏の手書きによる「SPARCとOpteronの棲み分け」チャート。サーバ市場では8ウェイ以上のシステムにSPARC、1〜4ウェイでは「マルチスレッドはSPARC。シングルスレッドはOpteron」。デスクトップ市場ではエンジニアリング向けにSPARC、オフィスユースには「IA-32のリプレースでAMDのCPUを導入する」(山本氏)。ただし「Athlon 64」という固有名詞が山本氏の口から出ることはなかった

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[長浜和也, ITmedia]

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