実は、PCで一番重要なパーツは、全てのデータを保存しているHDD。PCを使用しているほとんどの人が気にしたこともないと思うが、HDDは消耗品なのである。人で言う、病気やけがと同じように、HDDも突然何の前触れもなく壊れてしまう。そんな時に大事なデータを復旧してくれるHDDの“医者”は技術力の高さと対応の確かさで選びたいもの。HDDを知り尽くし、データ復旧業界トップシェアに急成長した日本データテクノロジーの工場を訪問した。
できればお世話にならないほうが良いけれど、いざという時に必要になるプロフェッショナル──といえば、「医者」である。
PCにもそんな「医者」のような存在がいることをご存じだろうか。
総務省発表の2008年度のデータによると、国内のPC普及率は85.9%にも上り、生活に欠かせないものとなっている一方で、壊れやすいエレクトロニクス製品の代名詞でもある。そのPCの故障原因の半数は、心臓部とも言えるHDDで発生する。
厄介なのが、HDD製造メーカーとPCメーカーが異なること。そのため、仕事上の重要データや思い出の写真データなど、壊れたPCから中に入っていたデータの復旧はPCメーカーではサポート外なのである。
「PCが動かない」「中のデータが見られない」そんな事態に見舞われた時に、救いの手を差し伸べてくれるプロフェッショナルが、データ復旧であり、そしてデータ復旧技術者である。
人間の医者でも、HDDの医者でも、頼りになるのは技術力。高い技術力、迅速な対応、そして、お客様のプライバシーを守るためのセキュリティ対策を重視したサービスで、データ復旧市場国内シェアトップに急成長した日本データテクノロジーの銀座工場を訪問した。
高級インポートブランドの路面店が立ち並ぶ東京・銀座並木通りのビルにある日本データテクノロジーには、「PCのデータが見られない」「ハードディスクから変な音が聞こえる」といった問い合わせが1日に約150件かかってくる。
「日本データテクノロジーの出発点は、社内で使っていたHDDの故障だった」と、データ復旧事業部の総責任者・森茂雄さんは振り返る。
その時、故障修理をPCメーカーに問い合わせたところ「HDD内のデータは復旧できない」と言われたものの、業務に必要なデータだったため、専門業者に復旧を依頼。だが当時の専門業者は職人肌の技術者が多く、見積もりもなかなか出ず、納期もはっきりとせず、電話でもこちらの話を聞いてくれないという対応ぶり。「『IT業界の医者』なのに対応が悪い。世間にも自分たちと同じように困ってる人が多くいるのではないか」と、データ復旧業界に参入。4年前に2人からスタートした日本データテクノロジーは、今では延べ150人で取り組むビジネスに成長した。
「最初は技術を持っていなかったが、絶対に必要」と、森さんは世界各国をまわり、欧米などで最新の技術を習得してきた。例えばRAIDの復旧技術はアメリカ、イギリス、ロシアから学んだという。
HDDの復旧には「論理復旧」と「物理復旧」の2つがある。論理復旧とは、データそのもののトラブルシューティングだ。OSやファイルシステムの異常などでデータがおかしくなったケースで、人間に例えると病気、つまり“内科”の治療だ。
軽度な場合、市販品やフリーで出回っている一般的なソフトウェアで治せることもあるが、使用することで逆に悪化するケースもあるので注意が必要とのこと。簡単には治せない場合、バイナリレベルでセクタを見て、データの誤りを調べて書き換えていく──といった作業も必要になるという。RAIDで複数のHDDにストライピングしたデータ復旧も難易度は高くなるが可能だという。
しかし、このような内科治療は依頼件数全体の3割。残りの7割は、難しいとされる外科治療(物理復旧)が必要とされるのである。
もはや誰もが使うようになったHDDだが、その中身は精密実装技術の固まりだ。例えばデータを読み書きするヘッド部分は、データを記録するプラッタ(ディスク)からほんの10ナノメートルしか離れておらず、さらにプラッタは毎分7200回などのスピードで高速回転を続けている。ある部品メーカーのCMで、ヘッドとプラッタの関係を「ジャンボジェットが地上すれすれに飛んでいる」と表現していたのをご存じの方も多いだろう。
耐衝撃性の向上などもあり、最近のHDDは故障しにくくなってはいるが、「HDDが消耗品だということを認識している人は少ない」(森さん)。経年劣化などは避けられず、トラブルは突然発生してしまう。復旧依頼が多いのは、新しいものよりも3〜5年前に作られたHDDであることが多いという。
例えば、PCから「カチカチ」「カチャカチャ」といった音が聞こえ、PCが正常に動かなくなるといった場合、HDDが物理的に故障している可能性が高い。そこで大急ぎでデータをバックアップしようとしたところ、バックアップ中に完全に停止してしまった──といった場合はもうHDDを物理的に復旧するしかない。
「HDDは奥が深い……始めは物理復旧といっても、単純に部品を交換すればそれで済むと思っていた」と森さんは話す。HDDの“開腹手術”、つまりバラすだけなら、東京・秋葉原などで専門器具を買ってくるなどすれば可能だ。だがデータの復旧となるとそうはいかない。HDDの動作をコントロールする基板と半導体チップだけでも数十万種類あるという。同じメーカー、同じ型番のHDDでも、製造国や工場によって調達している部品が違うこともあり、部品の整合性が合わなければ基板だけを交換しても動かないのだという。
こうした基板など換えパーツのことを、同社では移植手術になぞらえて「ドナー」と呼んでいる。物理復旧を完璧にこなすには、過去に市場に出回った全てのHDDに対応できるようなドナー探しが不可欠だ。さまざまなルートでドナーの入手を続け、現在、工場があるビルの地下倉庫には数万台のHDDをストック。「メーカーよりあるかもしれませんね」と森さんは話す。こうしたリペア技術は、モノを使い捨てがちな欧米ではなく、ジャンク修理に長けたアジアで学んだという。
だが部品がそろえば治せるというわけでもない。精密なHDDにとって、プラッタについたほこりですらも命取りになる。そこでクラス100の高性能クリーンルームを工場内に設置し、ちり1つないデータ復旧環境を構築した。銀座とクリーンルームの取り合わせは何とも妙だが、これも物理復旧には欠かせない。
プラッタを外して正確に元に戻す技術、プラッタを高速回転させるモーターを換装する技術──物理復旧の奥深さは、HDDというITインフラの奥深さそのものだ。例えば同じメーカーの同じ型番のものが同時期に複数台持ち込まれることもあるという。製造ロットに何か問題があったりしたのではないか──こんなこともデータ復旧の現場からは見えてくる。
必要なのはHDD本体の知識だけにはとどまらない。Serial ATAはもちろん、すでに使われなくなってきたIDE、SCSIやサーバ用のFibreChannelなど、あらゆるストレージ系インタフェース技術に通じていなければデータの吸い出しもできない。
トップシェアであることの強みは、単なる営業上のメリットにとどまらない。データ復旧を手がければ手がけるほど、HDDに対する知識やノウハウを多く蓄積でき、さらに技術力も向上できる。技術力が上がれば、さらにユーザーに満足してもらえるデータ復旧が行える──という好循環が期待できるというわけだ。
日本データテクノロジーは、HDD復旧の迅速さと、誰にでも分かりやすい説明を第一に掲げてきた。1秒でも早く1件でも多くのデータを取り戻して安心してもらいたい。料金も納得のいくものであってほしい。そんなユーザーの要求に応えられるのも、高い技術力の蓄積と、実績が培ってきた自信があってこそ。持ち込みにきたユーザーは自由に工場見学も行える。技術をクローズドにしがちな業界だが、蓄積したノウハウと知識までは見るだけでは盗めない。むしろオープンにすることで、顧客の信頼感が増すという考え方だ。
「ハイテクのように思われますが、実はローテクな手作業が多い。こうした1つ1つの手作業がかけがえのないデータを取り戻すのです。ユーザーさんのHDDは世界に1つしかない宝物ですからね」と話す森さん。業務上のデータや、撮りためてきた家族の写真やムービー。大切なデータを救ってきた仕事への誇りがうかがえた。
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