「総務人事部には、全国200店舗以上の拠点で働く社員からさまざまな問い合わせが寄せられていました。特に年末調整や健康診断の時期になると1日当たり50件以上、電話での問い合わせがあり、それを1つの部署の1〜2人で対応していました」
そう話すのは、ベルパークの牛尾圭佑さん(営業本部 営業推進部 営業企画グループ 課長)。頻発する社内問い合わせ、それも同じような相談の対応に追われ、本来取り組むべき業務にリソースを割けない――こんな課題を抱えている企業の部署は少なくないはずだ。
全国に携帯電話のキャリアショップを展開しているベルパーク(東京都千代田区)の総務人事部もその一例だった。勤怠締め切り、評価、年末調整などのタイミングで電話での問い合わせが殺到し、担当者がその対応に追われ、通常業務に支障を来すことがあったという。
そこで2018年8月半ば、AI(人工知能)技術を活用したチャットボットを全社員向けに導入したところ、電話での問い合わせを5〜10件に激減させることに成功。一方、AIチャットボットへの問い合わせは1カ月当たり700〜900件と、継続的に利用されている。導入したのは、ジェナ(千代田区)が提供しているAIチャットボットサービス「hitTO」(ヒット)だ。
AIチャットボットを導入したきっかけは、ベルパークの西川猛社長の“鶴の一声”だった。西川社長から「AIなどの新しいテクノロジーを積極的に採用していこう」というメッセージを受け、牛尾さんら、営業企画グループが担当を任された。同グループは、社内業務の効率化にも取り組んでいる。
牛尾さんらは「どんなAI技術を、社内のどの業務で活用できそうか」を検討していく中で、総務人事部の問い合わせ業務に注目した。社員約1700人を抱えるベルパークの会社規模からすると、少数精鋭の部署だ。牛尾さん、井村裕之さん(営業企画グループ 係長)らは、AIチャットボットを導入するに当たり、複数のベンダーの製品を比較・検討。AIエンジンにIBM Watsonを活用していることや、導入実績の多さ(約100社)が決め手となり、ジェナのhitTOを選んだ。
ただ、井村さんは「AIに関する知見は、ゼロでした」と振り返る。AIを使って何ができるのか、全く分からないところからのスタートだったという。「導入を担当することにはなりましたが、そもそもスケジュールが立てられませんでした。どのようなデータが必要かも分からない中で、上司に『いつ公開になるのか』を説明できないといけません」(井村さん)
そこで井村さんらに代わって、ジェナが具体的なスケジュールを立て、AIに学習させるデータの作成も“代行”した。「『何週目にどれくらいの工数がかかる』といったスケジュールがしっかりと定まったので有難かったです」(井村さん)
まずベルパーク内で、各店舗の社員(問い合わせる側)と総務人事部(問い合わせに答える側)の双方にアンケートを実施。その結果に基づき、想定される質問と答え(Q&Aデータ)を100件分用意した。
Q&Aデータは、勤怠や福利厚生などに関する質問が中心。回答内容は見出しなどを短くまとめ、総務・人事が別に用意しているポータルに遷移するURL(リンク先)も掲載し、詳しい内容はそちらで確認してもらうようにした。このQ&Aデータをジェナが受け取り、IBM Watsonのフォーマットに則した学習データに仕上げた。
だが、AIに投入するデータが完成したので、すぐにリリース……とはいかない。ここから約3カ月間、回答精度を上げるために作り込む期間を設けた。ベルパークの営業企画グループと総務人事部で内部検証しながら、ジェナの協力のもと学習データをチューニング。ジェナが提供するテスト用の質問も使い、精度を確認した上で、誤った回答内容を修正したり、正しい回答にひも付け直したりするのを繰り返した。
18年8月に社内全体に公開。1カ月後の正答率は約80%と高い水準のAIチャットボットの構築に成功した。井村さんは「ジェナさんの協力なく公開していたら、失敗していたでしょう」と振り返る。「重要な構築段階で、回答精度の低下につながる類似質問の精査など、100件のQ&Aデータを1件1件、ジェナさんで確認してくれたことは非常に心強かったです」(井村さん)
こうした精度向上と同時に進めたのが、社員にAIチャットボットを認知してもらい、使い続けてもらうための社内向けプロモーションだ。「AIチャットボットは導入後、どうしても徐々に利用率が下がってしまう傾向がある」――ジェナからそんなアドバイスを受けたベルパークの阿久津孝尚さん(営業企画グループ 係長)は、すでにhitTOを導入していた他社の事例を参考に、オリジナルキャラクター「ベル助」を作成した。
阿久津さんは「なじみを持たれるものにしよう」と考え、キャラの世界観を作り込んだ。AIチャットボットとのトーク画面でオリジナルキャラのアイコンを使うだけでなく、回答の語尾や一人称もアレンジ。さらに社内で申請を出し、キャラを“実際の社員”として入社させ、会社の組織図にも掲載した。この他、ベル助を紹介する社内向け動画やポスターも制作するほど、熱を入れて取り組んだ。
こうした社内へのプロモーションが奏功し、AIチャットボットは順調に社内に浸透。社内では、AIチャットボットをキャラの名前「ベル助」で呼ぶ人も多いという。
ジェナの東田悠希さん(AIソリューション事業部カスタマーサクセスチーム リーダー)は「(キャラを作成することは)AIチャットボットを社内で定着させるための“必勝パターン”です」と強調する。ジェナでは、カスタマーサクセスチームが主導となり、導入後のユーザーのサポートやAIチャットボットのデータ構築の支援などを行なっている。また、導入企業が互いにノウハウを共有できる機会もセッティングしているという。
ベルパークがAIチャットボットの運用を始めてから約4カ月、ハッキリとした成果が出ている。総務人事部への問い合わせの電話は、導入前だと1日当たり30〜50件はあったが、現在は5〜10件ほどに激減している。
牛尾さんは「電話での問い合わせの質が上がりました」とも話す。それまでは“調べれば分かる”ような問い合わせが多かったが、導入後はマニュアルでは解決できないものや、どうしても個別に対応しなければいけない相談が占める割合が増えたという。「調べれば解決できるレベルの質問なら、総務人事部の時間を使わなくてよくなったことは意義があると思っています」(牛尾さん)
一方、AIチャットボット経由で寄せられる質問は、1カ月当たり700〜900件ほど。中には「どうすれば給料が上がる?」「どうすれば昇格する?」といった、電話では相談しづらい内容も多いという。社員が聞きづらいことを気軽に質問できることは会社全体の生産性向上にもつながる。
正答率は96%(18年12月時点)にまで向上した。hitTOでは、利用者が回答の内容に対し、GoodかBadのボタンを押したり、コメントを投稿したりして評価できる。こうしたフィードバックの内容は管理画面でチェックが可能だ。井村さんは毎日15分程度、誤った回答を修正するなどメンテナンスを行い、精度向上に努めている。
さらに、利用率を上げる取り組みも進めている。hitTOと「G Suite」を連携させる機能を導入し、社員が自身のG Suiteのアカウントでチャットボットに問い合わせできるようにした。これまではセキュリティ対策の観点から、社内のネットワーク環境からしかアクセスできないようにしていたが、G Suiteとの連携機能によって、移動中の隙間時間や休日でも相談ができるようにした。利用者数は日によっては約3倍になったという。
牛尾さんは「社員ごとにG Suiteのアカウントを発行しているので、退職すると使えないようにできます。そのため、営業部門のノウハウなど社外に出したくない情報も問い合わせ内容に盛り込めるようになりました」とメリットを説明する。
ジェナの五十嵐智博さん(取締役 AIソリューション事業部 プロダクトマネージャー)は「今後は、企業内でAIチャットボットを適用できる領域を増やすことを目指しています。現在はバックオフィスの問い合わせ対応業務での活用が多いですが、例えば営業部門の売上向上につながる支援など、社内のあらゆる部署にAIチャットボットを“配属”できるようにしていきたいです」と意気込んでいる。
「AIチャットボットは業務効率化ツールに見えがちですが、企業全体の生産性を向上させるサービスになることを目指しています」(五十嵐さん)
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アイティメディア営業企画/制作:ITmedia NEWS編集部/掲載内容有効期限:2019年2月23日