デジタル・トランスフォーメーションの行く末 Dell Technologies 日本 最高技術責任者 黒田氏に聞く

成長や競争力強化のためにデジタル技術を活用するデジタル・トランスフォーメーション。いわゆる「2025年の崖」など多くの課題も指摘されているが、Dell Technologiesの日本 CTO(最高技術責任者)を務める黒田晴彦氏は、デジタル変革は「人に幸せをもたらす」と胸を張る。ITmedia エグゼクティブの浅井英二が話を聞いた。

» 2019年06月12日 10時00分 公開
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 将来の成長や競争力強化のため、新たなデジタル技術を活用するデジタル・トランスフォーメーション(DX)。多くの経営者はその必要性を理解しているが、実現には多くの課題がある。それを克服できない場合、2025年以降に年間で最大12兆円の経済損失が生じる可能性がある——2018年9月に経済産業省が公開した「デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会」の中間報告が示した、いわゆる「2025年の崖」だ。

 しかしDell Technologiesの日本 CTOを務める黒田晴彦氏は、デジタル技術による変革が人にもたらすものは「幸せ」という。黒田氏は1980年に三井物産に入社し、36年間にわたって経営改革推進部IT戦略企画室長、IT推進部副部長など要職を歴任。2016年にデル日本法人に転籍してからは同社が提供するエンド・ツー・エンド・ソリューションの展開を統括してきた。大企業の“Chief IT Architect”としてデジタル技術の進歩をつぶさに見てきた黒田氏は、現在の変革をどう捉え、顧客企業に何を提供しようとしているのか。同じく長年IT業界に携わってきたITmedia エグゼクティブの浅井英二が聞いた(以下、敬称略)。

Dell Technologiesの日本 最高技術責任者を務める黒田晴彦氏(写真=左)、ITmedia エグゼクティブの浅井英二(写真=右)

浅井:黒田さんは長年商社で働かれ、ITによる変革を何度も経験されてきたと思いますが、最近のデジタル変革をどう見ているのか、教えていただけますか?

黒田:コンピュータを使った新しい取り組みは常にありました。1980年代はメインフレームなどの大型コンピュータやオフィスコンピュータの時代でしたが、1990年代にWindows 95が登場してデジタル技術が個人にまで行き渡り、インターネットにつながる基盤ができました。2000年以降は企業と個人の両側でデジタル技術が普及しています。

 大きな違いは、個人が「それまでできなかったこと」もできるようになったことでしょう。単にSNSで声を上げるといったことではありません。例えば身体的なハンディキャップを抱えた人たちもデジタル技術で多くの困難を乗り越えられるのではないかと考えています。

 先日、米国ラスベガスで開催した「Dell Technologies World 2019」(DTW)で、こんな事例が紹介されました。先天性四肢障害で生まれてきた英国Dell EMC社員のお嬢さんの話です。彼女は生まれつき左手がありません。映画「ピーター・パン」に登場するフック船長のような“かぎ爪”の形の義手を装着していました。

「Dell Technologies World 2019」の様子。生まれつき左手のないお嬢さんのために義手を作った事例が紹介された

黒田:そんな彼女のことを知った関係者たちは、「いまのデジタル技術なら従来より低コストで義手を作れるのではないか」と考え、ワークステーションと3Dプリンターを使って実際に義手を開発しました。ちゃんと指を動かすことができる義手を低コストで作ったのです。

ワークステーションと3Dプリンターを使って開発した義手

黒田:完成した義手を彼女にプレゼントすると、とても喜んでくれたのですが、そこで終わりではありません。彼女と同じ境遇にいる子ども達のコミュニティが3Dプリンターで作られた義手のことを知り、「自分たちも作る側になりたい」と学び始めたのです。

 1つの試みが小さな女の子を助け、多くの人たちに良い影響を与えました。デジタル技術が一人一人の幸せにつながる、そんな世の中になりました。

人工四肢提供コミュニティの関係者たち

浅井:かつて“もの作り”といえば、長年の研究開発と磨かれた製造技術があって、ようやく成し遂げられるものでした。いまはテクノロジーによって、スピーディーに課題を解決できる時代になろうとしているのですね。

黒田:はい、従来の技術ではコストがかかり過ぎて手が届かなかった物が、デジタルを活用することで、手に入れやすくなってきたものと思います。

 もう1つ、印象に残ったのが自閉症の男の子の話でした。その子は、人の表情から感情を読み取ることができない、という障害を抱えていました。

 ある臨床試験で、お母さんは、ヘッドマウントディスプレイを男の子にかけさせました。それはカメラの画像から人の顔を検知し、表情を読み取って「SURPRISED(驚いた)」「Happy(幸せ)」のように感情を表示するというものです。

 ヘッドマウントディスプレイをかけると、男の子はお母さんの表情と感情の関係性が読み取れるようになり、お母さんの目を見ていろいろな会話を始めます。お母さんは「子どもとこのように会話をするのは初めて」と嬉し涙を流しました。それを見た男の子は「なぜ泣いているの?」と問いかけます。「それは、あなたが以前と違うと思えるから」

黒田:注目したいのは、表情を識別するそのアプリは、iOSやAndroid上で誰でも無償でダウンロードできる、ということです。

 人の脳は、フィードバックによって学んでいくため、このアプリの利用を通して、症状の改善も期待できるそうです。身近で使えるソフトが自閉症のお子さんの症状改善に貢献できる、デジタルの力で世界が変わりつつあると実感しました。

浅井:以前、日本で骨伝導技術を開発しているメーカーを取材したことがあります。鼓膜を介さずに音を伝える技術で、生まれつきの障害で音に無縁だった人が初めて音を感じ、使い続けることによって感じる機能が改善することも報告されています。今後は、生活のさまざまな部分でデジタル技術の恩恵を受けることができるかもしれません。

黒田:災害対策に関わる事例もあります。昨年11月、米国カリフォルニア州で大規模な火災が発生したことはご存じでしょう。1万8000軒もの家や建物が焼き尽くされたのですが、そこには化学物質が保管された建物もありました。

 火災の後、焼け跡を調査したカリフォルニア州立大学のJack Webster教授は、ヒ素や鉛、水銀、カドミウムなどの有害物質に土壌が汚染され、雨などによって汚染地域が拡大するリスクが高いことを知ります。

カリフォルニア州立大学のJack Webster教授

黒田:対応は急務。ですが、被災地が広大すぎて対策の立案が容易ではありません。ここで協力を始めたのが、マサチューセッツ州ケンブリッジにあるDraperという企業。

 高度な画像処理技術を持つDraperは、AI(人工知能)を活用して、火災前後の被災地の衛星写真の分析を行いました。どこに有害物質が存在し、有害物質がどこで川などの水路に入りこみ、どのように汚染地域が広がっていくのかを予測し、対処方法の策定に大きく貢献しています。デジタル技術は、人々を脅威から守ることにも大いに活用されていると知り、とても感心しました。

浅井:国連でも、より良い世界をつくるため、さまざまな課題解決にテクノロジーが大きく貢献するのではないかと期待が高まっています。地球規模の課題解決を目標に掲げ、AIなど最新技術を手掛ける企業や組織が増え、事業体として収益も上がるようになると、さらに取り組もうとする人も増えて良い循環ができていきます。

黒田:本当に困っている人たちをなんとか助けたい、そんな“思い”にデジタル技術で応えることができる時代になりました。

「現場力」がビジネスを変える

浅井:デジタル技術は大きな可能性を秘めています。志を持つ企業や事業体がデジタル変革を目指したとき、どのようなアプローチが考えられるでしょうか。

黒田:順調に進んでいるビジネスの変革は容易ではないと思います。好景気が続き、業績が好調だと変革のトリガーは見つけにくいのではないでしょうか。しかし、例えば5年後に(強大な外資などの)黒船がやってくる、10年後に業界のビジネスモデルに影響する脅威が待っていると考えると、着手へのモチベーションとなります。

 例えば自動車業界では、EV(電気自動車)や自動運転技術などの大きな波があり、経営者自ら将来の課題を見据えて行動しています。そして社員も「やらねばならない」という意識を共有していると思います。

浅井:しかし、会社組織で働いていると、「うまくいっている方法を変える必要があるのか」と考えてしまいがちです。

黒田:確かにそうですが、まずは「変革」を整理して考えてみるといいでしょう。デジタル変革には、大きく分けて次の2つの領域があります。

 一つは「人」です。社員という切り口もあれば、パートナーや顧客という場合も考えられます。よく知られている将来の危機として、少子高齢化による人手不足が挙げられます。いまでもパートやアルバイトがなかなか集まらない状況なのに、5年後、10年後はどうなるのでしょうか。

 もう一つの領域は「ビジネスモデル」そのものです。いまのビジネスモデルは今後も通用するのか。コンピュータのコストが将来的に現在の100分の1、1000分の1になったとき、もっと活用してビジネスを広げることを考えられるのか。自分の会社が置かれている環境で、2つの領域で何をするのか考えてみるといいでしょう。

浅井:義手の事例からも分かるように、大きな組織ではなくても、個人やコミュニティがテクノロジーを活用することで、以前はできなかったことが可能になる時代です。企業で働く人も一人ひとりの立場で考えてみることが必要です。そこはポイントですね。

黒田:日本中でさまざまな取り組みが進んでいますが、「現場力」で課題解決を目指している領域の一つにロジスティクス分野があります。人の労働力が必須で、支えている人の多くはパートやアルバイト。今でも人手不足が深刻なのに5年後はどうなるか。

 あるメーカーでは、製品を倉庫に保管するため、4人の作業員が夕方から翌日の昼まで働いていました。今は問題ありませんが、将来も雇い続けられるか(募集に人が集まるか)分かりません。そこに危機感を持ったロジスティクスの責任者がウェアハウスにピッキング作業用ロボットを導入し省力化を強力に推進、夜間の完全無人化に成功されました。

 しかも、それまでは4人で昼までかかっていた作業が、ロボットによって朝までに終わり、すぐに製品を出荷できるようになり、大きな変革を成し遂げています。ビジネスのボトルネックになっていたロジスティクスの課題をデジタル技術で解決した好例だと思います。

デジタル技術と「現場力」が課題解決の鍵になるという黒田氏

浅井:現場にはさまざまな課題があるはずです。デジタル技術でそれらが解決でき、より良いものに変えられるかもしれません。自分の持ち場で果敢にトライして上手くいけば、会社全体を活性化していけますね。

黒田:物理的に労働力不足を解決するために、ロジスティクス分野ではピッキング作業に加え、ラックを自動で運ぶGTP(Goods to Person)型ロボット、人がピッキングをする場所で共同作業をするAMR(Autonomous Mobile Robot)型ロボット、さらには工場で製品の良品・不良品判別を人に代わって自動化するためのAIも利用が始まっています。

 また、医療現場へのIoT、AI、VR/AR導入による医師の作業支援など、単純労働の省力化のみならず、高度な専門化作業を支援する技術も開発が進んでいます。

 VR/ARは、もはやゲームの枠組みを超え、教育・トレーニング・体験等のビジネス分野への事例が増えていて、ARによる自動車保守作業支援、VRによる鉱山用ダンプトラックの自律走行体験、VRでの「まちおこし」、VR/ARの介護への活用なども行われています。

浅井:デジタル変革というと、MaaS(Mobility as a Service)が新たな潮流になりそうな自動車業界が頭に浮かびますが、ビジネスモデルが大きく変わる事例も増えていますね。

黒田:自社のコア技術を他の業種へ転用し、ビジネスモデル自体を変えている事例として、McLaren(マクラーレン)があげられます。彼らは、F1レースで培ったデータの分析技術を用いて医療業界でビジネスを始めています。また、デル自身、3年前にEMCと統合してDell Technologiesとなり、大きく自社を変革しています。ハードウェアとソフトウェアを組み合わせてソリューションを提供できる会社となって、先日Dell Technologies Cloudもアナウンスするなど、グループの総合力でお客様の変革を支援する会社になっています。

デジタル変革期に情報システム部門が果たす役割

浅井:黒田さんは情報システム部門で長年の経験をお持ちですが、企業が情報システム部門に期待する役割も時代によって変わっています。デジタル変革の時代に情報システム部門の人たちは何をするべきなのか、教えてください。

黒田:デジタル変革では、テクノロジーを知るシステム部門は非常に重要な存在だと思います。プロとして新しいデジタル技術を理解し、自社で利用できるソリューションを市場から見つけ出して、経営・現場と一体化して変革を進める。未来に向けて会社を「こう変えよう」と提案していく役割を担う組織ではないでしょうか。

 旧来の「情報システム部」といった部署名を「デジタル推進部」などに変えている例も多々お見受けします。もちろん従来の名称のままでも問題はありませんが、世の中が変わったことを社内に知らせ、デジタル変革に関する“気づき”を与え、積極的に取り組む部署になってほしいと思います。

浅井:システム部門の方々はデジタル変革における主役中の主役ですね。社内をリードしなければならない責任があると思います。DTWで発表された多くの新技術やサービスにも情報システム部門を支援できるものもあると思います。教えていただけますか?

黒田:情報システム部門の中でもインフラを扱う方々は、機器の構成を組むところからパッチを当てる作業まで、幅広い仕事をしなければなりません。例えば新しいBIOSがリリースされたら、影響範囲を確認してBIOSの更新を行い、必要に応じて、OS、ハイパーバイザー、データベース等の更新も行っています。さまざまなソフトが関係し、人手と手間のかかる作業です。自社では大変なため、委託先に作業をアウトソースしている例も多いと思います。しかし、それらは本質的な企業活動とは遠い部分なので、できるだけ私共が必要な検証作業を行って効率化し、情報システム部門・委託先のインフラ担当者の方々には、より上位の作業にシフト頂きたい、というのがDell Technologiesの考えです。

 また、従来のDell EMCとVMwareのクラウド戦略を組み合わせた「Dell Technologies Cloud」というコンセプトをアナウンスしました。オンプレのDell EMCの機器が、今後はクラウドの司令塔になっていく、という考えです。VMware Cloud Foundationを活用して、Edge、Private Cloud、Public Cloudを統合して活用できるようになります。DTWの基調講演にはMicrosoftのSatya Nadella CEOも登壇し、Dell Technologiesとの連携を発表しています。

 次にWorkforce Transformationの観点から、「Dell Technologies Unified Workspace」をアナウンスしました。従来、情報システム部門はPCのハード・ソフトを個別に購入し、設定・運用してセキュリティ管理を行っているわけですが、これらの導入・運用・保守等を統合しサービス化して提供するものとなります。

 「AI」についても、Ready Solutionを提供します。データサイエンティストがAIを使用するためにはまず環境設定をしなければなりません。実際のデータ分析を行う前に、インフラの導入、必要なソフトウェアの設定、データ投入環境の準備など、煩雑な作業が必要でした。Dell Technologiesはここを自動化する「Ready Solution for AI」をアナウンスしています。データサイエンティストの方々には、できる限り利用に集中頂きたいと考えています。

浅井:デジタル技術で人々の生活が変わろうとしている今、企業の情報システム部門に期待されることを聞いてきました。プロ意識を持ち、感度と目線を高くして会社をリードする。そしてDell TechnologiesはマルチクラウドやAIを「すぐに始められる」ように支援するというお話でした。

黒田:デジタル変革の時代、新しいシステム部門像が描かれ始めていると思います。デジタル技術の活用が企業の競争力に直結しつつある今、システム部門の人材の変革も必要になるかもしれません。その場合、新しいことに取り組む「好奇心」と、新たな一歩を踏み出す「勇気」が重要になると考えます。是非システム部門の方々が、課題解決の突破口を見出して頂ければ、と思います。

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提供:デル株式会社
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia NEWS編集部/掲載内容有効期限:2019年6月25日