『天気の子』の美しい美術背景を描く大容量データ 処理を支えるワークステーションは高速・安定稼働が鍵に

» 2019年09月24日 20時00分 公開
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 2019年7月19日に公開されたアニメーション映画『天気の子』。日本映画の歴代興行収入第2位を記録した前作『君の名は。』から3年ぶりとなる新海誠監督の新作映画とあって、公開前から各メディアやSNS上で大きな注目を集めていた。

photo ©2019「天気の子」製作委員会

 そんな期待を裏切ることなく、公開からわずか1カ月あまりで興行収入は100億円を突破。歴代邦画の記録に残る大ヒットを続けている。さらに20年2月に開催される米国アカデミー賞国際長編映画賞の日本代表作品にも選出された他、世界140の国と地域でも順次劇場公開が始まるなど、海外からの評価も高い。

『天気の子』の美術背景は“新海誠ワールド”の真骨頂

 そんな新海監督が手掛ける作品の魅力といえば、ストーリーもさることながら美術背景の美しさは外せない。『天気の子』の題材になっている空や雲、雨といった自然現象の描写はもちろん、作品の舞台となる東京の街並みは、ビルの一つ一つから街路樹、細かな看板や道路標識まで、現実世界と見紛うほどの緻密さで観客を圧倒する。

photo ©2019「天気の子」製作委員会

 フィクションでありながら、どこか現実と地続きの世界に感じられる──そんな“新海誠ワールド”とも表現すべき世界観を構築する美術背景には、新海監督と制作スタッフの並々ならぬ強いこだわりが感じられるが、制作現場を支える要素の一つに、日本HPのワークステーション「Z」シリーズがある。

どのような制作工程で日本HPのワークステーションが活躍していたのか。『天気の子』を制作したコミックス・ウェーブ・フィルムで、CGチーフを務める竹内良貴さんに話を聞いた。

photo コミックス・ウェーブ・フィルムの竹内良貴さん

シーン全体の4分の1のカットで使われた3DCG

 竹内さんが所属するコミックス・ウェーブ・フィルムは、07年3月に設立したアニメーション制作会社。前身となるコミックス・ウェーブ時代から新海監督作品の制作・配給を行い、新海監督をはじめとする作家のマネジメントも行っている。竹内さんは『秒速5センチメートル』をはじめとするほとんどの新海監督作品に携わり、『君の名は。』『天気の子』ではCGチーフとして作品を支えてきた。

 竹内さんは新海監督が作った「ビデオ(V)コンテ」と呼ばれる“アニメーションの設計図”が新海誠監督が手掛けるアニメーション制作のスタート地点にあると説明する。

 「新海監督は制作過程の早い段階でVコンテを作ります。Vコンテは絵コンテの動画版で、監督自身が仮で吹き込んだせりふやSE(効果音)も収録されています。私たち制作スタッフは、このVコンテを参考に美術背景を作り始めます」(竹内さん)

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 Vコンテでは、新海監督が思い描く映像カットのレイアウトや動き、テンポが表現されている。新海監督と制作スタッフは「どのようなカメラアングルで美術背景を描いていくのか」など、Vコンテを基にして決めていく。

 その後は「複雑なものも簡略化せず緻密に描き、リアリティーを持たせる」という新海誠ワールドの特徴を知り尽くした制作の現場に委ねられる。ここからが制作スタッフの腕の見せどころだ。

 彼らは「今の東京の姿をアニメーション映像の中にそのまま残したい」という思いを胸に、背景のモデルとなる都内各地を実際に巡って写真に収める。『天気の子』に登場する東京都心部を高いところから見下ろすシーンを制作するため、ヘリコプターに乗って上空を旋回する空撮も行った。

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 「その写真を参考にして美術担当が美術背景を描き、私たちCGチームは3DCGで立体に起こしたりします。『天気の子』では全編約1700カットのうち、およそ4分の1のカットで3DCGが使われています」(竹内さん)

大容量データ処理をこなすためのマシン環境に課題があった

 竹内さんらCGチームの仕事は、こうした背景を3DCGで表現することだ。アニメーションで迫力あるカメラワークのシーンを表現するには3DCGが欠かせない。さらに手書きと3DCGの境目が限りなく少なくなるように調整を重ね、見た人に違和感が生まれないように磨きを掛ける。

 3DCGを使ったシーンは、高性能なワークステーションとさまざまなソフトウェアを駆使して制作する。

 「3DCG制作は、アニメーション業界でよく使われている3Dモデリングソフトウェア『Autodesk 3ds Max』をメインに使っています。写真から3Dモデルを作る『Agisoft Metashape』、画像処理には『Adobe Photoshop』、映像のデジタル合成には『Adobe After Effects』などのツールも使っています」(竹内さん)

 これらのソフトウェアで作られた3DCG映像の元データは非常に膨大な容量になる。例えばPhotoshopで作成した街並みや建物の画像データは、光の差し方やカメラアングルによって異なる見え方を忠実に再現するため、パーツの一つ一つにテクスチャーが貼り付けられ、それぞれ別のレイヤーで管理している。そのレイヤー数は1つの画像で1000を優に超え、容量は1ファイルあたり2GBを超えることも少なくない。

photo 美術データをCGモデルに落とし込んでいく

 「新海監督の要望を取り入れていくと、どんどん重いデータになっていきますね(笑)」(竹内さん)

 そうした巨大なデータ容量のファイルを大量に扱うため、ソフトウェアを動かすワークステーションには相応のマシンパワーが要求される。しかし、コミックス・ウェーブ・フィルムにはこれまで十分なハードウェア環境とはいえなかった。

 「3DCGをレンダリング処理するマシン負荷が大きく、前回の『君の名は。』では非常に時間がかかっていました。制作作業を効率化するためにも、快適に安定して早く作業できるワークステーションを導入する必要がありました」(竹内さん)

高速・安定稼働する日本HPの「Z」シリーズを制作現場に導入

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 そうした3DCGチームをはじめとする制作現場からの要望に応えるため、コミックス・ウェーブ・フィルムでIT業務全般を担当する都川眞栄さんは、以前から取引関係にあったデザイン・クリエイティブ業界に強いシステムインテグレーターのTooに相談。同社から紹介されたのが日本HPのワークステーション「Z」シリーズだった。

 「『天気の子』の制作がスタートする前に、Zのデモ機を借りてCGチームに試してもらいました。CGチームが使うソフトウェアはどれも高速なマシンスペックを要求するものばかりですが、Zは安定して稼働することが分かりました。そこで『天気の子』の制作がスタートするタイミングでZを正式導入したのです」(都川氏)

 コミックス・ウェーブ・フィルムに導入したZは全部で約30台。竹内さんらのCGチームをはじめ、美術チームやVFXチーム、『天気の子』助監督の三木陽子さん、撮影監督の津田涼介さんなど、主にヘビーな映像処理を行う制作スタッフがZを使って制作を進めた。

 三木さんが使っていたWindows 10 Pro 搭載の「HP Z840 Workstation」は、同シリーズの中でもフラグシップにあたるモデルだ。最新のインテル Xeon プロセッサシリーズを搭載し、デュアルプロセッサ構成なら最大44コア・88スレッドを実現。グラフィックスカード(GPU)もワークステーション向けのNVIDIA Quadroを搭載している。

 3DCG映像を高速にレンダリング(生成)するために、十数台のワークステーションをクラスタ構成で束ねたレンダーファームにもZを採用。『天気の子』の制作で使われたワークステーションの9割をZで固めた。

 特にレンダリングの工程ではグラフィックス性能が重視される。『天気の子』の制作現場でも、GPUパワーが求められるレンダリングソフトウェア「Redshift Render」を使っていたため、GPUがフル稼働できるZの安定性は必要不可欠だった。

 レンダーファームをZに統一するメリットは他にもある。一つはPCパーツの冗長性だ。スケジュールが厳しいアニメーション制作の現場では、機材トラブルによる進行のストップは致命的だ。万が一、制作陣が使うメインマシンのパーツが壊れたとしても、レンダーファームで使っているワークステーションのパーツを予備として使える安心感があると都川さんは話す。制作の最前線ならではのリアルなエピソードといえる。

photo レンダーファーム用途で導入された「HP Z4G4 Workstation」

 Zを導入したことで、3DCGチームをはじめとする制作現場は「ストレスなく仕事ができるようになった」とも話す。例えば『天気の子』は雨のシーンが多く、粒子の運動を表現する3DCGのグラフィック技法である「パーティクル」を多用する。そういった重い処理を多く実行しても、ハードウェアが原因で処理が止まってしまうといったことはほぼ無かったという。

 「美術チームはマシンの搭載メモリが多ければ多いほど作業がスムーズになります。特殊な視覚効果を映像に加えるVFXチームなら、GPUをはじめとする全体のスペックが求められますね」(竹内さん)

photo 雨のシーン(クリックで拡大)
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 特に現場へ安心感を与える要素として重要だったのが、ハードウェアに故障が発生しても、日本HPが提供する365日対応のオンサイト保守サポートによってすぐに修理対応が行える環境が整えられていたことだ。不具合が発生してから日本HPに連絡すると、早くて即日、遅くとも翌日には専門の修理スタッフが現場に駆け付け、その場で対応できる。

 「これまでは私やPCに詳しいメンバーがハードウェアの故障を直したり、ソフトウェアの不具合を解消したりしていました。そうした本業以外の作業に取り組む必要がなくなり、仕事の生産性が大きく向上したと実感しています」(竹内さん)

photo コミックス・ウェーブ・フィルムの都川眞栄さん(写真=左)と竹内さん(写真=右)

 クリエイターの表現力を最大限に発揮させる環境を整えることは、良質な作品を世に出し続けるパワーになる。新海監督率いるコミックス・ウェーブ・フィルムの制作陣が生み出すコンテンツは、今後も世界を驚かせ続けるだろう。

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