「有給の申請方法は?」「座席表が見たい」――社員の質問にAIが回答 悩める人事部門がチャットボットを自社開発するまで

» 2020年05月20日 10時00分 公開
[PR/ITmedia]
PR

 東京・品川区に本社を置くジールは、BIやデータプラットフォーム、アナリティクス分野を専門に、コンサルティングやSIサービスを展開しているIT企業だ。中でも、BIやデータ分析の分野では約30年のキャリアを持ち、この領域では国内トップクラスのノウハウを誇る。近年ではデータプラットフォームにAI技術を組み合わせた先進ソリューションの他、企業の管理会計のためのCRMソリューションなども提供。日本マイクロソフトのパートナー企業として、「Microsoft Azure」の導入や、Azureを活用したデータ分析の支援なども行っている。

 そんなジールは、Azureの販売パートナーであると同時にユーザー企業でもある。ジールはAzureのAIを活用し、社員からの問い合わせに自動で答えるチャットボットを自社開発。2019年10月からバックオフィス業務で利用している。チャットボットはビジネスコミュニケーションツール「Microsoft Teams」と連動しており、社員が有給休暇の申請や取り消しの方法などを質問すると、すぐに正しい内容を回答する。20年4月時点で、対応している質問は約220種類に上る。

photo ジールの公式サイト。創業約30年の歴史を持つBIツール専業ベンダーだ

チャットボット導入の課題とは

 社内外を問わず、業務のデジタル化を推進している同社だが、実はチャットボットの導入前までは、人事部門の業務効率の面で課題を抱えていたという。同社人事部 部長の長谷川真津里氏は、導入の背景を次のように説明する。

 「人事関連の申請や各種手続き、システムの利用方法などに関する情報が社内のあちこちに散在しており、社員が容易にアクセスできる状況ではありませんでした。人事システムの中には、グループ全体で運用しているものとジール独自で運用しているものがあり、それぞれの利用方法を調べるにはオンラインマニュアルを個別に参照する必要がありました」

 ジールは、持ち株会社のアバントを中心とする企業グループの一員。他のグループ会社には、連結会計パッケージ製品で知られるディーバをはじめ、4社が名を連ねている。グループ内には、アバントが規定した全体的な人事戦略と、各社が個別に策定した人事戦略が共存している。そのため各社の人事部門は、全体の戦略とのすり合わせを行いながら、自社に応じた取り組みを独自に進めている。こうした体制が影響し、ジールは社内の人事システムやマニュアルを統一できていなかったのだ。

photo ジールがチャットボットを導入した背景と目的

 オンラインマニュアルの保管方法にも課題があり、「もともとのパッケージ製品にカスタマイズを加えた部分に関しては、別途マニュアルを作成してファイルサーバに置いており、社員は逐一探す必要がありました。また、場合によってはマニュアルを作成せず、社内メールで使い方を一斉配信するだけのケースもありました」と長谷川氏は説明する。

 このように、(1)Webサイト形式のオンラインマニュアル、(2)ファイルサーバ上にファイルとして保管しているマニュアル、(3)社内メールの受信トレイに残されたマニュアル――と、情報がさまざまな場所に散在していたため、社員には「探すのが面倒だから、人事にメールで問い合わせよう」と考える人が多かった。その結果、人事部門には毎日同じような内容の問い合わせメールが数多く寄せられ、対応に1日当たり1〜2時間も費やされることもあった。

 「ITの力を使って何とかこのメールのやりとりを省力化できないかと考えていたのですが、いくつかの人事システムはグループ全体で運用していたため、弊社の判断だけでうかつに手を加えることはできませんでした。そこで既存のシステムには手を加えずに、外付けの仕組みで何とかできないかと考えた末に思い付いたのが、人事部と社員との間のやりとりをチャットボットで自動化する方法でした」(長谷川氏)

photo ジールが自社開発したチャットボット。社員からの質問に迅速に回答する

Microsoft Azureのチャットボット開発サービスを採用

 チャットボットの仕組みや作り方を試行錯誤していた長谷川氏の相談相手となったのが、現場で働くエンジニアの山口亜矢子氏(SIサービス第一本部 第一事業部 シニアコンサルタント)だった。

 山口氏はかつてAzureを使ったチャットボットの構築を顧客に提案した経験があり、今回の長谷川氏の要望を受けて、そのノウハウを生かせると判断。「ぜひチャレンジしたい」と快諾した。

 山口氏は早速、人事部が抱える課題や要件をヒアリングするとともに、それを解決するためのチャットボットの仕様などを長谷川氏と一緒に考え始めた。

 「当社には日本マイクロソフトの製品を専門に扱う部署があり、Azureに詳しい技術者もいます。彼らに『チャットボットを開発するにはどんな技術や製品を使えばいいか』と聞いたところ、Azureのチャットボット用サービス『Web App Bot』と、Q&Aシステム用のコグニティブサービス『QnA Maker』を勧められました」と山口氏は話す。

 Web App Bot (旧Azure Bot Service)はAzureが提供するPaaSの1つで、ユーザーはチャットボットを実装するための開発ツールを利用できる。QnA Makerは、AzureのAI開発者向けAPI群「Azure Cognitive Services」の1つで、AI技術を使ったインテリジェントなQ&Aシステムを開発できる。両者を活用すると、社員が入力した質問内容を自然言語処理で解釈し、最適な回答候補をスコア付けして複数提示することが可能になる。

 山口氏は、これらを使ってチャットボットサービスのプロトタイプを開発してみたところ、極めて簡単に開発でき、かつカスタマイズ性やメンテナンス時の利便性が高かったことから、迷うことなく正式採用を決めたという。

photo 実際のやりとりの画面。現在は約220種類の質問に対応している

テスト運用しながら回答をブラッシュアップ

 システムを構築するに当たっては、長谷川氏が中心となって社員がチャットボットに質問しそうな項目や単語を80ほど挙げ、それぞれに対応する回答候補の文章を作成した。続いて、それらをExcelのフォームにまとめてQnA Makerに読み込ませることで、基本的なQ&Aシステムの枠組みを完成させた。

 その次のステップは山口氏らが担い、社員がチャットボットに入力した質問内容をQnA Makerに受け渡す処理や、QnA Makerが出力した回答候補の中から適切なものを選び、回答として表示させる処理などを、Web App Botを使って実装した。山口氏とともに開発に取り組んだ、同社の岩田夏夢郎氏(SIサービス第一本部 第一事業部 アソシエイト)は、当時の工程を次のように振り返る。

 「私はそれまでチャットボットの開発経験がなく、Web App Botで使われる開発言語も未経験だったのですが、日本マイクロソフトから提供されるドキュメントやナレッジが充実していたため、極めてスムーズに開発作業を進めることができました。分からないことを社内の他のエンジニアに尋ねることは何度かありましたが、大きく迷うことはなく、スピーディーに開発を進められました」

 こうして短期間のうちに、チャットボットの開発はいったん完了した。だが、全社導入に向けてテストを行ったところ、思わぬ課題に直面したという。

 「完成したチャットボットを試しに使ってみると、質問にふさわしい回答を返さないケースが意外に多かったのです。そこで正式リリースの前に、まずは開発部門内で2週間ほどテスト運用し、その結果を踏まえて質問と回答の内容をブラッシュアップすることにしました」(岩田氏)

 この作業を行うに当たっては、Web App Botに組み込まれているログ機能が大いに役立った。ユーザーがチャットボットを使うと「どんな質問が入力され、チャットボットがどう回答したか」といった記録を自動で取得する機能で、長谷川氏は記録を細かくチェックしながら、社員のニーズに合った質問と回答の組み合わせを練り直した。

 具体的には、就労証明書の発行依頼、資格取得の支援制度の利用方法、自社の36協定の確認依頼、座席表の表示――といった質問にも対応できるようにした。また、「有給」「有休」が同じ有給休暇を指すことを学習させるなど、表記がゆれている語句と意味のひもづけを強化した。

 こうして細かなチューニングを短いスパンで繰り返した結果、チャットボットは、約220種類の質問に対応し、社員が使っても全く違和感のない質疑応答ができるまでに進化。19年10月から全社に導入され、社員の疑問を日々解決している。

photo チャットボットの最終的なシステム構成図

擬人化して“隠し要素”も実装 親しみやすい仕様に

 チャットボットを導入する際、社員に気軽に使ってもらえるよう、プロジェクトチームは2つの工夫を施した。1つ目は、すでに全社で利用していたTeamsにチャットボットの機能を組み込んだこと、2つ目は “遊びの要素”を採り入れたことだ。

 人事部長の長谷川氏は「社員が普段から利用しているTeamsの上に載せることで、日頃の業務の延長線上で自然と使われるのではないかと考えました」と語る。

 また、同氏は「社員に親しみを感じてもらうために、チャットボットを擬人化して『ジンボット君』と名付け、親しみやすいキャラクターのイラストも用意しました。ゲームの隠しコマンドのように、社員が相談ではなく特定の言葉を打ち込むと、面白い答えを返す仕様も採用し、『使ってみたい』と思わせる工夫を随所に入れ込んでいます」と説明する。

 隠しコマンドは、ジールの取締役の名前を入力すると、チャットボットが「釣りが大好きで、休日はちょくちょく釣りに出掛けている」「昔はバンドマンを志していたという噂がある」といった知られざる一面を教えてくれるユニークなものだ。

photo チャットボットの“隠し要素”。将来の夢を聞くと「世界征服です」と返答してくれる

 これらの施策が奏功し、現在は社員の約半数がこのチャットボットを利用している。その結果、人事部宛のメールでの問い合わせ件数は導入前の約4分の1まで減少し、業務を大幅に効率化した。社員からも好評で、特に人事関連の申請をまとめて行う必要がある新入社員や中途入社者からは、「とても分かりやすい」「以前の職場にはない仕組みで、とても便利」といった声が寄せられているという。

チャットボット以外のシステムも活用、デジタル化をさらに推進

 ジール人事部のデジタル化に向けた取り組みはチャットボットだけではない。日本マイクロソフトのツール群を使って、社内の資格取得支援制度をネット上で申し込める申請フォームも自社開発し、20年2月から利用を開始。デジタル化を加速させている。

 活用しているものは、オンライン調査フォーム制作ツール「Microsoft Forms」、情報共有プラットフォーム「Microsoft SharePoint」、タスク自動化ツール「Microsoft Power Automate」の3種類。資格を取りたい社員が、SharePointで作られた専用サイトにアクセスし、手続きを済ませると、自動で受付完了メールを配信する仕組みで、人事部のメンバーがメールなどで対応する手間を解消している。

 長谷川氏は「社内のIT化をさらに進めるために、人事部でできることではないかを模索した結果、申請の受け付けも自動化することを決めました」と話す。この仕組みの開発はエンジニアの手を借りず、人事部のメンバーのみで取り組んだという。

 「複雑なコードがなく、インタフェース側でさまざまな設定を行うだけで構築できるため、負担は少なかったです。人事部での本業に取り組みながら、チーム内で議論をしつつ、空いた時間を使って2日ほどで完成させました」と長谷川氏は明かす。

チャットボットの横展開も視野

 このようにデジタル化に注力する同社では現在、チャットボットの機能強化を検討している。具体的には、社員がチャットボット経由で会議室を予約できるようにしたり、社員が質問に答えるだけで、自動的に社内申請が完了したりする仕組みを想定している。総務部門や経理部門など、他部署への横展開も計画中だ。

 BIやデータ分析の分野において国内トップクラスのノウハウを持つジールが、Azureの力を借りて内製した「ジンボット君」。彼はこれからも、同社の心強い仲間として、社内の変革に貢献していくだろう。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.


提供:日本マイクロソフト株式会社
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia NEWS編集部/掲載内容有効期限:2020年5月26日

関連リンク