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» 2020年05月22日 10時00分 公開

医師・薬剤師の質問に24時間対応 各種規制にも準拠 中外製薬の製品問い合わせチャットボット「MI chat」誕生秘話

[PR/ITmedia]
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 製薬会社のビジネスは、薬を薬局、病院、一般消費者に販売して終わり、というわけにはいかない。薬の効能や用法・用量などの正しい情報を、一般消費者はもちろんのこと、医療関係者に伝えることが企業としての大切な使命でもある。薬に関する情報は、場合によっては生命にかかわるだけに、医療現場での誤用などを生まないよう、科学的な知見に基づいた正確な情報を発信し続けることが求められるのだ。だが、重要な業務であるがゆえに、担当者の仕事の中で大きなウエイトを占めてしまい、負担増につながってしまうケースもある。

photo 中外製薬の公式サイト。CHUGAI DIGITAL VISION 2030を掲げて、全社的なデジタル化を積極的に進めている

 そうした中、中外製薬(東京都中央区)は医薬品情報を正確かつ迅速に届けるべく、医療関係者向けの製品情報問い合わせチャットボット「MI chat」(エムアイチャット)の運用を2019年1月から始めた。

 MI chatは、日本マイクロソフトのクラウドサービス「Microsoft Azure」に含まれるAIチャットボットの作成機能「QnA Maker」をベースに構築したもので、医師や薬剤師が薬の概要や用法・用量などをテキストで質問すると、AIが正しい情報を返答してくれる仕組みだ。

 中外製薬はこれまで、医療関係者向けの情報提供の手段として、面談、電話、公式サイトへのFAQコーナーの設置などを行ってきた。今回の施策では、チャットボットという新たな選択肢を用意することで、医療関係者の好む方法でタイムリーに正確な情報を届ける他、人が対応できない状況でも安定して医薬品情報を提供できる体制作りを目指している。

photo AIが質問内容に関連した選択肢を表示し、ユーザーがそれを選ぶ形式でやりとりが進む(具体的な医薬品名は伏せております)

定型業務を自動化、24時間365日の対応を実現

 中外製薬では、メディカルインフォメーション部(MI部)と呼ぶ部署に医療関係者からの問い合わせに対応する専門スタッフが在籍している。同部署には1年間に約6万件(2018年実績値)もの質問が主に電話で寄せられるのだが、その中には類似した質問が一定数あり、担当者が同じ内容を繰り返し答える場合もあった。

 中外製薬の串戸徳彦氏(MI部長)は、こうした電話での質問の特性に着目したといい、「分析すると定型的な質問が多く、チャットボットで代替が可能だと判断しました」と語る。「チャットボットを導入し、自動的かつ正確な質疑応答を実現できれば、医療関係者の利便性向上と業務の効率化を同時に推し進められるとも考えました」(串戸氏)という。

 MI chatには、単に情報発信の選択肢を増やすだけでなく、これまでの手法の弱点をカバーする効果も見込んでいる。例えば電話対応の場合は、中外製薬の営業時間と、医師や薬剤師が問い合わせを希望する時間がずれると、詳細な回答を提供できるまでにタイムラグが生じるケースもあった。そのため、チャットボットの導入によって24時間365日均一な対応を実現し、医療関係者の満足度向上も図っている。

 また、公式サイトのFAQコーナーは、中外製薬が設定した設問を、一方通行で医療関係者へ提供せざるを得ない点が課題だった。

 こうした課題を解決できるMI chatの強みについて、中外製薬の田中里和氏(MI部 MI管理グループ)は「医療関係者がMI chatを使うと、Webサイトを立ち上げてFAQコーナーを調べる手間を解消できます。これにより、医療関係者の方が患者さんとのコミュニケーションに費やす時間の増加が期待できます」と説く。

さまざまなガイドラインに配慮 2000種類の質問に対応

 ただし冒頭でも示した通り、薬に関する情報の取り扱いは生命にかかわるため、一般企業の情報発信とは異なる難しさがある。また、製薬会社が発信する情報は、一般ユーザー向けの広告から、医療関係者向けのものに至るまで、国や業界団体による厳しい規制やガイドラインに準拠しなければならない。

 例えば、厚生労働省が定める「医療用医薬品の販売情報提供活動に関するガイドライン」では、「提供する医薬品の情報を恣意的に選択せず、有効性だけでなく副作用などの情報も示すこと」「提供する情報の基になるデータについて、第三者による客観的評価を得ていること」「引用元の資料を明記すること」などの条件が明記されている。

 そのような事情もあり、中外製薬がチャットボットを構築する際は、コンプライアンスの順守や、AIが発する文章の適切さや客観性を考慮しながら、慎重に進める必要があったという。

 中外製薬の田中氏は「チャットボットには、AIが回答文を自動生成するタイプと、あらかじめ設定した回答の中から適切なものを自動選択するタイプの2種類があります。前者は、企業が情報の正確性を担保する上で大きなリスクを抱えることになるため難しいと判断し、後者を採用しました」と明かす。「今回のプロジェクトでは、想定される医療関係者からの質問と、それに対する回答を全て人間が準備し、社内のチェックを経た上で、AIに回答させるようにしました」という。

 現時点でMI chatのAIは、1製品当たり数十〜数百種類、合計で2000種類の情報に対応している。構築に携わった、中外製薬の分銅淑氏(MI部MI推進グループ)は「規制の順守を意識しながらも、ユーザーのニーズに的確に対応するQ&Aを準備しました。その際は、過去の対応で蓄積したデータを参考にしながら、文章表現の正確性・客観性に配慮しました」と明かす。

回答を示す前に“念押し”で質問内容を確認

 さらに、中外製薬はチャットボットで正確な回答を返すためにさまざまな工夫を凝らしている。

 工夫の1つ目はユーザー認証だ。MI chatでは、誤って一般消費者が使用しないように専用のログイン画面を設け、医療関係者のみが取得できる会員ID・パスワードの入力を課している。また、ログイン後はメニュー画面で、詳細を知りたい医薬品名を選んだり、用法用量や副作用など、知りたい情報のジャンルを指定したりする必要がある。これらの手順を経てはじめて、ユーザーは自由に会話形式で「○○について教えて」などとテキストで質問できる。

 工夫の2つ目は復唱機能だ。MI chatでは、ユーザーが質問を入力するといきなり回答を示すのではなく、「お聞きになりたい質問はこちらですか?」というアラートと共に、あらかじめ中外製薬の側で用意したユーザーの意図に最も近い質問を提示する。AIがユーザーの意図と異なる回答を提示した時に、誤った情報を提供することを避けるための施策で、「念を押す形で質問を確認する点がMI chatの特徴です」(串戸氏)という。

 こうした工夫によって、ユーザーの疑問点を細かく把握できるため、MI chatは極めて正確な回答を自動的に返すことができるのだ。

適応外使用に関する情報提供も可能

 MI chatにおける工夫はこれだけではない。同ツールは、厚労省に承認されている効能・効果や用法・用量とは異なる方法で医薬品を使用する「適応外使用」に関する質問にも一部対応している。この仕様を採用した背景について、中外製薬の結城陽二郎氏(MI部 MI管理グループ マネージャー)は「厚労省のガイドラインでは、広告やサイトを通じて、製薬会社が能動的に適用外使用に関する情報を発信することは規制されています。一方で、医療関係者の求めがあった場合に、それに応じた情報を出すことは認められています。そのため、現場で必要な情報を提供するために何かよい方法がないかを考えました」と解説する。

 MI chatでは、AIが質問内容に関連した選択肢を表示し、ユーザーがそれを選ぶ形式でやりとりが進むため、ユーザーから聞かれなかった情報を提示することはない。また、適応外使用に関する情報を提供したユーザーを特定できるようにしている。中外製薬による能動的な情報発信ではなく、医療関係者からの要求に応じた情報提供であるということを客観的に示す仕組みを設けることで、ガイドラインに対応しているのだ。

 中外製薬の分銅氏は「適応外使用に関する情報については、厳格な社内審査を経た上で提供する体制を整えています」と強調する。さらに串戸氏は「MI chatは、いつ、誰に、どんな情報を提供したのかというログを残すことができます。情報のトレーサビリティー(追跡可能性)を確保できるため、厚労省が定める『GVP省令』や規制に対応しやすい設計になっているのです」と自信を見せる。

約2.5カ月でスピード開発

 中外製薬が、こうしたメリットを持つMI chatの開発基盤にAzureを選定した理由は、(1)動作保証が確実に得られること、(2)質問・回答の制作プロセスや、システムの維持・管理の労力を簡略化できること、の2点だ。

 医薬品情報を早く正確に提供するという同社の使命を考えると、エラーや障害などでシステムがダウンすることはあってはならない。また、維持・管理に工数がかかりすぎ、医療関係者からの問い合わせ対応に支障が出ることは避けたい。

 こうしたニーズのもとでシステム選定を慎重に進めた結果、安定性の高さと管理のしやすさを評価し、Azureの活用を決めたとしている。中外製薬の既存システムと親和性があり、ランニングコストの観点からも長期間の維持・管理が可能だったことも導入の決め手になったという。

 MI chatの構築は、日本マイクロソフトのパートナー企業である、システム開発会社のジェーエムエーシステムズ(JMAS)のサポートのもとで行われた。JMASでMI chatの開発責任者を担当した金子大輔氏(クラウドソリューションAP部 部長代理)によると、MI chatの開発は、要件定義を1カ月程度で行った後、テストを行いながら、仕様を決めつつ開発を進めたという。完成までに要した期間は約2.5カ月だった。

 金子氏は、JMASが短期間でオーダーメイドのチャットボットを構築できた要因の一つに、日本マイクロソフトが提供するQnA Makerの使い勝手の良さがあったと指摘する。「QnA Makerは、ユーザーからの質問に対して自然言語解析を行い、質問の内容を判定した上で、登録済みの回答の中から最適なものを選ぶことができます。その精度の高さから、製薬業界の厳しいレギュレーションをクリアできました」と金子氏は振り返る。

 中外製薬がMI chatの開発をJMASに委託した理由は、AIやチャットボットの開発に精通しているだけでなく、AzureやQnA Makerなどの専門知識を分かりやすく伝えるスキルとリーダーシップを持ったスタッフがいたことだという。また、厳しいセキュリティ条件の中でシステムを構築するノウハウを持ち、医薬品情報を安心して取り扱える堅牢性の高い仕様に対応できる点も魅力だったとしている。

人々の健康寿命の延伸に貢献したい

 中外製薬は今後、社内外でのMI chatの利用者数をさらに高めるべく、機能強化をはじめとする多様な施策を検討している。中外製薬の田中氏は、「まずは20年末を目途に、販売する全製品に拡大する予定です」と説明する。

photo MI chatのマスコットキャラクター。親しみやすいデザインを採用している

 中外製薬の佐々木洋氏(MI部 MI管理グループ)は、「技術的な面では、医療関係者が質問を手入力するのではなく、音声認識を活用し、質問を音声入力して回答を得られる仕組みの構築についてもこれから検討したいと考えています」と意気込む。

 さらなる認知度アップに向け、Web広告を展開したり、医療関係者が多く参加する学会でデモを行ったりすることも検討中。「ユーザー増に向けて各方面からアプロ―チしていきたいです」(佐々木氏)という。

 24時間365日の質問対応が可能な他、各ガイドラインにも準拠するなど、高い性能を持つMI chat。中外製薬の串戸氏はこれから、同ツールの提供を通じて、より社会に貢献していきたいという。

 「昨今の新型コロナウイルス感染拡大を巡る社会情勢の中で、一時的ではありますが、オンライン診療の普及が急激に進むなど、かつてはアナログだった製薬業界は確実に変化をし始めています。当社も、Microsoft Azureのような先進技術を上手に使いながら、人々の健康寿命の延伸に貢献したいと願っています」(串戸氏)

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