AI処理にGPU以外の新たな選択肢 デスクトップサイズに収まるスパコン「ベクトルプロセッサ」とは

» 2020年08月20日 10時00分 公開
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 AI関連の技術が近年著しい発展を見せているのは、コンピュータの計算能力が大幅に上がったからだといわれている。AIの基礎になっているのは機械学習であり、膨大な量の計算処理を通して分類や回帰、予測といったタスクをこなす。

 汎用的な計算はCPU、負荷の高い計算処理にはGPU、と一般にはこの2つのプロセッサが知られるが、実は計算処理に関して言えば、大型のスーパーコンピュータに搭載される「ベクトルプロセッサ」が近年にわかに注目を集めている。なぜなら、一般的なデスクトップPCサイズのマシンでも扱えるようになったからだ。

 ベクトルプロセッサはAIの処理など、負荷の高い計算処理で他のプロセッサより格段に高い性能を見せる。DX(デジタルトランスフォーメーション)が進み、「データは石油」と呼ばれるようにデータから新たなビジネスを生み出せるようになった昨今、マシンの計算能力はビジネスの展開速度に直結する。

NECの最新ベクトルプロセッサを搭載する「ベクトルエンジン」

 ベクトルプロセッサ自体は新しい技術ではない。現在唯一のベクトルプロセッサ開発企業であるNECは、30年以上にわたってベクトル型のスーパーコンピュータ「SXシリーズ」を製造してきた。

 しかし同社は2018年に、データセンターに収めるような従来の大型マシンとは打って変わり、一般的なグラフィックスカードと同じサイズの最新ベクトルプロセッサを搭載した「SX-Aurora TSUBASA」を開発。小型になった分価格も低廉化した。これまでは柔軟な利用が難しかったスパコン並の処理能力を、大学の研究室やベンチャー企業のような規模でも気軽に導入できる環境を整えた。

 18年の発売以来、世界中で約120社がSX-Aurora TSUBASAを導入。核融合科学研究所やドイツ気象庁など、従来のHPC用途として大規模計算に使う機関の他、産業系やソフトウェア開発系のベンチャー企業からの引き合いもある。

 ベクトルプロセッサとは何か、小型化でどんな用途が実現するのか──。SXシリーズを手掛けるNECに話を聞いた。

そもそも「ベクトルプロセッサ」とは何か

 まずはベクトルプロセッサ自体について、CPUとの違いを見ていこう。

 CPUなどの汎用プロセッサは「スカラ型」と呼ばれる。スカラ型の実行コアは演算命令を逐次実行していく。

 一方のSXシリーズが採用するベクトル型は、一つの実行コアが複数の演算を1命令のうちに行える。多数の小型コアを搭載するCPUとは異なり、ベクトルプロセッサは最大10個のビッグコアを搭載して並列処理の高速化を図る。

 「コアの数が少ない分、オーバーヘッド(演算に伴う間接的な処理)も少ない。メモリとの通信速度が大きいことと併せて高い実行性能を実現できる」──SX-Aurora TSUBASAのマーケティングなどを手掛けるNECの浅田さん(AIプラットフォーム事業部 マネージャー)は、ベクトルプロセッサの特長をこう説明する。

 SX-Aurora TSUBASAのメモリ帯域幅は最大1.53TB/s。PCIeボードサイズの他社の現行のフラグシップアクセラレータと比べても高速で、「世界トップクラスのアクセス性能」(NEC)としている。

 同プロセッサの事業戦略に関わってきたNECの北島さん(AIプラットフォーム事業部 主任)は、「高いピーク演算性能があっても、メモリから演算ユニットにデータを転送しないとどうしても演算ユニットが遊んでしまい、性能を十分に発揮できないことがある」とコメント。メモリ帯域幅が広いSX-Aurora TSUBASAでは、メモリから演算ユニットへ次々に大量のデータを転送できるため、効率的な計算が可能だという。

NECの北島さん(AIプラットフォーム事業部 主任)と浅田さん(同事業部 マネージャー)

「地球シミュレータ」採用技術が手のひらサイズに

 このように並列処理を得意とするNECのSXシリーズは、これまでは大型のスパコンとして流体計算や気象の計算などに用いられてきた。代表的な例はJAMSTEC(海洋研究開発機構)にある、地球規模のシミュレーション計算が可能な「地球シミュレータ」だ。地球シミュレータは2002年の設置以来、2回のハードウェア更新を経て現在3代目が稼働しているが、歴代ハードウェアには全てSXシリーズが採用されている。

 3代目の地球シミュレータが採用する前世代機「SX-ACE」まではラック単位の構成での販売だったが、その次世代機となるSX-Aurora TSUBASAではノード当たりの性能を上げつつ、1ノード(1ベクトルエンジン搭載サーバ)からの販売を始めた。今後PCIeボードタイプのベクトルエンジン1枚からの販売も計画しているという。

 小型なSX-Aurora TSUBASAを開発した経緯について、浅田さんは「大学や研究機関が行うような大規模な計算以外にも、AIの計算や地域を限定した気象計算など、これまでのHPC領域で扱っていたものより小さなデータセットでも高い計算能力を求められるようになった」と市場を分析。

 「従来のHPC領域で扱う問題より小さいとはいえ、データセットは大きく、計算には時間がかかる。であれば、NECのスパコンのプロセッサを1つ単位で切り出せばそうしたニーズに対応できる」(浅田さん)

 小型になったことで、エッジでの計算に導入しやすくなったのもメリットだ。データセンターの計算リソースをネットワーク経由で利用する場合、リアルタイムな応答が必要になるプログラムには向かない。大型マシンが研究機関内に設置されていたとしても、複数の研究室の共同利用である場合が多く、順番待ちが往々にして発生する。こうした“かゆいところ”に手が届くのも、小型ながら演算性能の高いSX-Aurora TSUBASAならではだ。

PythonやTensorFlowにも対応 ユーザーフレンドリーな開発環境

 SX-Aurora TSUBASAの展開に際し、開発環境もこれまでよりユーザーフレンドリーに仕立てた。

 AI処理への適用をさらに進めるため、機械学習で利用されることが多いPythonの利用に対応。機械学習フレームワーク「TensorFlow」にも対応するなど、AIを使ったデータ分析や計算に使いたいユーザー企業への支援体制を固めている。

 アプリケーション開発にはC/C++/Fortranといった算術向けプログラミング言語をそのまま利用できる。GPUで計算を高速化したい場合はGPGPU専用の言語を使ってソースコードを修正しなければいけないのに対し、SX-Aurora TSUBASAではそうした前処理が不要だ。

 従来は専用OSの動作であったところ、SX-Aurora TSUBASAからはLinuxを採用。Linux環境の既存資産との連携が容易になる。

小型化でユーザー企業急増 既存環境から27倍高速化の事例も

 小型化に伴う低廉化と開発環境の整備で、従来のSXシリーズに比べてSX-Aurora TSUBASAの販売数は急増。購入企業・機関の半分以上が新規の顧客だという。

 「今までは大学など研究機関の導入がほとんどだったが、産業系など民間企業からの引き合いや、ベンチャー企業の導入例も増えた」(浅田さん)

 ベンチャー企業の場合、やはり比較対象に挙がるのはGPUだ。「GPUを使えば速くはなるが、他社もやっていることなので性能面のみでは差別化はできない。そう考えて、開発の利便性やスーパーコンピュータ用プロセッサとしての話題性もあるSX-Aurora TSUBASAの導入を決めたという企業もある」(同)

 具体的にこれだけ速くなったという事例もある。ECサイトのレコメンデーションエンジンを開発する企業が、顧客の購入や検索履歴の学習にSX-Aurora TSUBASAを使ったところ、それまで使っていたアクセラレータに比べて27倍高速化できた。気象予測の研究を行う大学研究室では、従来のスカラ型コンピュータで計算するのに比べて気象のシミュレーションを7倍高速化できた。

SX-Aurora TSUBASA採用で、ECサイトのレコメンデーションエンジンが27倍高速に

 研究機関はもちろんのこと、流通業や製造業などエンタープライズ企業向けのソフトウェアを開発する企業でも導入が進んでいるという。

クラウドサービスも準備中 さらに手軽な利用が可能に

 SX-Aurora TSUBASAの導入は大きなデータセットをエッジでリアルタイムに計算できることが一つのメリットだが、企業によってはクラウド上での大量データのバッチ処理が重要となることも多く、初期費用がかからない形態が望ましいと考えるところもある。

 そうしたニーズに応えるべく、NECはパートナー企業とともにSX-Aurora TSUBASAの能力をクラウド経由で使えるサービスの整備を進めている。小型化・低廉化したことで、クラウドサービスを提供するデータセンターなどへも柔軟な導入ができるようになったということだ。

 SX-Aurora TSUBASAのクラウドサービスは、2020年中に順次開始する予定としている。

「データは石油」の時代を後押しするプロセッサ

 デスクトップマシンに収まるほど小型ながら、大きなデータサイズの並列計算が得意なSX-Aurora TSUBASA。「GPUとベクトルプロセッサでそれぞれ向き不向きはある」(浅田さん)としつつも、「ビッグデータを処理するようなAI、機械学習、従来のHPC領域で使われる流体系の計算などはベクトルプロセッサが得意だ」とする。

 冒頭でも述べたように、ますますDXが進み、デジタルデータが増大する昨今。それを計算することで新たなビジネスが生まれる可能性もあることから、「データは新しい石油」とも呼ばれる時代になった。大量のデータを効率よくさばけるSX-Aurora TSUBASAは、さまざまなビジネスを力強く後押しする存在になるだろう。大規模な計算処理が求められる環境の構築を検討しているなら、まずはNECに相談してみてはいかがだろうか。

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