CAD設計、3DCG、グラフィックデザイン、映像制作、VR、科学計算など──クリエイティブの現場で活躍するのが、性能と信頼性に特化した「ワークステーション」だ。主にプロフェッショナルな環境で活躍するマシンだが、今はリモートワークの需要によって持ち運べるモバイル製品に注目が集まっている。
そんな中、国内のワークステーション市場でシェアNo.1(※)の日本HPが、モバイルワークステーションの製品ラインアップに「ZBook Firefly」「ZBook Studio」「ZBook Create」を追加した。いずれもワークステーションに求められるパワーを備えた製品というが、どのような現場のニーズを製品に反映しているのか。同社のワークステーション事業でプロダクトマネージャーを務める中山智之さんに、製品の一押しポイントを聞いた。
※2008〜2019年、出典:IDC's Worldwide Quarterly Workstation Tracker Share by Company,2020 Q2
ワークステーションといえば、高性能なマシンパワーを武器に、業務用レベルの高負荷な処理を行うのが主な用途だ。ただし、単にハイパフォーマンスを追求するなら据え置き型の方が適しているとも考えられる。なぜモバイル製品のラインアップを強化しているのか。
――モバイルワークステーションが求められる背景を教えてください
中山さん 実は日本と海外で大きく市場構造が異なります。数年前まで米国ではワークステーションの比率でモバイルが半分を占めていました。日本ではクリエイターの方が企業に在籍している場合が多いのですが、欧米ではフリーランスで仕事をしている方が多く、どこでも仕事ができるモバイルワークステーションのニーズが高まっています。
日本ではワークステーションのニーズがクリエイターより設計者寄りということもあり、以前は据え置き型が約9割を占めていました。他国と比べてもかなり偏っています。
しかし、2020年のコロナ禍で日本でもモバイルワークステーションの比率が4割まで上がったことから、いよいよ海外と製品戦略の足並みをそろえるときが来たと判断しています。
――日本HPはワークステーションをリモートで操作するツールも提供していますが、そちらとの兼ね合いはどうお考えですか
中山さん オフィスのデスクやサーバルームに置いたワークステーションに、ノートPCなどのシンクライアント端末からリモートアクセスできるツール「HP ZCentral Remote Boost」(旧名称 HP Remote Graphics Software)をHP Zワークステーション対象に10年ほど前からライセンス無償提供しています。日本HPのワークステーションを使っている方なら追加費用なく無償で使えます。今回のコロナ禍でも「急なリモートワークに対応できた」とお客さまからの声を頂いています。
しかし、われわれはこのソフトとともに、モバイルワークステーションの導入を勧めています。その理由は簡単で、リモートアクセスはネット環境の状況に大きく左右されてしまうことです。コロナ禍で在宅勤務時のネットワーク問題が話題になりました。自宅で家族全員がネットワークを常時使用することでネットワーク速度が低下し、会社のシステムに接続できないなどの問題が発生しました。そうした場合にも持ち出して使えるモバイルワークステーションの存在が重要になると考えています。
高度な処理はオフィスに設置したワークステーションをリモート操作して行い、日常的な業務はモバイルワークステーションで行うなど、負荷を分散。ネットワーク状況によってはモバイルワークステーションのみで作業するなど、柔軟に対応できる環境構築が必要と考えています。
――新たに投入した「ZBook Firefly」「ZBook Studio」「ZBook Create」は、どんなユーザーに向けた製品なのでしょうか
中山さん 製品ごとにターゲットがかなり異なります。ZBook FireflyはCAD設計者や移動が多い建築デザイナーの方に適しています。クライアントと対面しながら図面を見せたり、パースを見せたりといったニーズがあるため、その用途に適したサイズで製品化しています。特に軽さにはこだわっており、持ち運びしやすくて堅牢な製品です。
数年前からHPでは仕事とプライベートを含め、一つの人生と捉え、それに最適な製品を提供する「One Lifeコンセプト」を打ち出しています。そのコンセプトに基づき開発されたのが、新しいZBook StudioおよびZBook Createとなります。
現在、コロナ禍で在宅勤務やサテライトオフィスでの勤務などの形態が増加し、仕事と家庭の両方で活用するユーザーが増えています。もちろん企業では支給するデバイスの私的な利用を禁じているところが多いのですが、クリエイターは個人事業主が多く、どちらの環境でも安全かつ快適に利用できるデバイスを求めています。
ZBook Studioは映画製作などに携わるクリエイターに向けた製品です。日本国内では市場性の違いから、クリエイターよりも設計者が使用する製品としての位置付けが強いです。
前世代までのモデルではオフィスの据え置き型ワークステーションを使いながら、社外でもサブマシンとして使えるモバイルワークステーションという側面が強かったのですが、今回投入したモデルは第7世代となり、在宅勤務でもオフィスのデスクトップ型ワークステーションと同じ処理能力を提供できるように、ハイグレードのグラフィックスチップを載せることで大幅にパワーアップしています。
ZBook Createは、画像や映像編集などのクリエイティブ、VR、ゲーム開発向けに開発された製品となります。家庭内での利用も想定し、パフォーマンスだけでなく最新のセキュリティ機能を実装するなど、安心してクリエイティブに集中できるような仕様となっています。
中山さん 特にZBook CreateとZBook Studio はクリエイターが快適に作業できるような作り込みを重視しています。特にハードウェアとソフトウェアで制御をする「Z ベイパーフォース」サーマルソリューションを搭載するなど、静音と排熱のテクノロジーに注力して開発しました。
ZBook CreateとZBook Studio(NVIDIA Quadro RTX搭載モデル)に搭載されている専用設計のベイパーチャンバーは、通常の水冷システムとは異なり、気化熱を使って冷却する仕組みを採用しています。駆動部分がないため壊れにくく、モバイルに適した機構です。
冷却ファンも作業の快適性を損ねないように工夫しています。消費電力の高いCPUやグラフィックスを装備していると、どうしても排熱するためにファンの回転数を落とすことができません。そのため今回はファンの回転数を抑えるアプローチではなく、ファン騒音の質を変えるアプローチをとっています。ファンが回ったときに人は何を不快に感じるのか。ファンノイズを調べたところ、特定の周波数のときに甲高いファンの音が出て、それが不快の元になることが分かっています。
クリエイティブな作業をしているときに、ファンから不快な音がしていたらイマジネーションは吹き飛んでしまいます。開発段階でシミュレーションを繰り返し、ファンの素材、形状や回転数のコントロールなどを通じて不快な周波数をカットしています。
本体には至る所に温度センサーを配置してあり、ユーザーの作業をミリ秒で先読みして、回転数を徐々に上げるなど、非常に細かな処理を行っています。
当社は10年以上前から、据え置き型のマシンでも騒音がうるさいという日本のお客さまの声を聞いて、静音設計に注力してきました。モバイルワークステーションの製品においても、パフォーマンスと静音という相反するもののバランスを取ることが命題だと。それが大きなコンセプトですね。
――ZBook Createはグラフィックスカードに「NVIDIA GeForce」を採用しています。ワークステーションといえば「NVIDIA Quadro」の印象が強いのですが、どういった理由でしょうか
中山さん 昨今のYouTuberのように、企業の中にいて仕事をするクリエイターだけでなく、個人事業主として仕事をされるお客さまが増えてきました。またネット環境の変化やYouTubeの普及により、10年前とはまったく違う状況になってきた。それに合わせてプラットフォームを変える必要があったわけです。
われわれとしてはZBookにGeForceを搭載したマシンを発売することは、かなり歴史的な出来事であると思っています。
例えば自分で動画を撮影、編集して世界に公開する──ZBook Createはそうしたユーザーさんがよく使われるソフトウェアとの相性がいいGeForceを搭載し、ワークステーションの信頼性をもちながら快適な制作環境を実現できるノートPCとして提案したいと考えています。
――他に製品としてイチオシポイントはありますか?
中山さん “音”に注目していただきたいです。本体にはスピーカーとディスクリートアンプをそれぞれ4つずつ搭載しており、外部スピーカーを使わずに高音質な再生が行えます。
――実際にこの場で再生していただきましたが、確かに本体のスピーカーからとは思えない音質と音量を実現していますね
中山さん 音に関するクリエイティブな作業も満足して行っていただけると思います。最近はWeb会議の機会も増えていますが、ヘッドフォンを着けっぱなしにすると耳が痛くなってしまう場合もあります。そういった場面でも役立つでしょう。
また、ディスプレイは映画会社のドリームワークスと共同開発した「ドリームカラー」という技術を採用しています。色の再現性や精度が高くなっています。
――アルミニウムの素材感を生かした本体のデザインも魅力的に映ります
中山さん アルミのいいところは頑丈であるという点です。ZBookではアルミニウムの削り出し加工によりボディー剛性が高く壊れにくいです。カーボンであればもっと薄くできますが、かばんに入れるとゆがんで壊れてしまう可能性があります。クリエイティブな作業に直結するマシンは壊れにくさも非常に重要であると考えています。またアルミニウムはリサイクル率が高い金属資源であり、それを使用することで環境にも配慮しています。
当社のワークステーションはサポートを最大5年まで拡張できます。モバイルワークステーションもバッテリーの保証を3年まで付けられます。
ハードウェアからサービスまで、細やかな点にこだわることで当社のモバイルワークステーションを長く使っていただければと思います。
ワークステーションは高度な業務に使われるマシンだからこそ、“パーソナルコンピュータ”以上のこだわりがメーカーの設計思想に現れている。日本HPが注力するモバイルワークステーションは、「ワークステーションといえば据え置き型」という日本国内でのイメージを破るのに十分なパフォーマンスを備えているだろう。
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提供:株式会社日本HP
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia NEWS編集部/掲載内容有効期限:2021年2月2日