異色スマートウォッチから“着るクーラー”まで ソニーが7年で17件の新規事業に成功したワケ

» 2021年03月11日 10時00分 公開
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 バンド部分にデバイス本体を組み込んだ異色のスマートウォッチ「wena」(ウェナ)という製品をご存知だろうか。本体を好みの時計に取り付けることで、愛用品を簡単にスマートウォッチ化できるというものだ。

 ソニーの新規事業創出プログラムから生まれ、2016年に発売されたこの製品。登場するやいなや「その発想はなかった」などとSNSを中心に話題になり、クラウドファンディングとしては当時の国内最高額の1億円をたたき出した。20年11月には3世代目の「wena 3」が発売されるなど、いまや同社の新規事業を代表する製品の一つになっている。

photo 20年11月に発売されたスマートウォッチ「wena 3」

 このwenaは、実は当時ソニーに入社したばかりの新人社員が生み出したもの。それを実現したのが、「Sony Startup Acceleration Program」(SSAP)と呼ばれる同社内のスタートアップ支援プログラムだ。

 SSAPが生み出したのはwenaだけにとどまらない。スマートロック「Qrio Smart Lock」(キュリオスマートロック)、ロボット玩具「toio」(トイオ)、“着るクーラー”とも呼ばれる「REON POCKET」(レオンポケット)なども、SSAP発の新規事業だ。

 このうちtoioは、好調ぶりが「PlayStation」以外の稼ぎ頭を探していたソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)の目に留まり、同社に事業移管することに。現在は同社の定款の2行目に記載され、ソニーグループ内でも話題になったという。

 また、製品ではないものの、不動産事業を手掛けるSREホールディングスはSSAPの最初の新規事業で、20年12月には東証一部へ上場を果たしている。

 14年に始まった前身の社内起業プログラム「Seed Acceleration Program」(SAP)時代を含め、これまでの約7年間で17件の新規事業を世に送り出しているSSAP。ハンズオンで事業化検証を実施した数は67件(2021年2月末時点)に上っているという。

photo これまでの事業化実績

 業界で「新規事業は1000に3つしか成功しない」といわれる中、なぜ次々と新規事業を生み出すことができるのか。SSAPの事業責任者で創始者でもあるソニーの小田島伸至さんに、SSAP誕生の経緯や新規事業成功の秘けつを聞いた。

photo 小田島伸至さん

新規事業の少なさが判明、現場で原因をヒアリング

 SSAPの前身であるSAPは2014年にスタート。社長直下で事業戦略を練る立場にあった小田島さんが、事業部から上がってくる新規事業計画の少なさに目を付けたのがきっかけだ。

 ソニーのデンマーク支社で携帯電話向け液晶パネル事業を売上も人脈もゼロの状態で立ち上げ、3年で約300億円規模のビジネスに成長させた経験を持つ小田島さん。その実績を引っ提げて本社に戻ると驚愕した。「なぜこんなに新規事業が少ないのか」。自身の中に生まれた疑問への答えを求め、開発現場に足を運んでヒアリングを行った。

 すると社員から上がったのは「新規事業のアイデアをどこに持っていけばいいか分からない」「『儲けろ』と言われても自分はソフトウェアの専門家。次の1歩をどう踏み出せばいいか分からない」「自分が欲しいものを提案しても、上司が欲しいものではないので検討レベルで止まる」などの声。

 ヒアリングして分かったのが、社員の中に事業づくりに長けた人材が不足していることだった。

 「大学までの教育で新規事業の作り方なんて習わないし、入社後も日本のサラリーマンは会社の歯車として働き、全体像をつかむ余裕がない。事業の作り方を知る機会がそもそもなく、それは作り方を体系的に教える人がいないからだと思った」

 これまでは人に教えるという発想がなかったものの、「困った人の話を聞き、アドバイスするとみんな晴れた顔になった」と小田島さん。「事業の作り方というのは半分は勉強。勉強すればできるようになる。対症療法ではなく、全体的に手を打たないと抜本的には解決しない」と、新規事業支援への注力を決意した。

 そんな経緯で始まったSAP(現SSAP)の大きなプログラム構成はこうだ。

 オーディション形式で新規事業アイデアを公募し、勝ち進んだアイデアが事業化に向けた検証の権利を得る。最終目標と期間を設定し、3カ月単位で成果を検証。成果が出ているものに投資とサポートを続けるという流れだ。

 wenaの場合は新入社員ばかりのメンバー構成だったため「若くてガッツがあったし、製品のビジョンも優れていたが、デバイスを小型化するための経験とスキルがなかった」と小田島さんは振り返る。事業の進捗の中で明らかになった製品の小型・軽量という事業コンセプトと現実のギャップを埋めるため、ソニーのヒット商品を手掛けた立役者など社内で適したスキルを持つ社員をアクセラレーター(支援者)として選び、事業化への道筋づくりをサポートしたという。

 wenaをはじめ、今ではSSAP発のいくつもの事業が成長している。「いかにやる気がある人をスムーズにピックアップし、その人とアイデアを磨くかが重要だ」と小田島さんは話す。

勝ちパターンを他社にも 「10倍のスピードで新規事業が進んだ」と反響

 ソニー社内での「危機感」から生まれたSSAP。勝ちパターンを体得した今、ソニーは社内のみにとどまらず、他社向けにも同プログラムを提供している。

 例えば、リクシルが20年9月に発売した、自宅ドアの開閉を自動化するシステム「DOAC」もSSAP生まれの事業の一つだ。アイデアの創出からマーケティング、デザインなどをソニーが支援し、事業化にこぎつけた。

photo リクシルの「DOAC」

 京セラの、圧電セラミック素子を活用した、音が出る子どもの仕上げ磨き用歯ブラシ「Possi」(ポッシ)もSSAPによるものだ。ソニーはアイデアの創出だけでなく、開発資金を調達するためのクラウドファンディングや音楽コンテンツの制作なども支援している。

photo 京セラの「Possi」

 小田島さんによると社外へのサービス提供実績は85件(2021年2月末時点)で、支援先の産業は、医療機器、ヘルスケア、医薬品、素材・繊維、飲料、農業、銀行、電気機器、機械、建材、化学、食品など13業界に上るという。

 この他、国連プロジェクトサービス機関(UNOPS)や日本政策投資銀行(DBJ)などの公的機関、東京大学・東京芸術大学、立命館大学などの教育機関、スタートアップなどにも支援を提供している。

 社外向けのSSAPには大きく2つのコースがある。「オールインクルーシブ型」と呼ばれる、いわゆる事業構想から事業化までをフルでサポートするコースと、短期集中で研修や不足するスキルだけ補うコースだ。

 企業にとって、新規事業を立ち上げて成功させるまでの道のりは厳しい。小田島さんによると、新規事業は成功するかどうかが不透明なことから、多くの企業で投資が進まず慢性的な人手不足に陥っているという。

 そこでSSAPのオールインクルーシブ型コースでは、事業の進め方を熟知したアクセラレーターを派遣し、人手不足をカバー。少人数でも始められる体制を用意している。

 また、新規事業は経営者にとっても「必要コストが見えない」など不安要素が大きい。SSAPではアクセラレーターが事業化成立までのコストと時間を算定し、最短1カ月で事業化検証を実施。その結果、不採算と判断した際は素直に撤退を提案する。「企業にとって『やめる』という決断は非常に重要ですから」と、小田島さんは言う。

 企業がSSAPを利用することで「新規事業を軌道に乗せる時間とコストを大幅に削減できる」と小田島さんは話す。実際、利用企業からは「半年くらい何も進まなかった事業が、SSAPを利用すると一気に進んだ。使わなければ10倍の時間がかかっていた」などの声が上がっているという。

 事業のアイデアが何もない状態でもプログラムの利用は可能だ。社内アイデアソンの企画・開催をサポートし、一からサポートする体制も整えている。自社の技術でどんな貢献ができるか分からない……といった疑問に応えるサービスも用意している。

 小田島さんは「社内で前例がないからこそ新規事業。科学的なアプローチがされておらず、『気合でなんとかなる』など精神論的なことが言われている例が多い」と指摘する。

 「多くの企業がその難しさを正しく理解していない。泳げない人をいきなり海に飛び込ませたり、400mメドレーを課すようなことをしている。そういう意味でもSSAPの“伴走”という仕組みは効果的だ」(小田島さん)

新規事業に必要なのは「スピード」と「変化対応力」

 今後、新規事業に取り組む担当者にはどんなことが必要なのか。小田島さんは「スピード」と「変化対応力」をキーワードに挙げる。

 周囲の社員を巻き込むためには「まず動くことが重要」だが、「話だけで済むのは1回目の打ち合わせまで」。2回目以降の打ち合わせではアイデアが可視化された製品・サービスのプロトタイプやデザインを用意することで、社内で協力者を得やすくなるという。

 立ち上げた事業がうまくいかないときに上手に変化させる、いわゆるピボットも重要だ。「1発目のアイデアは99%成功しない。いかにその失敗に気づき、軸をぶらさずに変化させられるかがポイントだ」と小田島さんは話す。

 ソニー社内の新規事業の少なさをきっかけに発足し、次々と新規事業と事業開発人材を生み出しているSSAP。今ではその舞台は社外にも広がっている。

 なぜ、ソニーが他社の事業をサポートするのか。その理由を小田島さんは「SSAPを通じて企業連携を進めたい」と説明。「具体的な商品を一緒に世の中に送り出す中でリレーションを作り、将来的により大きな事業をともに作りたい」「世の中に事業開発ができる人材を増やし、社会の課題解決に貢献したい」と話す。

 ソニーが蓄えたナレッジを活用し、あらゆる企業で新規事業を成功に導く可能性を秘めたSSAP。オンライン説明会に参加すれば、SSAPの具体的なメニューや料金が分かる。次の大ヒット事業を生み出すのは、今この記事を見ている読者が勤める企業かもしれない。

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