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» 2021年10月04日 10時00分 公開

全国の洪水被害、スパコンで防げ 未管理の小川にも対応する「リアルタイム氾濫予測システム」の実力

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 2020年の「熊本豪雨」や、2021年8月の記録的大雨など、昨今の日本は大雨による被害が絶えない。

 大雨の最も直接的な害はやはり河川の氾濫だ。氾濫が起きないよう護岸工事がなされた川も多いが、昨今のような記録的な大雨で堤防から越水するような場合には、周囲に大きな被害をもたらす。

 洪水から逃げ遅れれば命にも危険が及ぶ。そのため国土交通省や都道府県は河川の洪水予測システムを運用し、危険が迫れば住民に避難を呼び掛けるなどの対応を行っている。

 しかし、この洪水予測システムは実は十分とは言い切れない。主要な河川はカバーしているものの、末端の支流などの小河川までは管理しきれていないからだ。これらを起点に氾濫が起きることもあるため、全てを網羅できるのが本来は望ましいが、コスト面などの問題からそれは難しいのが現状だ。

 この課題を、最新の計算パワーと予測モデルで克服できないか──。そう考えて2018年にプロジェクトを立ち上げ、2019年に研究成果である「全国版リアルタイム氾濫予測システム」の実現を発表したのが、三井共同建設コンサルタント、京都大学防災研究所、NECの3団体だ。

 これは小河川も含めた全国河川の洪水を、最大で6時間先まで10分ごとに予測できるというもの。自治体ではすでに兵庫県が県内の洪水予測に採用し、運用を始めている。

三井共同建設コンサルタントなどが開発した「全国版リアルタイム氾濫予測システム」

 従来のシステムではできなかった“洪水予測の全国網羅”を、このシステムはいかに成し遂げたのか。三井共同建設コンサルタントで洪水予測業務に携わる近者(こんじゃ)敦彦部長と、NECでスーパーコンピュータ「SX-Aurora TSUBASA」を担当する泓(ふち)宏優さん(AIプラットフォーム事業部 上席事業統括)に話を聞いた。

入力は降雨分布だけ 浸水区域や“戻ってきた氾濫水”まで考慮するRRIモデル

 まず、このシステムの核となっている氾濫予測モデル「RRI」が従来の予測モデルとどう違うのかを見ていきたい。

 このモデルは京都大学防災研究所の佐山敬洋准教授が2011年に研究発表したもので、端的には「予測雨量から河川の増水と氾濫を一体で解析できるモデル」といえる。国や都道府県が標準的に使っているモデルができるのは、予測雨量から河川の増水を予測することまで。「水位が河岸や堤防を越える」までは予測できても、具体的にどう氾濫するかまでは予測していない。

従来の洪水予測モデル(左3つ)とRRIモデル(右)

 「どう氾濫するかの解析は各メッシュ間の計算が必要で、解析負荷が高い」と近者さんは指摘する。

 一方、RRIモデルは全国を120×100mのメッシュに区切り、標高など土地の特徴をあらかじめモデル化しておけば、後は雨の予測分布を入力するだけで河川の流量、水位、浸水区域、浸水の深さまでをメッシュ単位で出力できる。雨の分布の他にも、ダムの放流や現在の水位などを入力に含められる。

RRIモデルでは降雨分布を入力すれば流量・水位・浸水区域が算出される

 氾濫後の水の動きを捉えられるのもポイントだ。氾濫水は自然とどこかに消えるわけではなく、多くの場合はいずれかの地点で川に戻る。つまり、川の水位には雨だけではなく氾濫水も影響する。従来モデルは氾濫水の影響によって流量予測の精度が落ちてしまうという欠点があったが、RRIモデルはこれも計算できるということだ。

 するとどうなるか。従来モデルでは洪水予報を出せなかったような中小河川の洪水予測が可能になるだけでなく、 どこの地域がどれだけの深さ浸水するのかまで予測できるようになる。例えば自治体がこれを使うのなら、特に逃げるべき地域を見定めて優先度を上げて避難誘導を行える。

 だが、全国規模でこの計算を行うのは簡単なことではない。メッシュ自体も細かく、隣り合う区画同士の相互作用などを逐一計算することになり、莫大な数の変数の更新が必要になるからだ。

CPU環境から載せ替えるだけで約6倍の計算速度に

 そのため、研究段階ではまずJAMSTEC(海洋研究開発機構)に設置されたスパコン「地球シミュレータ」を使った。地球シミュレータはNECのスパコン「SX」シリーズで代々構成されており、SXシリーズはベクトル演算(並列計算)を可能とするプロセッサであることから、RRIモデルの検証には相性が良かった。

 ただ、商用展開に当たって地球シミュレータをバックボーンとするのには問題があった。同マシンは研究・開発・設計・製造や教育などを目的としているため、サービス提供での利用が想定されていなかったのだ。

 高いSLA(サービス品質保証)を確保するため、2019年にシステムを発表した際はx86(Intel Xeon、8コア、3.2GHz)のIaaS環境をバックボーンに選択していた。これでも1時間先までの予測が可能だったが、洪水という危険を防災担当者が住民に知らせるにはいささか心もとない猶予だ。

 「地球シミュレータと同じような並列計算環境を、IaaSのようには使えないか」。三井共同建設コンサルタントがこのような相談をNECに持ちかけ、NECは最新のベクトル型スパコンSX-Aurora TSUBASAをクラウドサービスとして提供することを決めた。

ベクトル型スパコン「SX-Aurora TSUBASA」の核であるカード型ベクトルエンジン
ベクトルエンジンを複数収めたラック NECは顧客の要望に応じて柔軟に計算リソースを提供している

 ここで注目したいのは、並列計算環境としてのSX-Aurora TSUBASAのメリットだ。一般には並列計算といえば画像処理プロセッサ「GPU」も選択肢に入る。しかし、GPUで並列計算を行うには専用のコーディングが必要だ。今回のRRIモデルはCPU環境で実行することを前提としていたため、GPU向けに最適化するには大きくコードを変更しなくてはならない。

 一方でSX-Aurora TSUBASAは、CPU環境向けのコードをほぼそのままに、ベクトル化の宣言をわずかに追加してコンパイルするだけで、ベクトル計算を実行できるという特長を持つ。三井共同建設コンサルタントは各環境での計算速度も比較しており、XeonからXeon+GPU(NVIDIA Tesla V100)に適用させて実行した場合(GPUへの最適化なし)でも2.1倍の高速化はできたが、XeonからSX-Aurora TSUBASAに適用させて実行すると5.7倍の高速化を達成できたという。

SX-Aurora TSUBASAに載せ替えただけで5.7倍の高速化に

 これらの評価結果から「簡単にできる範囲ではGPUを使うよりベクトル型を使う方が速い」と近者さんは判断した。

 これにより、 当初の環境では1時間先までしか洪水を予測できなかったが、6時間先までの予測が可能に。大雨が予測できている範囲であれば、洪水が起きる6時間前に防災担当者が避難を呼び掛けることもできるようになった。入力データによってはそれを10分間隔で更新することも可能で、常にフレッシュな予測を提供できる環境になったといえる。

精度は導入先に合わせチューニング

 ここまで地理的・時間的な予測範囲を見てきたが、予測の精度にも触れていきたい。実は、システムのデフォルトではある程度実際の水位とずれる場合がある。迅速な予測のために、地形のいくつかの特徴をあえて無視しているからだ。

 例えば土地への水の染み込みやすさだ。コンクリートで固められている川は雨量がダイレクトに水位となるが、特に山地の川の場合は水が地下に染み込み、一部がゆっくりと下流へ流れていく場合もある。

 実際に、2020年7月の熊本豪雨の際に氾濫や決壊があった球磨川水系において「令和2年7月球磨川豪雨検証委員会」で検証された再現結果と比較すると、デフォルト設定による予測ではピーク時の流量が検証委員会のデータをやや下回る結果となった。

2020年6月27日〜7月13日の球磨川水系の流量データ

 ただし、こうした土地の特徴もモデルに反映はできる。そうしてチューニングすると流量ピークは検証委員会のものとほぼ重なる他、浸水区域や浸水度(深さ)についても、国交省による球磨川水系の浸水推定図と近いデータを作成できた。

国交省の浸水推定図(右上)に対し、デフォルト(左下)でも浸水区域は近似できている。調整モデル(右下)は浸水深(色の濃さ)も近い

 「実際にシステムを納入する際には納入先と相談してチューニングを施します。兵庫県では水位観測所地点の86%でピーク時の水位差が50cm以内になるようにしています」(近者さん)

重要なのは予測の先

 三井共同建設コンサルタントとNECなどが取り組んだ今回の洪水予測。対象となるサービス利用者は自治体がイメージとしてまず思い浮かぶものの、NECはSIerとして、より広い業界へのアプローチを見込んでいる。

 「例えば損害保険会社には需要が見込める。このシステムで区域ごとの浸水リスクが分かれば建築物などの査定には有用だろう。BCP対策などを手掛けるコンサルティング会社にもニーズはありそうだ。他にも、水が溜まりやすい場所が分かるという特徴を使えばダム建設などにも使えるかもしれない」と、NECの泓さんは見通す。

 近者さんと泓さんが強調するのは「ただ予測をするだけではなく、有効に活用してもらうことが重要」ということだ。

 「予測を見て、次にどういう行動につなげないといけないのか。それは自治体や導入先が判断することだが、それを支援できるようにしていくべきと思っている。一緒になって運用を改善していきたい」(近者さん)

 「NECは他にも災害対策などのソリューションを持っている。それらとこの洪水予測システムを組み合わせることで、企業の経済的損失を低減できるようなソリューションを生み出したい」(泓さん)

見直すべきスパコンの“価値”

 スパコンというとこれまでは「研究機関や大企業などが研究開発に使うもの」というイメージもあり、一般企業が手を出しづらい空気もあったのではないだろうか。

 しかし、NECはSX-Aurora TSUBASAでPCIeカードサイズのカード単体販売も含め、今回はクラウドとして提供するなど、企業が利用しやすい柔軟な形でマシンを提供している。泓さんは「NECは“コト売り”を目指している。スパコン自体ではなく、スパコンの計算から得られる情報を提供したい」と話す。今回はまさに、スパコンの計算結果が商品価値になっている事例といえるだろう。

 もし計算リソースが事業のボトルネックになっていたら、NECに相談してみると解決策が開けるかもしれない。

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