AIは“放置”で賢くならない ビジネス活用で気を付けるべきデータガバナンスと運用の掟

» 2021年11月18日 10時00分 公開
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 現代の企業はデータに支えられている。多くのビジネスシーンではデータを基に判断がなされ、業務効率化や利益の追求、顧客満足度の向上などに役立てられている。しかし、加速するビジネスのスピード感に対応するには、既存の技術や手作業では到底追い付かない。そこで注目されているのがAIだ。

 機械学習が火付け役となった第3次AIブーム以降、さまざまな業務課題の解決やDX(デジタルトランスフォーメーション)の実現などに対するソリューションとして、AIを活用する事例が増えている。うまく課題にハマれば期待した結果を得られることもあるが、とはいえAIは“導入すれば全てがうまくいく”魔法ではない。

 AIは適切な学習をさせ続けることで、その答えの精度を高め続けられるものだ。AIを活用したシステムやツールを導入した後も、しっかりと結果の検証と再実装といった運用をし続ける必要がある。いわば“循環型のAI活用”が現場に定着しなければ、十分な効果を得ることは難しいだろう。

 NECの本橋洋介氏(AI・アナリティクス事業部 シニアデータアナリスト)は、「“よいAI”を実現するには、AI活用の循環モデルがきちんと整備されていることが必要です。企業のデジタルガバナンスを構成する『データガバナンス』や『AIガバナンス』をどうすべきか、AI・機械学習が作成した分析モデルを管理する『MLOps』にどう取り組むべきか、組織・経営者の視点で考えていくことが重要です」と指摘する。

 そんな課題を解決するヒントを探るため、9月にNECがオンラインで開催した「NEC Visionary Week 2021」では、同社の本橋氏とTrust Baseの田中聡氏(取締役CEO)、経済産業省の泉卓也氏(商務情報政策局情報経済課 情報政策企画調整官)が、「“データとAIで企業を支える”データガバナンスとMLOpsの考え方とは」と題したトークセッションを実施。それぞれの立場や所属する組織の事例などを通じて意見を交わした。本記事ではその模様をレポートする。

photo 左からNECの本橋氏、経済産業省の泉氏、Trust Baseの田中氏(取材中は感染症対策を実施し、撮影時のみマスクを外しています)

急速に変化する顧客接点とデータ管理 三井住友トラスト・グループが取り組むDXとは

 三井住友信託銀行や関連企業を束ねる三井住友トラスト・ホールディングスでは、2020年から始まった中期経営計画の中核施策としてデジタル戦略を推進している。同社はグループ全体のDX戦略を一手に担う戦略子会社であるTrust Baseを設置して、既存の枠組みにとらわれないデジタル化を目指して積極的に取り組んでいる。

photo Trust Baseの田中聡氏(取締役CEO)

 「当社は、銀行から分離された新しい組織として、従来の枠組みでは実現が難しい人材や開発環境の変革にチャレンジしています。ゼロトラストセキュリティやマルチクラウド、DXエンジニアチームによる内製化などについて経験を重ね、知見・能力・人材を獲得し、グループ全体や社会へ還元していきたいと考えています」と田中氏は説明する。

 Trust Baseが推進しているデータ活用施策を紹介しよう。新型コロナウイルス感染症の拡大で新常態が浸透しつつある中、信託銀行の顧客接点も急速に変化している。従来の顧客接点は窓口が中心で、対面での営業や相談受付が“主”であり、Web面談や電話・チャットなどが補助としての“従”として扱われてきた。顧客もいずれかのチャネルを集中的に利用することが多かった。

 ところが近年は、住所変更といった事務的な処理であればWeb、資産運用の相談は対面でじっくり行うなど、目的や状況に合わせてチャネルを使い分けるマルチチャネル化が浸透しつつあり、その傾向がコロナ禍によって加速した。

顧客との接点がマルチチャネルになるということは、どのチャネルでも同様の顧客対応を提供する必要がある。すると、チャネル間においてデータの連続性を確保しなければならない。

 「いまや電話などの音声情報も高い精度でテキストデータ化し、解析できるようになっています。そこで私たちは、お客さまとの個別面談や電話・チャットの記録などをデータとして蓄積・分析し、他のチャネルの業務改善や顧客満足度向上に役立てるという取り組みにチャレンジしています」(田中氏)

 そこで課題になるのが、データの正規化である。三井住友トラスト・グループでは、信託銀行事業・不動産事業・年金事業などさまざまな事業を展開している。それぞれの部門で扱っているデータの形式はもちろんのこと、それぞれで利用許諾の範囲が異なる顧客データが混ざることはデータガバナンスとして適切ではない。現状では取得の背景が異なるデータが混ざらないようにデータベースを分けており、それら複数のデータベースをソースにしてデータ分析を行っている。将来的には、よりスマートな手法に改善していきたいという。

 「各事業会社と密接に連携し、Trust Baseが提供する解決策や洞察を基に、次の改善策へ役立てられる──そうした循環を形成するためには、顧客に最も近い現場のメンバーや私たちが、共に“MLOpsの環”の中にいることを意識すること、組織全体としてお客さまのためになるデータの利活用に取り組むという共通認識を持つことが重要です。そうした“攻めのビジネス”のためにも、しっかりとガバナンスを効かせたデータセットを持つことを重視して、改善を繰り返していきたいと考えています」(田中氏)

AIで長期的な価値を生み出すには? MLOpsの取り組みを支援するサービス

 NECの本橋氏は企業のDX推進において、「データの蓄積と活用がサイクルとして循環していくことが非常に重要」と強調する。「データ活用を実験的に行って終わりでは、企業にとっての価値につなげることは難しいでしょう。データをどのようにつなぎ合わせていくか、といったビジョンの策定と、企業の成長につながる施策に取り組んだ後に、どのように継続させていくかが、難しいながらも重要な課題です」(本橋氏)

photo 本橋氏がセッションで投影した資料より(クリックで拡大)

 そこで重視したいのが「MLOps」と呼ばれる概念──AI・機械学習をどう運用していくかという視点だ。AIでなくともデータを活用するシーンはあるが、データの劣化に伴う性能や効果の低下に対処する必要がある。また、AIは作って運用を始めれば結果の精度が上がっていく、自ら賢くなっていくという期待があるが、実際は精度を維持したり向上させたりするために、学習させるデータやモデルのチューニング、そして得られた結果が適正であるかの検査が欠かせない。

photo NECの本橋洋介氏(AI・アナリティクス事業部 シニアデータアナリスト)

 「10年近く稼働させているAIでは、長期的な稼働の過程で、おかしな挙動になることがあり、それを改善させ続ける必要があります。AIは伴走して育てていくことがとても重要で、そのための仕組みづくりやガバナンスが欠かせません」(本橋氏)

 そういった背景から、NECではモデルのモニタリング、更新、継続的な改善をサポートする体制を万全に整えているほか、同社のデータサイエンティストやシステムアーキテクトのプロフェッショナルが、データを溜めるだけでなく中長期的に価値を高め続けられるようにする取り組みをサポートしている

「せっかくAIを活用したのに、事業を“寂しい結果”で終わらせたくはないはずです。より良い方向に進めたい企業を引き続き支援していきたいです」(本橋氏)

AIガバナンス・ガイドラインは、AIに取り組むプレイヤーの共通言語

 AI技術は、企業のデータ活用の推進剤として大いに期待できる。しかし一方で、“AIやデータを正しく活用する”ことも重要だ。機械学習モデルを構築するには学習用データが必要となるが、これに差別などのバイアスが反映されてしまうと、AIシステムを通じてそれが露呈するというケースも考えられる。こういったAIガバナンスも重視しなければならない。

 日本国政府は、AIによる便益の享受とネガティブな側面への対処の両立をリードしている。2019年3月にはハイレベルな指針として「人間中心のAI社会原則」を発表、2020年6月にはAIガバナンスの本格的な検討に着手し、経済産業省が2021年7月に「AIガバナンス・ガイドライン」を公表した。

photo 経済産業省の泉卓也氏(商務情報政策局情報経済課 情報政策企画調整官)

 AIガバナンス・ガイドラインでは、AIガバナンスを「AIの利活用によって生じるリスクをステークホルダーにとって受容可能な水準で管理しつつ、そこからもたらされる正のインパクトを最大化し、負のインパクトを最小化することを目的とする、ステークホルダーによる技術的、組織的および社会的システムの設計および運用と定義している」と泉氏は説明する。

 「この定義には少し分かりにくいところもありますが、社会的なシステムとしてのAIガバナンスを層構造で捉えると理解しやすいかもしれません。AI社会原則やハイレベルガイダンスは私たちが実現したい価値でありそれをどうやって実現するかという点が現在の課題です。この課題を解決するために個別分野にフォーカスしたルールや技術標準などもありますが、複数分野に横断的な法的非拘束のルールを提示するのがAIガバナンス・ガイドラインです」(泉氏)

photo 泉氏がセッションで投影した資料より(クリックで拡大)

 AIガバナンス・ガイドラインでは、「環境・リスク分析」「ゴール設定」「システムデザイン」「運用」「評価」を繰り返す環状の実践方法を指針として提案している。このうちシステムデザインは、技術的なシステムだけでなく、組織的なシステムや運用ルールも含まれており、「人材のリテラシー向上や事業者間連携なども重要」であると泉氏は指摘する。

photo 泉氏がセッションで投影した資料より(クリックで拡大)

 「AIガバナンス・ガイドラインでは、企業の支援策として14の行動目標を提示しています。また、仮想的な実践例やAI社会原則との乖離評価例などを紹介しています。特に重要なことは、事業者間取引などで同じ目線で話せる共通言語となるように作成していることであり、各社の自主的な取り組みを後押ししたいと考えています」(泉氏)

 その上で、泉氏は「NECさんはAIガバナンスの実践において業界をリードされていると思います。ぜひ事業者間の中核になっていただいて、社会全体におけるAIの適切な利用を推進してほしい」と期待を寄せた。

“本当に使えるAI”を実現するには、継続的で実践的な運用手法が鍵に

 「AIを導入すれば、勝手に賢くなって私たちのビジネスを正解に導いてくれる」──そんな期待は間違っているということが、あらためて身に染みた人も実は多くいたのではないだろうか。AIとは小さな子供のようなもので、どのようなデータを与えるか、どのように学んでもらうかによって、その結果は大きく変わってくる。

 AIブームによって、AIを活用したシステムやツールを導入した企業は多い。しかし、最初に作ったモデルやルールが、いつまでも使い続けられるわけではない。

 継続して価値を生み出し続けるAIに育て上げるには、これからはMLOpsという継続的、かつ実践的な運用手法が重要な鍵になるだろう。ビジネスで本当に使えるAIを導入して事業の競争優位性を高めたい──そのように考えるなら、AIの継続的な運用を熟知したNECに相談してみてはいかがだろうか。

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アイティメディア営業企画/制作:ITmedia NEWS編集部/掲載内容有効期限:2021年12月15日