DX時代のデータ活用に役立つツール 「統計学が最強の学問である」著者が起業して開発に至った背景に迫る

企業のDXやデータ活用を手探りで進めるのは難しいものです。そこでデータ活用の“いろは”を解説したベストセラー書籍「統計学が最強の学問である」の著者である西内啓氏に、日本のDX推進のヒントを聞いた特別対談の前編です。

» 2021年12月15日 10時00分 公開
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 企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)やデータ活用が叫ばれる中、手探りで進めるにはハードルが高いこともあります。さまざまな成功例が紹介される一方で、データ基盤の構築や機械学習の応用などの説明は難しいので苦手意識を覚えてしまう人もいるはずです。

 そこで今回は、データ活用の“いろは”を解説してベストセラーになったビジネス書「統計学が最強の学問である」の著者で、データ分析ツールを提供するデータビークル(東京都港区)の副社長 CPOである西内啓氏をお招きして、DXやデータ活用のポイントを解説してもらいました。

 聞き手は、企業のAI活用を支援する取り組みを進めるデル・テクノロジーズの執行役員を務める上原宏氏(データセンター・ソリューションズ事業統括 製品本部長)です。

 西内啓氏と上原宏氏の特別対談を2回に分けてお届けします。前編では、「統計学が最強の学問である」が生まれるまでの裏話や、日本社会のDXの現状について熱く語りました。

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西内啓(にしうち ひろむ)

データビークル 取締役副社長CPO

東京大学医学部を卒業。医療コミュニケーション学分野の助教授や大学病院医療情報ネットワーク研究センター副センター長などを経て、現在は多くの企業のデータ分析および分析人材の育成に携わる。著書「統計学が最強の学問である」はビジネス書大賞2014で大賞を受賞。他執筆多数。

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上原宏(うえはら ひろし)

デル・テクノロジーズ 執行役員 データセンター・ソリューションズ事業統括 製品本部長

同志社大学法学部を卒業。セイコーエプソンで欧州統括本社などに駐在。その後、コンパックコンピュータ、日本ヒューレット・パッカード、EMCジャパンなどでエンタープライズ製品関連のマーケティング統括などを歴任。2016年からデル・テクノロジーズにてサーバの製品本部を率いる。

西内啓氏が明かす 「統計学が最強の学問である」が生まれたワケ

上原 西内さん、まずは自己紹介をお願いします。

西内 私はプロフィールに東大医学部卒業と書いていますが、実は医者になるための勉強をしたことはありません。もともとの勉強のモチベーションが「人間を理解したい」という思いだったので、東大入学時は生物系の教養課程に進みました。しかし実際には、遺伝子や脳を勉強してもあまり「人間」が分かりませんでした。

 人間を研究対象にした学問は他にもあります。心理学や社会科学など文系の学問について面白いと思うところは、だいたい統計学を使って実証されていることです。当時は「統計学部」や「データサイエンス学部」といった学部はありませんでした。人間を対象にした統計学を勉強する場として、医学部の中で統計学を教えている先生のもとを訪ねたことが本格的に統計学を勉強し始めたタイミングです。

 そのころは根拠に基づく医療の必要性が高まっていた時期で、恩師のもとには日本中のありとあらゆる人からデータ分析の相談が届いていました。そんな中、先生がデータ分析のアルバイトを探していたので、大学3年生だった私が手を挙げてお受けするようになりました。気が付くとそこから20年間、データ分析の仕事を今でも続けているというのが私のキャリアです。

photo データビークル副社長 CPO の西内啓氏

「統計学が最強の学問である」は「社会貢献みたいな感じで書いた」

上原 西内さんが2013年に出版された著書「統計学が最強の学問である」は私も拝読しました。これがきっかけで、データサイエンスや統計学が市民権を得て広まったのをよく覚えています。当時はどのような思いで執筆されたのでしょうか。

西内 当時はフリーランスの統計学者という珍しい職業をしていた時期でした(笑) 社会人として最初の仕事は大学教員でしたが、研究や大学院生に教育するだけでは統計学の知恵が世の中に普及していかないと思って20代で大学教員を辞めました。

 そこからいろいろな会社のデータ活用をお手伝いする中、note創業者の加藤貞顕さんにお声がけいただき、彼がnoteの前に作ったコンテンツ配信サービス「cakes」のレコメンドエンジンのアルゴリズムを私が書くことになりました。その時に加藤さんから「君も記事を書いてみない?」とお願いされてお受けしたのが、この本のきっかけです。執筆当時は価値があることを冷静に整理して書こうと、半ば社会貢献みたいな感じで書いたら意外と売れてびっくりしました。

上原 私もこの本を読んだとき、実直に説明をされていたので、売ろうと思って書かれたのではないように感じました。そして今まさに本に書かれた通りになっていますね。

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データサイエンティストの仕事の8割を自動化するツール開発

上原 お話の中にあった、安定した大学教員の道を捨て、データビークルを起業された勇断も興味深いです。どのような経緯で起業されたのでしょうか?

西内 私の性格上「不毛」という言葉が一番嫌いな言葉です。大学教員を辞めたのも、そこで自分の若い時間を使うには非生産的なところがあったので、その無駄を省いて「全力でデータサイエンスの仕事した方が面白いのではないか」と思ったからです。

 加えて、データサイエンティストとしてプログラムを書いていろいろな人と話し合うのは楽しいですが、分析前のデータ加工において毎回同じようなプログラムを書くのも不毛であると感じました。

 そこで毎回書く部分はもうパッケージ化した方が良いのではないかと考えました。私が作った、誰でも簡単にデータ分析できるツール「dataDiver」(データダイバー)の原型は創業前からありました。これを実際に世の中に普及させるには、やはりチームでやる必要があります。

 こうした同じ作業の繰り返しが起きてしまう問題は私だけの話ではありません。多くのデータサイエンティストもデータ加工に手間がかかっており、手間をかけて分析結果を出したらお客さまにダメ出しをされて、分析の大きな方針転換があればまたゼロからデータ加工用のプログラムを大量に書き直し――こんなことも頻繁に起きています。

 しかし、dataDiverであればそうしたデータ加工の面倒な作業も含め、ざっくり言えばデータサイエンティストの仕事の8割ぐらいは自動化できます。そうすればデータサイエンティストの皆さんがもっとクリエイティブなこと、新しいこと、より詳しい専門知識を必要とすることに頭を使っていただけるのではないかと考えたことが私の起業のモチベーションでした。

サッカーJリーグもデータ活用を実践 西内氏がアドバイス

上原 そんな中、西内さんはサッカーJリーグのアドバイザーにも就任されていますが、ここでも統計学やデータ活用の観点でアドバイスされているのですか?

西内 まず私がアドバイザーを拝命した経緯をお話します。私の著書「遠藤保仁がいればチームの勝ち点は117%になる」を読んでくださったJリーグの関係者からお誘いを受けたことがきっかけです。当時のJリーグでは、アドバイザーを招いて外部からアドバイスをもらうことで、狭い業界内だけでは生まれない新しい発想を取り込もうという意見があり、私にもお声がけいただきました。

 Jリーグの試合では紙の入場チケットだけでなくアプリを使って入場したり、同じアプリの仕組みを通してユニフォームなどのグッズを買ったりできます。

 このようにちょうどJリーグがDXを進めようとするタイミングで、その中でどのようにデータを収集して、どのように活用すべきか相談を受けたり、クラブのマーケティング担当者向けに教育したりと、データが活用できる文化を地道に作っていく努力をしています。

なぜDXが進まない? 西内啓氏が理由を解説

上原 Jリーグのデータ活用にもつながる話ですが、われわれデル・テクノロジーズも「Dell de AI」(でるであい)プロジェクトを通じて日本のDX推進に取り組んでいます。日本では先端テクノロジーの活用に保守的な傾向があることもあり、欧米と比べてなかなかDXが進まない点に危機感を抱いています。西内さんから見て、日本でDXやデータの活用が進まない理由はどこにあるとお考えですか?

photo デル・テクノロジーズ 執行役員の上原宏氏(データセンター・ソリューションズ事業統括 製品本部長)

西内 私がアメリカに留学していた時のご縁でいろいろな人に話を聞くと、「日本の格差の小ささ」に要因があると思います。これは日本の強さでもあり弱さでもあります。

 例えば、アメリカだと明確にホワイトカラーとブルーカラーで分かれていて、数学的なリテラシーが高い人が本部の中心から現場に指示を出します。

 一方で、日本は昔から「統計的品質管理」という活動があり、IT製品がなかった時代は、現場でそろばんと方眼紙、色鉛筆しかないような状態でもきちんとデータを視覚化して、品質や生産性を下げる原因が何かを考えていました。そうすると現場レベルでディスカッションするので、そういう背景の文脈と現場の知恵とデータを合わせることでどんどん品質を改善してきました。日本は戦後ずっとこうしてきたわけです。

 アメリカのようにものすごく格差が開いている状態だと、経営者がデータを活用して指示を出し、現場はそれにただただ従う、という形でうまくいっているのかもしれません。

 日本で一気にDXやデータ活用を進めるとなれば、「みんなもやっているから俺もやらなければ」という状況になって、1個オセロをひっくり返すと全部ひっくり返る、そういう瞬間が遠い話ではなく数年というレベルで起こるのではないかと考えています。

上原 日本における、コロナワクチンの接種もそれに近いですよね。打ち始めはすごく遅くても、一度打ち始めたら接種率が世界でもトップクラスになりました。日本の国民性と言いますか、エンジンがかかるのは遅くても、一度動き出したら一気に広がるという状況は、DXにおいても大いに期待しているところです。

どのようにデータ活用を進めるのか?――後編で熱弁

 「人間を理解したい」という思いから始まった西内氏のデータ分析に携わる人生は、「統計学が最強の学問である」を通して日本社会にデータ活用や分析の重要性を気付かせるに至りました。そんな西内氏の目には、日本のDXやデータ活用の進展について明るい未来が映っていました。

 では、どのようにDXやデータ活用を進めればいいのでしょうか。後編では、より多くの人に手軽なデータ分析を広めたい――そんな思いで生み出されたdataDiverの開発コンセプトを通して、DXやデータ活用の考え方を解説します。

■この記事はデル・テクノロジーズから提供された原稿を、ITmedia NEWS編集部で一部編集したものです。

■編集履歴:2022年3月7日午前10時00分 タイトルや本文見出しの記述を変更しました。


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おすすめ(1)「統計学が最強の学問である」著者が語るデータ活用


【前編】
DX時代のデータ活用に役立つツール 「統計学が最強の学問である」著者が起業して開発に至った背景に迫る

【後編】
データ分析にAIを使うメリットを解説 “データサイエンティストいらず”の専用ツールを活用事例と一緒に紹介


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