現代は「データの世紀」と呼ばれることがある。日常生活からビジネス、社会インフラの運営に至るまで、あらゆる場面でデータを活用しているからだ。企業の競争力は、大量のデータから価値を生み出すコンピュータの「計算能力」に左右されるほどになった。
中でも近年は、HPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)の重要度がますます高まっている。その背景には、極めて大量のデータと計算能力が必要な技術に注目が集まっている状況がある。例えばメタバースや、現実世界をサイバー空間上に再現するデジタルツインといった技術だ。
このHPCの重要性は、国際情勢の変化からも読み取れる。HPCには大量の先端半導体が必要だ。この半導体を巡って各国が争奪戦を始めており、HPCなど強力なコンピューティングパワーをどう獲得し、どう使いこなすかがビジネスひいては国家の競争力を左右する。
重要度が増す半導体の開発を通じて、世界中のコンピュータの変革を最前線でリードしてきた企業の一社がインテルだ。今回は同社の日本法人に、今後のビジネスの姿とインテルが描くHPCの将来像を聞いた。
インテルがHPC領域で果たした功績の一つに「HPCの民主化」がある――こう話すのは、これまでスーパーコンピュータのビジネス開発に長年携わってきたインテルの矢澤克巳氏(インダストリー事業本部 HPC事業開発部長)だ。
数十年前までは、各メーカーが独自のプロセッサーやハードウェアを開発して提供する垂直統合型のエコシステムを作り上げていた。この場合、ある一社を選ぶとそれ以外の製品や技術を取り入れることが難しい。
「インテルは高性能のデータセンター向けプロセッサーを開発するだけでなく、そのインタフェースを標準化して広く開放し、誰でも参画できるエコシステムを目指しました。これにより特定の人向けの特定用途に限らず、多くの人が使えるようになります。その結果、さまざまなハードウェアやソフトウェアの開発が進んで新たな技術が登場し、さらに業界内での競争が活発になることでより使いやすいソリューションを低コストで実現できました。HPCを含む幅広いワークロードに対応したプロセッサー『Xeon® スケーラブル・プロセッサー』を筆頭に、こうした下地を作ったのがインテルです」(矢澤氏)
これまでHPCは、一部の研究機関や企業が学術研究や技術開発に使うにとどまっていた。しかしインテルが遂げたHPCの民主化は多様なプレイヤーの市場参入を促し、応用分野が急速に広がった結果メタバースのように世界を変える可能性を秘めた次世代のテクノロジーが登場し始めている。さらに民主化とともにインテルがコストダウンに努めてきたことで、小規模な組織や個人であっても強力な計算能力を手に入れられるようになった。
Xeon® スケーラブル・プロセッサーは、HPCを念頭にサーバやワークステーション向けに開発したCPUだ。2015年に登場した「第1世代Xeon® スケーラブル・プロセッサー」は、強力な並列計算の命令セット「AVX-512」を搭載するなどHPC向けXeon® スケーラブル・プロセッサーの先駆けとして注目を集めた。
この初代製品の正統な後継者こそ、21年に登場した第3世代Xeon® スケーラブル・プロセッサーだと矢澤氏は強調する。同プロセッサーは、10nmプロセスのIce Lakeマイクロアーキテクチャをベースに構成している。従来製品と比べてAVX-512の動作周波数を向上させ、メモリの立ち上がりも高速化した。これにより流体力学シミュレーションや創薬シミュレーションなど、HPCで多用される浮動小数点演算処理の効率を大幅に改善している。さらに汎用プロセッサーとしては世界的に見ても早い段階でAI向けアクセラレーターを実装した。
「コア数やメモリのクロック周波数といった単純なスペック向上以上に、アプリケーションを実行してみると、ものすごく素直に期待以上の性能を発揮します。第3世代 インテル® Xeon® スケーラブル・プロセッサーは最大40コアながらデータ処理が実に円滑で、これは触ればすぐに実感できます」(矢澤氏)
もちろん第3世代Xeon® スケーラブル・プロセッサーの性能は数字にも表れている。製造業や金融業、ライフサイエンスといった幅広い分野で使われるHPCワークロードのうち主要な20項目については、前世代比で性能が約49%向上した。さらに「インテル® ディープラーニング・ブースト」などの機能が強化されており、AI向けの自然言語処理では前世代比で約74%もの性能向上を実現した。
HPCの使い方を考えたとき、大量のデータを処理する、しかも異なる会社間でデータ共有して処理をするといった用途が増えてきた。扱うデータの中には内部情報や機密情報が含まれている場合もあり、これまで以上にデータセキュリティが重要になる。Xeon® スケーラブル・プロセッサーには、メモリ内のデータと特定のアプリケーションを隔離するデータ保護機能「インテル® ソフトウェア・ガード・エクステンションズ」を組み込んでおり、第3世代ではその機能を強化している。さらにメモリの暗号化機能「インテル® トータル・メモリー・エンクリプション」や、ファームウェアを保護する「インテル® プラットフォーム・ハードウェア・レジリエンス」といった新機能を搭載し、より一層の安全性を確保した。
ここまで第3世代Xeon® スケーラブル・プロセッサーをメインに見てきた。ここでHPCの民主化に貢献したインテルの「XPU」戦略にも注力したい。HPCの民主化によって、汎用プロセッサーでは効率的に処理しきれない特定のワークロードが増えてきた。そこに対応するため、インテルは汎用プロセッサーに加えて、汎用GPUやFPGA、AI専用のASICなどの開発を進めている。こうしたさまざまな選択肢をXPU戦略とし、さらに異種混合の半導体向けに共通のプログラミング開発環境「OneAPI」を提供することで、HPCだけでなくAIや新しいワークロードの民主化も進めている。
「インテルは、汎用的なニーズに対してCPUを強化し続け、特定用途の要望に応える製品も展開していきます。例えばデータセンター向けGPU『Ponte Vecchio』(開発コード名)や、ディープラーニング専用のASIC『Habana® Gaudi® AI プロセッサー』など、競争力のある技術や製品を提供します。インテルのXPU戦略は、全てのニーズに対して幅広くソリューションを提供していくものです」(矢澤氏)
XPU戦略で業界をけん引するインテルが現在進めているのが、エクサスケールのスーパーコンピュータへの対応だ。エクサスケールとは、1秒間に10の18乗の浮動小数点演算をできる性能(FLOPS)を指し、現行でトップクラスの計算能力といえる。同社はこのエクサスケールコンピュータ向けに、次世代のXeon® スケーラブル・プロセッサー「Sapphire Rapids」(開発コード名)を開発中だ。そしてSapphire Rapidsには、AI向けの新機能として新たな命令セット「AMX」(Advanced Matrix Extention)を追加する。
「従来型の深層学習の学習処理では、ホストCPUに加えGPGPUといったアクセラレーターを必要としていました。しかしSapphire Rapidsなら、従来はアクセラレーターで処理していたAIの学習や推論もある程度まで対応できます。シミュレーションや深層学習といった別々の用途を汎用プロセッサーのSapphire Rapidsのみで対応できるようになるので、投資対効果がとても高い選択肢になるでしょう」(矢澤氏)
これだけにとどまらず、インテルはゼタスケール(10の21乗:エクサスケールの1000倍)の計算能力を27年までに実用化する目標を掲げて研究開発を加速している。
「単に半導体プロセス技術を向上するだけではゼタスケールの実現は困難です。桁違いの処理性能になるため、消費電力の削減や熱効率の向上、新たな冷却技術の導入などを実現する必要があります。そうした各要素の技術開発をインテルがリードして業界全体を最適化することで、目標達成を目指しています」(矢澤氏)
先進的な製品の開発に意欲的に取り組むインテルの姿勢は、ユーザーのメリットを第一に考えたものだ。顧客の声から市場ニーズを吸い上げて、将来的にどのような技術や計算能力が求められるかを想定し、そこから逆算して開発を進めている。だからこそ業界の先手を打った製品を展開できている。
そして同社はこれからも本気でHPCに注力すると矢澤氏は語る。スペックだけでなく、使い勝手や消費電力、関連する技術や製品との連携、アプリケーションのパフォーマンスといった幅広い視点で総合的にユーザーの課題解決を支援する狙いだ。インテルはもはやマイクロプロセッサーメーカーだけではなく、XPU戦略からも分かるように多様なニーズに合わせて技術や製品を提供するHPCソリューションベンダーの姿も見せている。
誰でもHPCを使える世界の構築に貢献したインテルが、今後どのような技術や製品を提示してくるか注目だ。そしてHPCを活用したいと考えている人は、第3世代Xeon® スケーラブル・プロセッサーをはじめとするインテルの製品を検討してみてはいかがだろうか。課題解決に大いに役立つだろう。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
提供:インテル株式会社
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia NEWS編集部/掲載内容有効期限:2023年1月27日