さまざまな場面でAI活用が進むいま、新たなAIの可能性を探る動きが広がっている。このトレンドは、企業のAI導入が進み、次のステージに移りつつあることを示唆している――こう分析するのはデル・テクノロジーズの上原宏執行役員(データセンター ソリューションズ事業統括 製品本部長)だ。
同社は早くからAIのビジネス活用に注目し、それに取り組む企業を後押ししてきた。中でも注力するのが、AIで業務課題を解決したいと考える企業のサポートだ。課題感に合ったAIベンダーとのマッチングを支援するプロジェクト「Dell de AI “デル邂逅(であい)”」を進めている。
精力的にAIの活用に取り組むデル・テクノロジーズから、AI活用のヒントを得られるのではないだろうか。そこで今回は、同社が開催したAI活用セミナー「Dell de AI “デル邂逅(であい)”セミナー Vol.3」(2022年12月8日)の内容を詳しくレポートする。
いまAIの大変革が起きており、乗り遅れると大変なことになる――こう警鐘を鳴らすのは、基調講演に登壇したAI研究者の高木友博氏(明治大学 理工学部 教授 工学博士/Dell de AI アドバイザー)だ。AIの性能が飛躍的に高まっている中で、少し勉強すれば一般企業でもAI活用に踏み出せるという。
高木氏は、機械学習は使って当たり前の段階にあると話す。新築住宅の価格予測といった値の予測に関する「回帰問題」と、機械の挙動が正常か異常か判断するといった「分類問題」が機械学習の得意分野だ。そして、この2種類で一般的な企業の用途はカバー可能だ。さらに一度学習すれば、大量のデータでもミスなく高速に処理できるメリットがある。
「機械学習に使えるデータがあるなら、AI活用に取り組まないのは損失です。さらにAIの基礎を1週間ほど学べば、ビジネス課題をAIの切り口に展開して、必要なツールやシステムで解決する糸口を見いだせるようになります」(高木氏)
機械学習と並んで高木氏が取り上げたのが「基盤モデル」の話題だ。これまでのAI活用は、ユーザーが課題や目的に合わせてデータを用意して機械学習を行い、AIモデルを作っていた。しかし近年は、米Googleなどの大手IT企業が大量のデータを基に作った大規模モデルを公開しており、AIにパラダイムシフトを起こしている。
自然言語処理の分野では、インターネット上のテキストデータから文法や常識を学習した言語モデル「BERT」を米Googleが18年に発表した。「How are ◯◯ doing today」といった穴埋め問題を解けるAIで、計算規模を示すパラメータ数は3億4000万だった。
その後、20年に登場した言語モデル「GPT-3」はパラメータ数が1750億に跳ね上がった。GPT-3は簡単な命令文を入力すると、まるで人間が書いたような精度の高い文章を生成するまでに進化した。さらに米Googleの言語モデル「PaLM」は文章の内容やジョークの中身まで理解するもので、パラメータ数は5400億だ。他にも英DeepMindの言語モデル「Flamingo」は画像と文章をセットで理解するなど、高精度かつ大規模な基盤モデルが次々に登場している。
こうした基盤モデルのパラメータ数は1年で10倍に増えており、数カ月単位で新しいモデルが発表されている。こうした背景から、いまAIを取り入れないと乗り遅れると高木氏は指摘する。
高木氏の講演で、AI活用の重要性は理解できた。では具体的にどうすればいいのだろうか。本セミナーではAIベンダーなど6社からAIをビジネスに取り入れるヒントを得られる。ここでは各講演をコンパクトに紹介していこう。
AIのビジネス活用というと、業務改善のサポートが多くの企業で役立つ使い方だ。そこで日本AIコンサルティング(大阪府吹田市)は、煩雑な業務の改善案を自動生成するサービス「AKT」を提案している。
業務改善を進める手順は「課題の可視化→分析→改善案の立案→改善実施」という流れが一般的だ。AKTは、PCの操作ログをクラウド上で分析して、課題の可視化から改善案の立案までをAIで行う。導入企業への支援は、経営やプログラミングに詳しいコンサルタントを含む2人体制でサポートする。
主な活用先は「Microsoft Excel」を使う業務の改善で、作業のひな型生成や外部ツールとのデータ連携を自動化する。過去には、1つの資料当たり5.8時間掛かっていた作業時間を約97%減らして10分に縮めた例もある。
AIを活用した業務改革は、動画コンテンツの制作といった特定の業務でも効果を発揮する。現在、動画はマーケティングツールとして存在感を増しており、外国語字幕を付けた動画を海外展開すれば、大きな利益を見込める。
そこでAI Communis社(本拠地:シンガポール)は、日本語や中国語など18カ国語をカバーする字幕付けソリューション「Auris」(アウリス)を開発した。自然言語処理を活用した滑らかな翻訳が特長で、すでに世界で8万人超が利用中だ。
日本ではAurisと翻訳家のブラッシュアップをパッケージ化したサービスとして、1分当たり1500円という低価格で提供している。大手アパレル企業のCMから時代劇の翻訳まで幅広い実績がある。
同じ動画でも、映像の解析にAIを活用しているのが東芝デジタルソリューションズだ。東芝グループでは約50年にわたってAIを研究しており、そこで蓄積した知見やデータを基にAI基盤「SATLYS」(サトリス)を提供している。
カメラ映像を使う人物検出や物体検出、顔認証、行動認識といった6種類のAIモデルを用意し、これを組み合わせることで企業のニーズに応える。例えばドローンを使った送電線の点検や工場の外観検査、倉庫内の在庫管理など幅広い分野で導入が進んでいる。
適切なAI活用をサポートするため、同社では導入準備やAI環境の構築、保守運用までを包括的に手掛ける「SATLYSプロフェッショナルサービス」を提供している。
同様に映像のリアルタイム解析にAIを使っているのがモルフォAIソリューションズ(千代田区)だ。同社では監視カメラを活用したスマートシティーの実現に取り組んでいる。
AIソリューション「みまもりAI:Duranta」で街中を監視し、車いすや白杖を使っている介護が必要な人を見つけて係員に連絡する、倒れている人を検知して警備員に知らせるといった役割を担っている。すでにスマートシティーやショッピングモールなどで導入実績がある他、駅のホームで白線を越えた人に音声で警告するシステムが一部の私鉄で稼働中だ。
同社が注力するもう一つの領域が、デジタルアーカイブ事業だ。約1年半掛けて国立国会図書館向けに専用のAI-OCRシステムを開発した。これを基にモルフォAIソリューションズでは「FROG AI-OCR」として大学や図書館向けに提供している。
AIはさまざまな業務に役立てられるが、自社に適したAIの構築が難しい場合もある。そこで注目を集めるのが、機械学習を自動化する「AutoML」という手法だ。
このAutoMLを製品化したのがH2O.ai社(本拠地:米国)の「Driverless AI」だ。表計算シートなどの構造化データの他、画像や自然言語といった非構造化データにも対応しており、適切なアルゴリズムを自動選択してAIモデルを学習する。業界や業種を限定せず、広範囲な業務に活用できる。
同社には世界的な機械学習コンペ「Kaggle」の最高位ランク「Grandmaster」(グランドマスター)を持つエンジニアが28人所属しており、技術力は折り紙付きだ。
必要なAIモデルを準備できた後、どう活用するかが重要だ。その際、複数のソリューションを組み合わせて適したシステム構成を作り上げることが必要になる。
例えば工場で保守タイミングを最適化したい場合は「Azure IoT」で機器からデータを収集し、「Azure Machine Learning」でAIモデルを素早く構築した後、ローコードツール「Microsoft Power Platform」でアプリケーションを作成するといった構成だ。もちろんサーバやアプリケーションなどMicrosoft以外の製品も含む。
こうした環境で重宝するのが管理ツール「Azure Arc」だ。Azure関連サービスだけでなく、エッジ環境のデバイスや外部サービスまで一元的に管理できる。さらにエッジAIの開発から展開、管理までの幅広いアーキテクチャに対応した管理ツール「Azure Perfect」も用意した。
そしてAIの実行環境という点では、検証済みハードウェア上に仮想環境を構築するオンプレミス基盤「Azure Stack HCI」を取りそろえている。通常HCIは汎用サーバを複数接続するが、Azure Stack HCIはシングルノードモデルも取りそろえており、小規模なエッジAI用途のニーズにも十分に対応可能だ。
ここまで紹介してきたAI活用のノウハウは、デル・テクノロジーズが掲げる「AIのビジネス活用を広げたい」という思想に共感し、Dell de AIという枠組みの中でさまざまな企業が集まった成果の結晶だ。
デル・テクノロジーズでは具体的な課題解決のフローにフォーカスして、データから新しい知見を生むAIモデル、それを実装するソフトウェアと運用するためのIT環境など全工程でサポートします――こう話すのはデル・テクノロジーズの増月孝信氏(データセンター ワークロードスペシャリスト シニアビジネス開発マネージャー)だ。
そうしたサポートの一つに同社が運営するAI体験センター「AI Experience Zone」がある。ここはAIモデルやGPUサーバの検証、導入時の技術支援を無料で提供する施設だ。過去にはDXのために自社独自のAI導入を検討している企業が訪れた他、金融業界用のAIモデルを試して成果を実感した企業、事業拡大に伴うITインフラ拡大の事前検証に活用した企業など、多くの人が体験し、自社の事業に生かしている。
このようにデル・テクノロジーズは、さまざまな業界業種の課題をAIで解決できるソリューションを持つパートナー企業とともにAI活用の支援に本気で取り組んでいる。AIで業務改善をしたいが何から着手すればいいか分からないという人は、まずデル・テクノロジーズに相談してみてはいかがだろうか。親身にサポートしてくれるはずだ。
Dell de AI(でるであい)とは──
「AIをビジネスで活用する」──そう言い表すのは簡単です。しかし、組織にとって本当に価値のあるアクションへ落とし込むには、考えるべきことがあまりに多すぎます。誰に相談すればいいのか、どうすれば成果を生み出せるのか。「Dell de AI “デル邂逅(であい)”」は、そんな悩みを持つ企業や組織にポジティブな出会いや思いもよらぬうれしい発見──「Serendipity(セレンディピティ)」が生まれることを目指した情報発信ポータル(https://www.itmedia.co.jp/news/special/bz211007/)です。
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