「気象は未来予測できる」 天気予報を支える“すごい技術” AI活用でスパコンいらず!? 日本気象協会に詳細を聞いた

» 2022年12月22日 10時00分 公開
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 気象は、物理法則を基に未来予測できる数少ない領域の一つ――そんな言葉が飛び出したのは、日本気象協会へのインタビュー中だった。

 近いものでは10分先の雨雲の動きから、翌週の台風進路まで予測する。遠いものでは「1カ月予報」「3カ月予報」まで報じている。普段何げなく見ていた天気予報も、未来予測の一つだと気付いた。

 そんな気象業界はいま、飛躍的な進化を続けている。膨大な量の気象観測データが日夜生まれる中、それらを高精度に分析して気象予測するAIなどの技術開発が進んできた。そして、得たデータを防災情報や消費需要の予測サービスとして提供する気象ビジネスが拡大している。

 変化する気象分野の先端技術と、そこから生まれた気象ビジネスの最前線を、日本気象協会で技術戦略室を率いる博士(工学)の増田有俊氏(技術戦略室 室長)に聞いた。

photo 日本気象協会の増田有俊氏(技術戦略室 室長)

気象予測の仕組み 15年間で30%の精度向上

 よく気象庁と間違われますが、違います(笑)――増田氏の笑い声で取材が始まった。日本気象協会はオフィシャル感がある名称なので誤解する人も多いが、同協会は気象庁から許可を受けている予報業務許可事業者だ。許可番号は第5号 (※) 。その歴史は古く、1950年から気象ビジネスを手掛ける業界の先駆者といえる。

※許認可番号第1号と第3〜4号は空欄、第2号は自治体になっており、民間事業者としては最も若い許可番号だ(22年12月現在)。

 私たちになじみ深いのは「明日の天気」と検索して上位に出るWebサイト「tenki.jp」や、電車の車内ディスプレイで流れるミニ番組「トレインチャンネル天気予報」だろう。これらを手掛けているのが日本気象協会だ。

 一言で気象予測といっても、事情は国ごとに異なるという。予報を農業に生かすのか気候変動対策に生かすのかというように、用途や優先度が違う。例えば欧州はレジャー目的の長期予測が得意で、日本は防災に役立つ短期予測を強みにしている。

 そもそも、気象をどのように予測しているのだろうか。日本では官民問わず気象庁が発信する情報を基にしている。気象庁は、気象衛星「ひまわり」や地域気象観測システム「アメダス」、上空の気温や風向などを観測する「ラジオゾンデ」(高層気象観測)から集めたデータをスーパーコンピュータ(スパコン)で解析し、シミュレーションした結果を広域の気象予測として提供している。

 気象庁の情報を受けて、民間の気象会社が天気や気温、降水量などを独自に算出し、地域ごとに詳しく予測したものを気象予報士が天気予報として一般向けに伝えている。各会社の観測データを加味した物理学的計算や、独自の予測技術などが向上したことで、気象予測の精度は直近15年間で約30%改善したと増田氏は話す。

予測範囲は100キロメッシュ→13キロメッシュに データ量は80倍に

 気象予測の精度が向上した背景には、予測範囲の細分化がある。気象庁のスパコンは地球をメッシュ(マス目)状に区切って地域ごとに気象を予測している。地球全体を対象に1週間先を予測する「全球モデル」(GSM)は、以前は1メッシュあたり100キロ四方(100キロメッシュ)だったが、22度末には13キロメッシュにまで精緻化される予定である。

 さらに気象庁は2023年度末までに、日本周辺に絞って予測する「局地モデル」(LFM)を18時間先にまで延長し1キロメッシュに精緻化することを目指している。

 「10キロメッシュになっても、人々が求める精度に応えられるとは限りません。例えば長野県の西側と東側では天候が異なるので、1つの予測では足りません。また、近年はより長い期間の予測が求められています。日本気象協会では1キロメッシュの解像度で2週間先まで予測する技術を開発しました」(増田氏)

 メッシュの細分化や予測精度の向上は、データ量の増加を意味する。気象庁が提供しているデータは、1メッシュごとの縦/横/高さを含めた3次元データに時間を足した4次元のデータだ。ここにさまざまな観測データが加わるため、06年に約2.8GBだった1日の受信データ量は、20年には約80倍の約218GBになった。さらに気象衛星ひまわりは、7号機から8〜9号機への移行でデータ量が約50倍に膨れ上がり、今後運用される10号機以降はさらにデータが増える見込みだ。

 「気象分野の強みは、扱いやすいデジタル化されたデータが蓄積されている点です。そのためシミュレーションやAIといった技術と親和性が高いと考えています」(増田氏)

AIで局地の1時間雨量を予測 スパコンいらずの画期的な技術

 実際に日本気象協会では、AIを活用した技術「時空間ダウンスケーリング手法」を19年に開発した。1メッシュ5キロ四方の狭い範囲で1時間の降水量を予測する技術だ。範囲を狭めるダウンスケーリング(詳細化)手法は以前から存在したが、時間軸も詳細化したのは気象分野では画期的な挑戦だった。

photo 時空間ダウンスケーリング手法の例。メッシュの解像度が異なるのが分かる(出所:日本気象協会)

 同手法はすでにダムの運用支援サービスとして、全国で80以上のダム流域を対象に予測情報を提供している(22年12月時点)。ダム管理者は大雨の予測が出ると、ダムに最大限水を貯め込めるよう事前放流で水位を下げる。しかし予測に反して雨が降らないと、生活用水などが不足する。これまで予測精度への不安から事前放流が進まなかったが、ダム流域に対応した時空間ダウンスケーリング手法で高解像度化したデータを提供することで効率的なダム運用につながり、下流河川の水位上昇や氾濫を軽減することが期待されている。

 時空間ダウンスケーリングのAIモデルには、主に画像認識に使う深層学習の一種「畳み込みニューラルネットワーク」(CNN)を採用した。一般的な画像認識では2次元のカーネル(格子状の数値データ)を使うが、空間軸+時間軸を考慮する必要があるため3次元カーネルという先端技術を取り入れた。

 学習データには、気象庁が06年から蓄積していた「1キロメッシュ/1時間」の降水量の実測値を正解データ(教師データ)にした。正解データを基にあえて「5キロメッシュ/2時間」「20キロメッシュ/5時間」といった具合にアップスケーリング(広範化)したデータを10年分作成し、正解データと組み合わせてAIモデルを学習させる。すると関係性を学んだAIが「20キロメッシュで3時間の降水量がこれなら、1キロメッシュではこうだ」という予測結果を出力する仕組みだ。AIの予測結果に統計的アプローチを加えることで予測精度の向上を実現している。

 「気象とAIは相性が良いと考えおり、AIに詳しい職員と一緒にトライアンドエラーを繰り返しながら構築しました。20キロメッシュ/3時間で200mmの雨が予測されても、それを単純に5キロメッシュ/1時間に平均化するわけにはいきません。台風の動きや地形などが影響しますが、それをプログラミングするのは至難の業です。でもAIを活用することで地域差を踏まえた結果をうまく出せました」(増田氏)

 増田氏らが開発した時空間ダウンスケーリングの特徴は、予測の計算にスパコンといった高性能PCを使わない点だ。GPUを搭載した汎用PCでも短時間で計算できる。使いやすさはそのままに、今後は「1キロメッシュ/10分」の精度でのダウンスケーリングを目指して開発を続けている。

気象×ビジネスが生む価値 需要予測で力を発揮

 気象予測の精度向上を目指す日本気象協会が注力するのが、企業に気象データを提供してビジネスに役立ててもらうことだ。現在、気象データを事業に活用している企業は産業界の約10%(※)で、まだまだ効果的に使われているとは言いがたい。しかしビジネスに大きなメリットがあるため、日本気象協会では独自に使い方を提案していると増田氏は明かす。

※気象庁委託調査「産業界における気象データの利活用状況に関する調査報告書」(https://www.data.jma.go.jp/developer/R2_chousa.html)

photo 気象データのビジネス活用について

 気象データの活用として代表的なのが、需要予測だ。コンビニなどの小売店の売り上げは、天候や気温によって売れる商品が大きく変わる。暑い日はアイスや飲料が売れ、寒い日は肉まんやおでんが食べたくなる。消費動向を見誤ると大きな損失が出る上に、食品ロスにもつながる。またエネルギー業界では、気温で変わる電力需要や太陽光発電の発電量を予測できる。日本気象協会では独自の需要予測サービスやコンサルティングサービスを提供している。

降水量が100mmなのか200mmなのか シビアな予測がビジネスを左右する

 一般人なら雨が降る/降らないの予測が当たれば十分なケースも多いが、業界によっては降水量が100mmなのか200mmなのかで差が出るシビアな場合もあるため、精度の向上はまだまだ必要だ。そこで同協会が活用している技術の一つが「アンサンブル予測」だ。

 アンサンブル予測は、気象予測の基になる初期値をあえて複数設定して、バラツキのある数値予測を何通りも行う。例えば1週間予報を51種類算出して統計的に処理することで、確率的に高い予測値を出したり、「5日先に東京に台風が来る確率は80%、200mmを超える可能性は60%」といった表現をしたりできる。

photo アンサンブル予測の例。「令和元年東日本台風」(台風第19号)の51通りの予測シナリオ(出所:日本気象協会)

気象分野はこれから伸びる その可能性に期待

 気象分野はこれから拡大する世界だ。観測データが増え、それを処理する技術も進歩してきている。さらに地球温暖化や環境保護といった観点で気象データを活用する機会も増えるだろう。

 「気象の世界でも、AIの活用でビッグデータをさまざまな角度から分析して気象予測をするなど、新しい技術を取り入れています。今まで誰も気付かなかった気象関係の現象を解明したり、社会課題の解決に貢献したりと将来の可能性は広がっていくと確信しています。ぜひ一緒に気象分野を引っ張っていきましょう」(増田氏)

 日本気象協会では、進化する気象分野に対応するためIT人材を募集している。「気象予報に詳しくない」という心配は不要だ。増田氏の同僚は学生時代にコンクリートを研究していたが、いまは立派に気象ビジネスに携わっている。むしろ、大量の気象データで面白いことをできる、と気軽に考えてもらうのがいいかもしれない。

 そして、企業の担当者は気象×ビジネスの組み合わせを検討してはいかがだろうか。気象データのビジネス活用はまだ約10%にとどまっている。いまならビジネスチャンスを逃さず見つけられるかもしれない。

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提供:一般財団法人日本気象協会
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia NEWS編集部/掲載内容有効期限:2023年1月13日