DX、ならびにそこに向けたデータ活用、クラウドシフトの重要性を理解しながらも、ノウハウや人材不足によって思うように進んでいない日本企業は多い。こうした課題を、IBMとマイクロソフトはタッグを組むことで解決しようとしている。両社の協業には30年ほどの歴史があるが、近年はデータ活用やAIの領域にも力を入れる。聞けば、IBMとマイクロソフトのパートナーシップのもと、ユーザー企業と“三位一体”で取り組むからこそ実現できることがあるそうだ。
今回は、その根幹となる戦略「IBM データ & AI ソリューション for Azure」について、取り組みをリードする日本アイ・ビー・エムの大久保将也氏、竹内稔氏、日本マイクロソフトの大谷健氏に話を聞いた。
ハードウェアからソフトウェアまで幅広いIT製品やサービスを持つ日本アイ・ビー・エム。時代や環境の変化に合わせ、ビジネスモデルや戦略も変えてきた。2021年にコンサルティングサービスを担うブランドを「IBMコンサルティング」として一新。他社とのパートナーシップを強化し、エコシステムの拡大に力を入れる。その狙いについて竹内氏は「お客さまのミッションクリティカルなシステムをサポートするには、IBMの力だけでなく、さまざまなパートナーの協力が重要」と説明する。中でも、マイクロソフトとは長年深い関係性を築いており、特に近年はデータ活用やAIの領域での協業が進んでいる。
「データ活用とAIの領域で『Microsoft Azure』をはじめ競争力のある製品を提供しています。またSaaSビジネスアプリケーション 『Microsoft Dynamics 365』 や、ローコーディング開発プラットフォーム 『Microsoft Power Platform』 など、さまざまなテクノロジー領域をカバーしているのがマイクロソフトの強みです。特に『Microsoft Teams』をはじめユーザーが日々接するコラボレーション領域のプラットフォーム、やセキュリティ関連のサービスが充実していることもポイントです。弊社にとって強力なパートナーと捉えています」(竹内氏)
一方、マイクロソフトとしてもIBMと協業するメリットは大きい。マイクロソフトは創業以来、OSをはじめ「Microsoft 365」といったコラボレーションプラットフォーム、Microsoft Azureなどのクラウドサービスを提供し、一貫してプラットフォーマーであり続けている。
しかしプラットフォームだけでは、ユーザーへの価値やメリットも限定されるのも事実である。企業がこの先DXを加速していくには、あらゆる業種・業態の知見を持つパートナーと共に、マイクロソフトのプラットフォームと課題解決の間の“ラストワンマイル”を埋めていくことが必要となる。そのための重要なパートナーがIBMというわけだ。
「IBMは、グローバル規模で弊社のプラットフォームをフルで活用できるパートナーです。IBMの強みは、さまざまな産業領域のユーザーに対する知識。メインフレーム時代から国内外で多くの実績があり、非常に複雑なモダナイゼーションまで実現できる力を持っています。DXの心臓部ともいえるデータ活用とAI領域において、これまで両社とも巨額の投資をしてきました。競合する部分があったとしても『日本や世界のDXを支えていく』という目的は一致していると思います」(大谷氏)
ではグローバルにビジネスを展開する両社から見て、日本企業におけるDXの取り組みにはどのような課題があるだろうか。
1つ目の課題として、大谷氏は「データを活用していく文化がないこと」を挙げる。日本企業は現場の“経験と勘と度胸”に頼ってきた高度経済成長期の成功体験がかえって足かせとなり、トップダウンでデータドリブン経営に取り組まなければならないという意識が薄い。また組織が閉鎖的で、自社のデータを外部へオープンにしていくことへの抵抗感も大きい。結果として、DXの推進が目的化してしまっているというわけだ。大久保氏は「DXはあくまでも手段でしかありません。本来は企業の収益向上や業務効率化、新商品開発といった目的に対して、DXやデータ利活用という手段が存在します。DXと目的のひも付きが弱いのが日本企業の課題ではないでしょうか」と指摘する。
2つ目は、いざDXによって実現したいことが見つかったとしても、そこに対するアプローチの仕方が分からない点だ。「大量のデータをどこに持って行けば使えるようになるのか、集めたデータをどうシステムとつなげるのか、どういうアプローチで進めれば洞察を得られるのか、継続的に取り組むには何をすべきか――こういった点を押さえ切れていないお客さまは多いです」と大久保氏。さらに大谷氏も「DXに取り組もうと思っても、レガシーシステムの乱立やデータのサイロ化、情報セキュリティ上の懸念など、多くの問題があります」と日本企業が置かれた状況について説明する。
そして3つ目の課題は、人材不足だ。デジタルの知見やスキルに加え、業務知識まで兼ね備えた人材はそう多くない。大谷氏は「これまで日本企業の多くは、ITの領域を外部に丸投げしてきたために人が育っていない状況です。特にデータ活用やAIの領域では、ビジネスアナリスト、データサイエンティスト、データエンジニアが圧倒的に不足しています」と警鐘を鳴らす。
こうした課題を解決するのが、IBMとマイクロソフトのパートナー戦略であるIBM データ & AI ソリューション for Azureだ。この戦略には、大きく分けて2つの軸がある。
1つは、オンプレミスサーバなどに散在しているデータをAzure上にモダナイズしていく「IBM Data Modernization on Azure」という取り組みだ。この一環として、データを適切に処理・利用するためのベストな方法をまとめた「 IBM Data Accelerator for Azure」を提供している。データの収集・処理・分析などに関連するソリューション、データウェアハウス、データレイクなどデータ蓄積に関するソリューションを適切に組み合わせながら、ユーザーにデータを提供していくという考えがベースになっている。
もう1つは、モダナイゼーション後にデータを活用し、価値を生み出していく取り組み「AI Transformation」だ。AIのテクノロジーを活用し、企業のIoT活用やワークフロー改善など各領域でのデータ活用を進めていくもので、IBM Data Modernization on Azureが土台になっている。
IBMとマイクロソフトの協業は海外が先行しており、すでに多くの成功事例がある。スイスに本社を置く大手食品・飲料メーカーのネスレは、レガシーシステムのモダナイゼーションからAI活用までを実現し、データ活用を進めた。同社は従来、世界各国の工場に散在している製造・販売データの収集と管理に課題を抱えていた。IBMのテクノロジーとマイクロソフトのクラウドサービスを掛け合わせることで、全従業員がBIツール「Microsoft Power BI」を用いたデータの分析や可視化、AIによるデマンドチェーン・サプライチェーン分析を行えるようにする取り組みを進めている。
大谷氏は「モダナイゼーションからデータ活用まで、エンドツーエンドでのDXを実現できる力は、IBMの強みでありユニークな点だと思います」と評価する。また竹内氏も「マイクロソフトはデータやAIの利活用に必要なあらゆる製品をラインアップしており、それぞれの製品は外部調査機関から高い評価を得ている強力な製品です。それらをお客さまの目的やシステム環境に応じて組み合わせ、最適なご提案ができます。マイクロソフトのテクノロジーとIBMのデータ利活用領域のアセットやナレッジにより、あらゆるお客さまのデータ活用を推進することが可能です」と、協業の強みについて語る。
レガシーシステムは多くの日本企業にいまだ多く残り、経済産業省が指摘した「2025年の崖」は解消していないといえる。こうした中、IBM データ & AI ソリューション for Azureの引き合いは日本国内でも増えている。クラウドシフトを目指すものの、現状ではクラウドリフトだけで手いっぱいとなっている企業も多い。しかしクラウドリフトで浮いたコストをクラウドシフトへ投資し、データやAIの利活用を進めていくことこそが、DX実現に向けた第一歩となる。その取り組みをサポートし、日本企業のDXを後押しすることが、日本アイ・ビー・エムと日本マイクロソフト両社共通の展望だ。
「日本企業は今まさに変わろうとする意識を持ち始めています。人材不足や育成という課題さえクリアできれば、次のステップに進めるはずです。今後は特にデータマネジメントの領域で人材育成の支援をより強化していきたいです」と大久保氏は意気込む。
大谷氏も「DXの鍵は、最終的には内製化すること。そのために、クラウドCoE(センターオブエクセレンス)を自社で構築していくことが理想です。コンサルティングサービスを提供する日本アイ・ビー・エムは、データカルチャー醸成に向けた伴走者として、お客さまが自走できるよう人材育成のサポートに取り組んでいただければと思います」と期待を語る。
“Let's Create”――これはパートナーやユーザーに対して、IBMがモットーとしているメッセージだ。対ベンダー、対ユーザーといった従来の関係性から脱却し、IBM、マイクロソフト、ユーザー企業が“三位一体”となり、パートナーとして共に新たなビジネスを共創するという世界観を実現する、という意図が込められている。
こうしたメッセージを軸に、日本アイ・ビー・エムと日本マイクロソフトは協業体制を深化させ、これからもユーザーへのサポートを精力的に行っていく。もし自社でデータやAIの活用に課題を感じていたら、両社に相談してみてはいかがだろうか。
・本記事中の社名表記について、米国本社はIBM・マイクロソフト、日本法人は日本アイ・ビー・エム・日本マイクロソフトとしています。
・Microsoft、Azure、Power Platform、Dynamics 365、Teams、Microsoft 365、Power BI は、米国Microsoft Corporationの米国およびその他の国における登録商標または商標です。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
提供:日本アイ・ビー・エム株式会社、日本マイクロソフト株式会社
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia NEWS編集部/掲載内容有効期限:2023年1月16日