DXの波が押し寄せる現在、オフィス業務でのIT活用が広く進んでいる一方で、社会全体を見回すと改革の速度が鈍い現場もある。それが「デスクレスワーカー」と呼ばれる人たちが働く業界だ。
デスクレスワーカーとは、文字通り「自分のデスクを持たずに働く人」を指す。製造業の工場や小売店、物流、観光業といった業界が該当し、業務の効率化や生産性の向上が求められているのに、なかなか改革が進まない現状がある。
そこで各業界の助っ人として期待されているのが、導入コストを抑えられるSaaS型サービス、いわゆる「デスクレスSaaS」だ。アプリの開発やサーバの設置といった手間を省き、提供する各社が培ったノウハウを自社の現場に素早く展開できる。
実際、デスクレスSaaSの市場は拡大を続けている。この領域はどのような可能性を秘めているのか。ITmedia NEWSでは、早期からデスクレスSaaSを手掛けてきた2社を迎えて座談会を実施。デスクレスワーカーをつなげる音声コミュニケーションツールを手掛けるサイエンスアーツの近野楊介氏(事業本部第2営業部 部長)と、スタッフの呼び出しを簡便化するソリューションを提供するワスドの盛島昇太氏(代表取締役)だ。
さらにデスクレスワーカーのリアルを知るゲストとして、ゲームセンター「GiGO」など全国約250店舗を展開するGENDA GiGO Entertainment(GGE)の河合英雄氏(事業戦略部 部長)を招いた。今回はその模様をレポートする。
――デスクレスワーカーという言葉は徐々に浸透していますが、改めてご紹介いただけますか。
近野氏(サイエンスアーツ) デスクを持たない方々、オフィスではなく現場で働いている方です。製造業や物流業などが該当します。世界的には労働人口の約8割、日本では就業人口の5割弱がデスクレスワーカーだといわれています。
その現場でITを普及させるには、国籍や年齢に関係なく誰でも使える「簡単さ」や、刻々と変わる状況に対応できる「情報共有のスピード」が大切です。
河合氏(GGE) 実際、私はゲームセンターというデスクレスな現場を見ていますが、IT活用が進まない課題の一つにITリテラシーや好き嫌いの問題があると感じますね。「PCでの事務作業よりは現場が好き」という従業員も多いので、使いやすさは重要です。
さらに、そうした従業員がフロアに出たときには丸腰です。何の“武器”も持たずに1人で戦うのはかなりしんどい。スタッフ間で連携したり、素早く情報を共有したりといった点でITツールが役立ちます。
近野氏 弊社が実施したアンケートでも、回答者の過半数が社内のコミュニケーションに課題を感じていました。特にチームワークや部署間の連携が目立っています。
盛島氏(ワスド) デスクレスワーカーのニーズは多数あるのに、ITベンダー側のプレイヤー数はまだまだ少ない状況です。お客さまの「不便」「非効率」を解決して、信頼していいただくことで横展開できる業界だと感じています。
――では、現場の課題を解決するITツールの導入をどう進めればいいのでしょうか。
近野氏 重い腰を上げて全社導入に踏み切るというよりは、デスクレスSaaSの特長を生かし店舗や拠点単位で素早く手軽に導入して、効果を実感した上で広げるのが王道です。
河合氏 そうですね。GGEでもデスクレスSaaSを5店舗で導入し、効果を検証してから社内展開をしました。導入する店舗を厳選し、インフルエンサーになってくれそうな店長と組んでスタートしたところ、徐々に「うちの店舗も使いたい」と評判が広がりました。
盛島氏 IT業界はメリットを説明すれば導入が進むケースも多いですが、デスクレス領域はそうもいきません。河合さんがおっしゃる通り、現場の成功体験を説得材料にするのが効果的です。
――それでは現場でのIT活用について、GGEさんのお取り組みをご紹介いただけますか。
河合氏 ゲームセンターの接客やオペレーションにデスクレスSaaSを取り入れました。広いゲームセンター内での業務はスタッフの連携が欠かせません。例えば、景品の補充や機械の故障に誰が対応するか、お客さまの「景品が出てこない」「ゲーム機の操作方法をアドバイスしてほしい」といった要望に誰が応えるかを素早く共有する必要があります。
従来は、店舗内の巡回でゲーム機の故障を見つけたらバックヤードの事務所に戻って報告していました。またアナログ無線機で情報共有をする場合でも、相手の声が聞き取りづらいといった課題がありました。その解決策として、また業務改革の観点からサイエンスアーツさんの「Buddycom」を導入しました。
近野氏 GGEさんに活用していただいているBuddycomを、弊社では「デスクレスワーカーをつなげるライブコミュニケーションプラットフォーム」と呼んでいます。これまで従業員同士の連絡にアナログ無線機を使っていた現場が多いですが、それをスマホの専用アプリに置き換えるソリューションです。
4G回線やWi-Fiを使うので国内外の拠点ともやりとり可能な上、会話の録音や自動文字起こし機能もあります。さらに写真や位置情報の共有や16カ国語に対応した翻訳機能、チャットやビデオ通話でのコミュニケーションなどをできます。ツールの要件が厳しい大手航空会社さまに採用いただいたのを皮切りに、鉄道会社や小売業など広く導入が進んでいます。
――導入した効果はいかがでしたか。
河合氏 もちろん業務効率化につながっています。それ以上に感動したのは、ゲームセンターでお客さまからの呼び出しが何件あるか、スタッフ同士の会話が1日に何分くらいなのか可視化できたことです。これらは業務の改善や事業戦略にも役立つでしょう。
またBuddycomは1人1台スマホを持つことが前提なので、スタッフ一人一人の業務の様子が分かりますし、故障やトラブルを報告するために事務所に戻らずとも手元で完結できるようになりました。
近野氏 ありがとうございます。データを分析できる点は強みで、「この店舗では1日にどのくらい通話をしているか」「誰が会話のハブになっているか」などを把握できれば費用対効果の測定やオペレーションの改善につながります。
――GGEさんでは、Buddycomの他にもデスクレスSaaSを活用されているそうですね。
河合氏 はい。ゲームセンターでの接客向上を狙ったものです。ゲームセンターの接客は、ゲームマシンが故障したり景品が出てこなかったりといったトラブル対応がメインです。これをスタッフに伝えようにも、広い店内でスタッフを探してトラブル内容を説明する手間があり、お客さまの負担でした。
店舗側にとっても、お客さまとのタッチポイントを増やして満足度を上げたいと思いつつ、スタッフ数の都合で難しいところでした。そこで、ワスドさんが提供する「デジちゃいむ」を導入しました。
盛島氏 デジちゃいむは、お客さまがスマホで二次元コードを読み取り、チャットでスタッフを呼び出せるサービスです。ゲーム筐体に二次元コードを貼ることで、困りごとをすぐスタッフに伝えられます。
チャットに「機械が故障した」「ゲーム機の操作アドバイスが欲しい」「景品を補充してほしい」など困りごとを用件化して登録しておけば、お客さまが課題を言語化でき、スタッフ側は駆け付ける前に課題の内容を確認できます。チャットなので、翻訳機能で外国人のお客さま対応もスムーズです。
河合氏 導入後、呼び出し回数が大幅に増加しました。ゲーム機の操作についてアドバイスを求められることも増え、導入店舗では売り上げが確実に伸びています。少ないスタッフでもすぐ駆け付けられますし、履歴が残るので情報共有にも適しています。
盛島氏 デジちゃいむでデータを収集したところ、接客の対応時間が短いほど、お客さまの満足度が上がっています。事前に用件が分かるので素早い対応が可能になる他、チャットで「いま向かいます」など一言送ってお客さまの体感待ち時間を短縮する工夫もできます。
河合氏 私たちはBuddycomとデジちゃいむを連携して使っています。デジちゃいむ経由でお客さまの呼び出しを受け取り、その内容をBuddycomを通じて音声で確認します。耳から情報が届くので手を動かせますし、即座にスタッフ同士で会話して担当者を決める場合もあります。いちいちスマホを取り出さずに現場に向かえるので大幅な時間短縮になるんです。
――サイエンスアーツさんはBuddycomの機能をさらに拡充した“機械との音声コミュニケーション”を開発中だとか……?
近野氏 そうですね、正確には機械からの通知をBuddycomで受け取り読み上げる機能で、「Buddycom with Things」といいます。Buddycomの強みは、従業員の耳を握っているところです。そこで、IoT機器のセンサーやカメラ、ロボット、業務システムなどのエラーメッセージなどを音声で通知する計画です。現在はエラーをメール通知で受け取ることが大半なので、より便利になると考えています。
河合氏 ゲーム筐体の故障などを直接スタッフの耳に届けてくれたら楽ですね。
――お話を聞いていると、デスクレスワーカーの未来は明るいなと感じました。
河合氏 弊社は「世界中の人々の人生をより楽しく」というミッションを掲げています。アナログな部分が大きいエンターテインメントをテクノロジーの力でより楽しくしたい。スタッフもお客さまも。それは今日お話した近野さんと盛島さんが見ている世界と同じものでしょう。
盛島氏 そうですね。デジちゃいむを通して現場を可視化するだけでなく、作業の自動化や省人化につながる機能の提供を検討中です。スタッフの負担を減らし、必要な接客に集中できるようにしたいですね。
近野氏 今回のGGEさんのお取り組みは、動画で詳しく紹介しています。デスクレスワーカーの働き方改革の様子が分かりやすいのでぜひご覧ください。自動化が進んでも、きっと接客は残るでしょう。その重要な部分を支えていきたいです。
――デスクレスワーカーだからといってIT活用を諦めず、適したソリューションを導入すれば企業もお客さまも喜ぶ成果を得られるのですね。まだプレイヤーが少ない分野ですが、サイエンスアーツとワスドの2社が切磋琢磨することで、現場のDXがさらに進むと感じました。本日はありがとうございました。
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