「生成AIだけじゃない。注目の画像分析AIの活用事例とDX成功の秘訣」――こう銘打ったWebセミナーが2023年5月18日に開催された。AIのビジネスへの活用について、「ChatGPT」に代表される生成AIへの期待が高まる一方で、実は現場の生産性を“本当にあげる”のは生成AIに限らず、「画像分析AI」が適する場合も多い。例えば製造業の外観検査や、社会インフラの保守管理、自動車向けの高度運転支援システム(ADAS)など幅広い領域で、画像分析AIを活用してDXを推進する動きが加速している。
冒頭で紹介したWebセミナーは、企業のDXに役立つAI活用を後押しするためのものだ。画像分析AIの活用事例や成果をあげるポイント、注意すべき落とし穴などを取り上げている。主催したデル・テクノロジーズの諸原裕二氏は「日本におけるAI活用をもっと促進したい、AIでDXをより加速したいという思いがあります。それに基づいて、Dell de AI “デル邂逅(であい)”というプログラムを推進しています」と話す。
画像分析AIを活用することで、現場はどう変わるのか。Webセミナー「Dell de AI “デル邂逅(であい)”セミナー Vol.4」(23年5月18日)の内容を詳しくレポートする。
Webセミナーでは、AIの導入支援を手掛けてきた企業が集結。現場に寄り添って経験した失敗や成功のエピソードを惜しみなく披露し、AI活用の理想と現実についてディスカッションした。進行役は、デル・テクノロジーズのAIスペシャリストである増月孝信氏が務めた。
最初に、各社が画像分析AIの活用事例やメリットを紹介した。AI導入支援を手掛けるAcroquest Technology(神奈川県横浜市)は、工場での異常検知など現場作業でのAI活用を後押ししている。AIを導入することで作業員の疲労による判断ミスや見逃しを回避できるため、作業員の負担軽減や業務の効率化につながると話す。
AI搭載カメラを提供するGAUSS(東京都渋谷区)は、人手不足と高齢化が深刻な製造業界で脱属人化や省人化、ノウハウの継承に役立つと説明する。例えば見守り業務をAIカメラに置き換えることで、少ない作業員でも安心かつスムーズに作業できる。
社会インフラ関連のAI活用に強みを持つ東芝デジタルソリューションズ(神奈川県川崎市)は、電力会社による送電線の異常検知や半導体製造時の欠陥検査、医療分野ではがん細胞の検知など、幅広い分野の事例を紹介。画像分析AIの汎用性の高さをうかがわせる。
そして自動運転技術などを開発するモルフォ(東京都千代田区)は、スマートシティーで監視カメラ映像を処理する用途を挙げた。
こうしたAI活用の成功事例も、その裏には失敗や落とし穴がある。現場の課題や使い方に向き合わないとAI導入は成功しないと語るのはGAUSSの中村亮介氏だ。例えば、現場では作業手順を決めた「標準作業工程」に従っているものの、臨機応変に作業内容を変更する必要がある。単に標準作業工程に沿ったAIを作っただけでは、新製品への対応や柔軟な運用、AIのアップデートが難しく、期待通りの効果を得られない。そうならないために、まずは現場でAIの理解を深め、同時に作業者と対話しながら作業内容やニーズを把握することで、AIの成果を享受できる。
実際にプロジェクトを進める段階では、いつまでたっても成果が出ないことがあると東芝デジタルソリューションズの江藤雅哉氏は明かす。これは目的を明確にすることで解決できる。「AIで異常検知をしたい」というのは手段の話で、「異常検知の時間を削減したい」というのが目的だ。ここを決めれば、成果までの道筋を立てられる。
「いわゆる『PoC(概念実証)地獄』に陥るケースで、現場で起こりがちです。AIで解決したい課題は曖昧なことが多く、KPIを決めずに進めるとプロジェクトがぶれてしまい、成果につながりません」(デル・テクノロジーズの増月氏)
では、AI活用を成功させるポイントは何か。モルフォの佐藤夕介氏は「精度100%の完全なAIは作れないことを念頭に置いた開発工程が必要」と説明する。AI開発は一度にゴールまでたどり着けず、苦手な部分を強化しながら精度を上げる学習サイクルが欠かせない。
「その通りですね。目的が100%の精度に達することにずれてしまわないよう注意が必要です。しっかり仮説を立て、適切に精度を上げる仕組みが大切になります」(増月氏)
さらに、AI導入の費用対効果を考えるのが重要だとAcroquest Technologyの岡田拓也氏はアドバイスする。例えばAIの精度は85%までスムーズに到達しても、そこから5%上げるのにコストがかかる。本当に精度90%が必要なのか検討することが必要だ。精度85%のAIを作り、残る15%を別のシステムや人間が補う仕組みを作れれば費用対効果を高められる。
「前提を間違えないよう気を付ける必要がありますね。最終的な目的は、AI活用そのものではなく、事業や経営に役立てることです。費用対効果を考慮していくことが重要です」(増月氏)
パネルディスカッションでは最後に、今後注目のAI技術を聞いた。生成AIや大規模言語モデルへの期待の声が挙がる中、画像分析AIに関する技術としてGAUSSの中村氏が画像認識モデル「Vision Transformer」を挙げた。高精度な画像分析では、計算量が爆発的に増えるため業務利用に向かないという課題があった。Vision Transformerを使えば分析を高速かつ高精度化できるため、小規模なハードウェアやエッジ環境でもAIの効果を十分に引き出せるという。
日々進化するAIを活用しない手はない。目標を定めてAI開発のサイクルを回し、運用まで見据えたプロジェクトを進めることが肝心だ。増月氏は今回の話を今後のAI活用に反映してほしいと結んだ。
パネルディスカッションに登壇した企業では、普段からユーザー企業の課題解決に役立つAIを提供している。各社の事例や知見が詰め込まれたセッションを紹介していく。
AI活用の事例として、東芝デジタルソリューションズの江藤氏が挙げたのが化粧品大手ファンケルの取り組みだ。ファンケルの直営店では顧客に合った化粧品の提案サービスを実施していたが、顧客の肌サンプルを採取して研究所で解析するため時間やコストがかかっていた。そこで東芝デジタルソリューションズと共同で肌の写真を分析するAIを作り、化粧品を店舗で即時に提案できるようにした。
AIで改善したい課題を明確にし、開発時には小さな問題設定を重ねて3段階で進めることで実用レベルのAIを作れたと江藤氏は評価する。そして両社の知見を持ち寄ったことで円滑にプロジェクトを進められた。もともと東芝グループでは50年以上もAIを研究しており、アナリティクスAI「SATLYS」でデータ分析からシステム構築まで支援している経験を生かした事例だ。
実際にAIを導入する場合、大きな投資に見合った成果をあげるために運用まで見据えるべきだとAcroquest Technologyの岡田氏は説明する。1つのAIモデルを開発した後も精度を維持するために管理が必要で、その人的・金銭的コストを考慮する必要がある。
そこでAIモデルの学習や更新を自動化できる技術「MLOps」を使い、浮いたリソースを現場からフィードバックを得る仕組み作りに振り分けることで、低コストでAIの精度を維持・向上させられる。Acroquest Technologyでは「MLOps導入支援サービス」を提供しており、自動化によってコスト削減やオペレーションの効率化を実現している。
AIの実行環境に目を向けると、画像分析AIは工場などエッジデバイスでの活用が多い。特にカメラ映像を分析して異常検知や危険予測に役立てるケースが代表的だ。そんなAIカメラを手掛けるGAUSSは、既存のカメラにAI搭載デバイスを追加して、オフラインでも使えるAIカメラに変えられる「GAUDi EYE」を提供している。ネットワークに接続すれば、PCやスマートフォンから遠隔で映像を確認できる。
さらにクラウド上の動画管理基盤「GAUDi Hub」と連携すれば、データ収集やAIの学習をユーザー企業自身で行える。AIモデルを手軽にアップデートできるため、現場のニーズや環境に合わせてAI活用を進められる。
カメラ映像の分析にもさまざまな用途があり、モルフォが手掛けるのは自動運転向けAIだ。車外カメラの映像から道路上の人や標識、走行ラインなどを認識し、車内カメラでドライバーの姿勢や居眠り運転などを検知している。
こうしたAIを開発しているが、自動車メーカーごとにシステムの仕様が異なるため調整が大変だという。そこで他システムへの移植を手軽にするソリューション「SoftNeuro」を開発。さらにドライブレコーダーの映像をクラウドに送る際、AIで映像を圧縮することで通信負荷を減らす技術「Morpho Video Summary」を開発中だ。
セミナーで紹介された事例やポイントを通して、画像分析AIの活用イメージが鮮明になり、実際にAIを活用してみようと思った読者もいるだろう。
デル・テクノロジーズでは、AI活用を検討している企業とAIサービスを提供する企業をマッチングする「Dell de AI “デル邂逅(であい)”プログラム」を進めている。相談や検証、実装までしっかりサポートできるとデル・テクノロジーズの上原宏氏は胸を張る。
まず、セキュリティやデータ転送コストを考慮し、AIを自社内サーバで活用したい場合はデル・テクノロジーズの「PowerEdgeサーバー」が役に立つ。同社の独自技術で高い排熱効率を実現している。
特にAI向けには、機械学習に適したGPU搭載サーバを取りそろえている。大規模AIモデルの学習にも適したパワフルな「PowerEdge XE9680」はGPUを最大8枚搭載できる6Uサイズのサーバだ。密度を重視した「PowerEdge XE9640」は2UサイズながらGPU4枚を搭載できるので、水冷専用機だが、データセンターなど集積度が高いシステムに適している。そして「PowerEdge XE8640」は4UサイズにGPU4枚を搭載できるバランスの良さが売りで、「PowerEdge R760xa」は低消費電力ながら350ワット版のGPUなら4枚、75ワット版GPUなら最大12枚搭載できる。電力容量を考慮し設置環境に適した製品を適材適所で選べるのがポイントだ。
AI導入の検討段階や初期段階で、検証作業から始めたいケースも多い。そこで米NVIDIAのAIプラットフォームを体験できる制度「NVIDIA LaunchPad」がある。PowerEdgeサーバーをベースに、さまざまなソフトウェアを自社のペースで検証可能だ。
さらにデル・テクノロジーズの本社(東京都大手町)でもデモ環境を無料で提供している。AIの専門施設「AI Experience Zone」として多様なハードウェアやソフトウェアを用意しており、開設以降さまざまな企業が訪ねている。自社だけでもパートナー企業と一緒でも「ぜひお気軽にご利用ください」と上原氏は呼びかけた。
今後、AIは現場の課題解決にますます欠かせなくなるだろう。現場の課題解決につながる画像分析AIを生かすポイントや開発時の注意点は、読者のプロジェクトにきっと役立つはずだ。そしてAIを活用したいなどの相談は気軽にデル・テクノロジーズへ。同社の製品や知見を結集してサポートしてくれるはずだ。
画像分析AIの活用方法や導入時のポイントをもっと知りたい方は、こちらのページから今回紹介したセミナー「Dell de AI “デル邂逅(であい)”セミナー Vol.4」のオンデマンド版をぜひご視聴ください。パネルディスカッションや各社セッションを全てご覧いただけます。
Dell de AI(でるであい)とは──
「AIをビジネスで活用する」──そう言い表すのは簡単です。しかし、組織にとって本当に価値のあるアクションへ落とし込むには、考えるべきことがあまりに多すぎます。誰に相談すればいいのか、どうすれば成果を生み出せるのか。「Dell de AI “デル邂逅(であい)”」は、そんな悩みを持つ企業や組織にポジティブな出会いや思いもよらぬうれしい発見──「Serendipity(セレンディピティ)」が生まれることを目指した情報発信ポータル(https://www.itmedia.co.jp/news/special/bz211007/)です。
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