首都直下地震に南海トラフ――不測の大地震にどう備える? 東大・沼田准教授が語る「初動」の重要性

» 2024年01月29日 10時00分 公開
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 関東大震災や阪神淡路大震災、東日本大震災など地震が絶えない日本。2024年の元日には最大震度7の地震が能登半島で発生、多くの人が「大規模な地震への備えが欠かせない」ことを再認識したはずだ。

 地震に備える際は、「いざ起こったときにどのような情報を収集して行動するか」も考えておく必要がある。そこで本記事では、防災プロセス工学を専門とする東京大学生産技術研究所の沼田宗純准教授を取材。関東大震災から100年後を生きる企業と個人は、いつ起きるか分からない大地震にどう備えるべきなのか――具体的な策を聞いた。

「理学」「工学」「社会学」で進む防災の取り組み

 地震大国の日本では、これまでさまざまな研究がなされてきた。沼田准教授は「理学」「工学」「社会学」の3つの観点から、それぞれを紹介する。

 「理学の分野では、観測網を整備することで地震の予知を目指してきました。一方で予知そのものは難しいことから、実際には大陸プレートに異常な動きが出た際に感知、発表することで多くの人が適切に行動できるような体制を構築しています。緊急地震速報もその一つと言えるでしょう」(沼田准教授)

photo 沼田宗純准教授(東京大学生産技術研究所 防災プロセス工学)

 工学では建造物などの耐震性を高める観点で研究が進められている。社会学では、地震が起こった際に社会がどんな影響を受けるのか。また耐震補強をどう推進するのかといった「災害対策を進めるためにどのような法整備をすべきか」という観点で対策が進む。

 特に法整備は、大きな災害が起こるごとに見直しが入ってきた。沼田准教授によると、日本における災害対策を目的とした法律のはしりは1880年に公布された「備荒儲蓄法(びこうちょちくほう)」だ。聞き慣れない単語が並んでいるが、「備荒」は凶作や災害への備えを意味する。「儲蓄」は蓄えることを指し、被災者に食料や生活必需品を支給して地代の援助なども行う制度として定められた。

 その後は1959年の伊勢湾台風を機に定められた「災害対策基本法」を軸に、地震保険制度や住宅が全壊した際の支援制度など、さまざまな範囲でブラッシュアップがなされ現在に至る。

 幅広い分野で対策や研究が進む一方、より注意が必要なのが東京都などの人口が集中する地域だ。特に都心部ではタワーマンションを中心に高層ビルが林立し、交通網も緻密に張り巡らされている。東日本大震災の地震発生時、震源が近かった東北地方だけでなく首都圏でも混乱が起こったことは記憶に新しい。

 専門家の視点から、都市部のリスクはどのように見えているのか? 沼田准教授は「脆弱(ぜいじゃく)性」というキーワードを基に、次のように指摘する。

 「よく都心部に対して脆弱性という言葉が使われます。非常に定義が広い言葉ですが、私なりに解釈すると、脆弱性とは他者や外部に依存しなければならない状態を指していると考えています。

 例えば高齢者や子どもは、誰かの支援を受けないと災害を乗り切るのは難しいですよね。その意味で、特に東京は水や食料、電気などを外部に依存しているため脆弱性が高いと言えます」(沼田准教授)

大事なのは「初動」と「意思決定の準備」

 リスク要因が多い都心部で、実際に危惧されているような大地震が起きたらどういった被害が出るのだろうか。東京都が2022年に発表した想定によると、首都直下地震とも呼ばれるマグニチュード7クラスの都心南部直下地震では建物の被害は20万棟弱、死者は6000人超に上る。避難者はおよそ300万人、帰宅困難者も450万人以上と深刻な被害状況が予見される。

 被害を防ぐ上で、企業や個人はどのような対策を取るべきなのか。企業に関して沼田准教授は「とにかく社員の命を守ること」と強調する。その上で重要なのが、トップ自ら積極的に対策に取り組むことだという。

 「企業の防災対策では、トップではなく社員の努力に任せるケースも多く目にします。ただ、会社を守るのもつぶすのも、最終的な権限はトップにしかありません。しっかりと自ら投資判断や経営判断を行う姿勢が求められます。

 災害時は、まず状況を把握してヒト・モノ・カネを配分するのが基本です。私の研究室では、多様な災害対応を支援するツールとして『災害対応工程管理システムBOSS(Business Operation Support System)』を開発しています。これは災害時の基本的な対応行動がシステム化されているものであり、俯瞰(ふかん)して災害対応を見て効果的な意思決定を下すのに役立ちます。BOSSをはじめ、さまざまな支援システムを活用して事前に優先順位をしっかり定め、どのような手続きを踏むべきかなどを共有しておくといいでしょう。役割が明確になることで指揮命令系統の混乱も防止できます」(沼田准教授)

photo 災害対応工程管理システムBOSS(Business Operation Support System)のインタフェース

 個人の観点では「臨機応変な意思決定」が求められると沼田准教授は話す。

 「災害時は、避難するかどうかなども含めて意思決定の連続です。帰れる家がある、蛇口をひねれば水が出る、トイレではレバーを押せば水が流れる、携帯電話は簡単にインターネットにつながり家族と連絡が取れる、お店に行けば商品が並んでいる、夜は街灯の明かりを頼りに歩くことができる――など、災害時にはこれら日常の恩恵が受けられなくなります。

 能登半島の被災地も厳しい状況でした。帰れる家がない状況、水が出てこない状況、電気が使えない状況などを今一度、想像してほしいと思います。普段から『こんなとき、どうするか』といった想定をしておくことで、いざというときに決断できるようになるのではないでしょうか」(沼田准教授)

リアルタイムで揺れを確認できる「強震モニタ」とは

 企業や個人を問わず、災害時に適切な意思決定を行うには情報の取捨選択も重要だ。これまでは自治体や医療施設など、社会の基盤となる一部の施設が使う目的で整備が進んできた各種の防災システムも、今や一般企業や個人レベルで活用できるようになってきた。その一つが「強震モニタ」だ。

photo 強震モニタの機能詳細

 国立研究開発法人防災科学技術研究所(以下、防災科研)が観測した1秒ごとの揺れの大きさを示すデータを地図上にリアルタイムに表示するWebサービスで、08年に公開を開始。23年9月にはTBS・JNN NEWS DIGのアプリ「TBS NEWS DIG Powered by JNN」(以下、TBS NEWS DIG)が強震モニタレイヤーの提供を開始した。

 TBS NEWS DIGアプリでは、揺れの強さに応じて色分けした地図を表示。緊急地震速報が出た際は予想震度やP波・S波の伝播(でんぱ)状況を推定した図とリアルタイム震度を統合して表示するため、視覚的に揺れの大きさと広がりを確認できる。
※震源から放射される地震波。P波(Primary Wave=最初の波)、S波(Secondary Wave=第二の波)を指す。

 TBSテレビの赤川史帆氏は、強震モニタを次のように紹介する。

 「沼田先生の話にもありましたが、災害時に大事なのが初動です。強震モニタではリアルタイムに情報を表示しているため、タイムラグはわずか数秒程度しかありません。『どこが今、揺れているのか』、そして『もっと揺れている場所はあるのか』といった情報をこれまで以上に正確に素早くお伝えできるようになりました。有事には数秒の差が命を左右します」(赤川氏)

ひまわり以来の衝撃 「地震が見えるようになった」

 提供の背景にあるのが、これまで報道を手掛けてきたからこそ見えてきた課題だ。

 「東日本大震災の際、報道カメラマンとして現地に足を運ぶ中で見えた課題が『場所ごとで違う状況』の伝えにくさです。テレビは一つのことを一様に広く伝えられるのが強みですが、災害時は各地の状況が異なります。従来では手の届かなかった部分を変えたいと考えたときに、TBS NEWS DIGの活用が思い浮かびました」(赤川氏)

photo 赤川史帆氏(報道局 デジタル編集部 NEWS DIG企画開発室 防災担当 防災士)

 TBSは伝えることのプロでこそあれ、データの取得や解析に関しては外部に頼る必要があった。スマートフォン向けに情報を提供するノウハウもまだ蓄積されていなかったと振り返る。そこで防災科研、ゲヒルンとタッグを組むことになったのだという。

 緊急時に活用するものとはいえ、普段から使われるフェーズフリーのサービスを目指した。特にこだわったのが「プッシュ型」の発信だ。せっかく情報を配信しても、行動につながらなければ意味がない。重要な初動を促すために、緊急性が高い場合はスマートフォンをマナーモードにしていてもアラートが鳴るようにした。アラートだけでなく、いち早く落ち着いた行動を促すためにアナウンサーの音声データも活用する。

 色覚特性にも配慮した。一刻を争う状況でも見やすいように老若男女を問わないカラーユニバーサルデザインを意識して設計した。開発段階では、実際に寝起きの“かすみ目”や疲れているときに画面を確認して問題なく認識できるか――についても検証を重ねたという徹底ぶりだ。

 TBS NEWS DIGは、通常時に24時間ライブ配信としてニュースのストリーミング放送を行っている。緊急時には最新の放送をライブで、アプリでも見られるようにした。揺れが来る前、あるいは揺れている最中の情報収集や外出時の状況確認に生かせる機能と言える。

 強震モニタを利用した人からは「気象衛星のひまわりに似た衝撃を感じた」といった声が出ているという。

 「ひまわりによって台風の姿が見えるようになったように、地震が見えるようになったという声を頂いています。地震の可視化によって、行動の準備や意識の変化につながればうれしく思います」(赤川氏)

「家に地震計を置きたい」研究者たちの夢をスマートフォンで実現

 こうした情報がどんどんと身近になっていることについて、沼田准教授は「災害時の初動が大きく変わる武器になる」と受け止めている。

 「これまで、家に地震計を置きたいと考える研究者が多かったんです。メーカー側の工夫で価格も安くなっていますが、それでも数十万円はすることから現実的ではありませんでした。

 それが今やスマートフォンで即座に情報が見られるようになり、研究者たちの夢が実現しているような思いです。日々情報に接することで、いざというときにどんな行動をするかの準備もできますし、非常に有用です」(沼田准教授)

 「地震が来たときに“伝える”アプリはたくさんありますが、『どうすべきか』までをアナウンスするアプリはなかなかないのではないでしょうか。強震モニタ機能を搭載したTBS NEWS DIGが、災害時の冷静な行動を促す、その一助になればうれしいですね」(赤川氏)

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