テクノロジーで社会を変える――リクルート主催のテックカンファレンスで語られた“エンジニアの現在と未来”

» 2024年03月29日 10時00分 公開
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 リクルートは2024年2月21日、初の大型技術カンファレンス「RECRUIT TECH CONFERENCE 2024」をオンライン形式で開催した。イベントには同社のビジネスを支え、リードする現役エンジニアと外部ゲストが参加。キャリア設計から事業価値の最大化に向けた取り組み、開発者生産性の向上など多彩なテーマのセッションが展開された。イベントレポートから“エンジニアの現在と未来”を探る。

エンジニアが生き残るには――事業価値につながる課題発見力

 オープニングキーノートとして実施されたセッション「エンジニアの未来を考える」では、リクルート プロダクトディベロップメント室 小川健太郎氏が、連続起業家であり現在はNFT等の最新技術活用にも取り組む”けんすう”こと古川健介氏(アル 代表取締役)とともに、未来のエンジニアに必要なスキルやキャリアについて議論した。生成AI技術の台頭などにより変化が大きい世の中において、エンジニアはどう構えていくべきかという、参加者の注目度も高いテーマであった。

 セッションの中では2人のさまざまな角度からの考察が飛び交ったが、その中でけんすう氏は「エンジニアがこれから必要とされるスキルを考えるとき、『自分のスキルはプログラミング』といったように大きく分類すると『いずれ必要なくなる』という雑な結論になる。しかし他者からは『リスクを理解しながら物事を推進できる』など、(技術の裏にある)真のスキルが見えているもの。こうした部分にも目を向けて、どれを伸ばすべきかと考える方がよい」と指摘した。

photo 最初のトークセッションを務めた小川氏(左)とけんすう氏(右)

 また、エンジニアの価値と生存戦略について小川氏は「あらゆる社会課題や事業課題を、エンジニアリングで解決することに尽きる」と語り、さらに「技術の進化によって課題解決のみならず”課題発見”の重要度が増している」とも述べた。これに対しけんすう氏も、「常識的な問題発見や解決まではAIが得意な分野だ。しかし、AIが選ばない解決法や非常識なやり方を見いだす人へのニーズは残り続ける」と持論を展開した。

 続くセッションでは、リクルート データ推進室の阿部直之氏と李石映雪氏が登壇。「データとテクノロジーで事業価値を最大化する」というテーマで、データ領域における同社の事例を紹介した。

 リクルートは多様なビジネス領域の事業を展開しているが、ユーザーと企業を結ぶマッチング構造が特に著名だ。「例えばHR領域でも、マッチング度の高い求人情報がユーザーに届くレコメンド技術などは非常に重要。モデルの精度が事業の価値に直接的につながるため、この技術に熱心に取り組んでいるメンバーも多い」(李氏)

 阿部氏が「成果を出すには、いかに鮮度の良いデータを整えるかというデータエンジニアリングやデータマネジメントも重要では?」と問うと、李氏は「一例として、データ移行のバッチ処理に時間がかかるという課題がある。最近は、そこに差分データを極めて低遅延で持ってくることができる仕組みを実装した。このような取り組みの積み上げによって、最新の求人を届けることを実現している」と語った。

ALTALT 左:冗談を言い合う和やかな雰囲気でスタートした阿部氏(左)と李氏(右)のセッション/右:後半では、今注目される生成AIとの向き合い方についても語られた

 また李氏は、データテクノロジーの専門家として多くの手法を持ちながら、「それらをどんな状況で」「どのように使うか」をユーザーの価値基準に沿って組み立てられることが理想と強調する。阿部氏も「技術力の高さは前提として、どう事業戦略にコミットするかという点が重要である」と語った。

エンジニアが担う事業成長 プロダクト開発事例

 セッション「大規模プロダクトにおけるリアーキ・組織設計プロセス」では、リクルートのプロダクトディベロップメント室から小谷野雄史氏、金井優希氏、朏島(はいじま)一樹氏が登壇。開発チームリーダーの立場を担う2人(小谷野氏・金井氏)が、同社におけるプロダクト価値向上の取り組みを紹介した。

 小谷野氏は、美容室などサロン用の予約・顧客管理システム「サロンボード」における、スマートフォン版Webアプリの機能改善事例について語った。当初、店舗業務においてはPCでのプロダクト利用が主流だったこともあり、スマートフォン版に特化した改善施策がなかなか進められなかったという。一方で利用者(サロンスタッフ)はスマートフォンで自分のシフトを確認しているなど需要が年々高まっており、プロダクトの価値向上を実現する上で重要な改善であったと話す。

 「プロダクトの機能改善が進まないときには、改善の優先度を上げられない構造が存在する。エンジニアがシステム面だけ変えようとしても、ステークホルダーの合意は得られない。自身の仮説や戦略を持ち込んで、プロダクトや組織といった土台から変えることが重要だった」(小谷野氏)

 この案件で小谷野氏は、スマートフォン版独自のプロダクトビジョンやKPIを定義し、開発体制もデバイス別で分けるなど開発チームの変革を実施した。チームがスマートフォン版の課題に集中して取り組める体制を整えるところから地道に進めていったという。その結果、システムを段階的にリプレースし、スマートフォン版Webアプリについても限られた工数で継続的に改善サイクルが回せる状態が出来上がった。

 金井氏は、飲食店の注文管理システム「Airレジ オーダー」のアジャイル開発について語った。18年から活動してきた開発チームの分岐点となったのがコロナウイルス感染症の流行だ。

 「20年には、飲食店のテイクアウト需要に対応するために軸足を変えた。そして22年には、急速に回復する店内飲食の需要に合わせて深刻化した人材不足に対応するため、大手メーカーのPOSレジとの連携システムを短期開発した」(金井氏)。年単位で訪れるこれらの大きな変化に応えられた理由について、同氏は「アジャイル開発にこだわってきたから」と即答した。

photo 普段からよく意見を交わすという朏島氏(左)、小谷野氏(中央)、金井氏(右)

 注文管理システムという分野の歴史は長く、金井氏らの開発するAirレジ オーダーは後発プロダクトとなる。その不利な状況に対応していくためのアジャイル開発とスクラム開発というわけだ。「例外を許容する仕組みが組み込まれており事後調整を重視するスクラム開発を選んだ方が、注文管理の歴史を素早くキャッチアップできる。もともとはミクロな変化に対応するための取り組みだったが、結果的にコロナ禍といった大きな変化にも柔軟に対応でき、価値提供につなげられた」(金井氏)

 小谷野氏と金井氏の共通点として、価値議論やKPI設計、組織や開発体制そのものの変革に取り組んだことが挙げられる。狭義の意味でエンジニアリング以外の領域にも踏み込むことで、結果的にエンジニアリングの成果を高めている。その思いについて朏島氏が問うと、両氏は次のように答えた。

 「(対面した課題が)実際にはチームの課題であったり、組織の課題であったりすることもある。それらを解決するとシステムの課題を効率的に解くことにつながり、価値を最大化できる」(小谷野氏)

 「メンバーからリーダーへと自分の役割が変わっていく中で、プログラミングしたいのに時間が取りづらいという状況も増えた。そんな中で、仕事のやり方をハックすれば時間を捻出したり、置かれた状況への自分なりの納得感が持てたりするのではと考え、取り組んだ。」(金井氏)

 さらに2人はリクルートの開発体制について、“見守り”や”ナレッジ共有”の文化も特徴的だと語る。「事業を横断したナレッジの共有にも積極的だが、それを強制されるわけではなく、自組織向けにカスタマイズしながら主体者が良い面を取捨選択して導入できる」とまとめた。

エンジニアの活躍を支える基盤づくり 開発組織の在り方の模索

 セッション「不確実性の高い状況に挑む、理想的なプラットフォーム作り」では、リクルート プロダクトディベロップメント室の田中京介氏、宮地克弥氏、古川陽介氏がSREやCCoEという立場で挑む、クラウド基盤の最適化を図る事例について語った。

ALTALT 左:モデレーターを務めた古川氏(左)と田中氏(右)/右:チームの取り組みを語る宮地氏

 田中氏はSREとして、オンライン学習サービス「スタディサプリ」の価値を最大化するために、開発チームがさまざまな問題解決をできる限り自分たちで行う“自己完結チーム”を理想としたプラットフォーム構築と、文化の醸成に努めている。

 「ポイントは、サービスを自ら観測可能かつ制御可能にすること。私たちSREはプラットフォームの可視性を高めてセルフサービス化を図り、開発者にとって身近な存在になるべくEnabling活動を重視する。取り組みを見直すためのフィードバックを得ることも大事」(田中氏)

 宮地氏は複数の事業組織に関わりながら、クラウド活用を推進するCCoEのメンバーだ。

 「CCoEは、さまざまなフェーズの事業にとって最適なプロダクトの構築とSREチームの立ち上げ、構築後も安心してプロダクトを運用できる体制づくりを支援している。例えばクラウドを使いたいという相談を受けても人的リソースが不十分というケースもあるため、個々のナレッジを蓄積して必要に応じて複数の組織で活用できるように展開している」(宮地氏)

 2人の取り組みについて古川氏は、「私もフロントエンドエンジニアとして組織横断的なチームにいるが、一つ一つのサービスを作っている人たちにどうやって信頼してもらうかが重要だと感じる」と続けた。

 そしてセッション「技術選定の審美眼(2024年版)」では、古川陽介氏が続けて登壇。テスト駆動開発の第一人者として著名な和田卓人氏(タワーズ・クエスト 取締役社長)を招いて、技術の進化と選定について語った。

photo リクルート 古川氏(左)と、ゲスト登壇した和田氏(右)

 古川氏が企業に求められる技術選定について問うと、和田氏は「個人としてはゲームチェンジャーを見逃さないことが重要。そして組織としては、自社の技術戦略と合致しているかどうかという視点が必要だ。一人一人の育成という観点では、コントロールされた失敗、小さな実験を繰り返して新技術を試せる土壌を作ることが求められる」と主張した。

 最後のセッションには、リクルート データ推進室の竹迫良範氏と、栗林健太郎氏(GMOペパボ 取締役CTO)が登場。「一人ひとりの力を引き出すエンジニア組織」というテーマで語り合った。本セッションで印象的だったのは、栗林氏が独自のワーディング「やっていき・のっていき」を用いて取り組むエンジニア組織運営だ。

 栗林氏はまず、米CD Baby創業者であるデレク・シヴァーズが、プレゼンイベントで用いた動画「社会運動はどうやって起こすか」を紹介した。動画では、1人が躍り出し、やがて2人目が踊りに加わり、それが最後に大きな社会運動に発展する様子が納められているという。

 栗林氏は、1人が踊り出す=「やっていき」、2人目が踊りに加わる=「のっていき」、社会運動に発展する=「バーン!」と、独自のワードで動画の要素を説明。「組織運営にも、こうした構造が重要だ。最初に踊りだす人が(影響力を持つ)リーダーであっても、踊りに加わる2人目が現れなければ大きなことは起こらない」(栗林氏)。「やっていき・のっていき」をループさせて大きなインパクト「バーン!」につなげるためには、「のっていき」を誘発する動きが重要だと説く。

 竹迫氏は、栗林氏の話に深くうなずきながら「“のりやすく”するためのカルチャーを創る――そのプロセスも大事」とコメント。リクルートではHowを現場で考え、ボトムアップで事業を進めるカルチャーが定着していると話す。栗林氏は、そのような個々の力を引き出すリクルートの組織運営やカルチャーを「『のっていき』の良い実装例」だと感想を述べた。

photo リクルート 竹迫氏(左)と、ゲスト登壇した栗林氏(右)

 イベント内ではほかにも、検索エンジニア大杉直也氏による生成AI技術への向き合い方をテーマにした話や、開発マネジャーである高橋陽太郎氏による開発プロセスを家事育児に導入した話など個性豊かなリクルートのメンバーが登壇、多様なセッションが展開された。

 本イベントを通して感じたのは、リクルートのエンジニアは専門とするエンジニアリングに取り組みながら、一貫して事業や組織にも真摯(しんし)に向き合って価値の提供に注力しているということだ。そしてエンジニア組織の理想的な在り方を模索し、“個”の成長を支援することが事業の成長につながると考え、重視している様子が見えた。

 企業として何をすべきか、どうあるべきか――リクルートは常に追求し、技術で事業の成長と社会問題の解決にチャレンジしているようだ。

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