「組合せ最適化」が課題解決の特効薬に “量子技術”生まれのアプローチ 導入方法を事例で紹介

» 2024年09月03日 10時00分 公開
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 量子コンピュータは、もう“未来の技術”ではない。古典コンピュータでは計算が難しい、条件が膨大かつ複雑な問題を効率的に解ける夢の技術として期待されてきた量子コンピュータ。その歴史は浅くないものの、実用化のハードルが高いというイメージが先行していた。しかし近年、量子コンピューティング技術を応用してビジネス課題を解決する動きが加速している。

 キーワードは「組合せ最適化」だ。目的達成のために複数の条件や要素を加味して最適解を求めるもので、製造業における生産スケジュールの計画、小売業や流通業における配送ルートの策定、製薬企業や化学メーカーでの素材探索などが代表例に挙げられる。量子コンピューティング技術を使って組合せ最適化問題を解くことで、古典コンピュータをはるかに上回る計算速度が期待できる。

 企業はこの技術をどのように生かせるのか。2024年7月に実施されたセミナー「未来を拓く量子コンピューティング 基礎から自社への実践的導入方法まで」から、実践的な利用方法を解き明かしていく。

量子コンピュータの用途として期待される分野 量子コンピュータの優位性が期待される4分野(提供:blueqat)

量子コンピューティング技術の現在地 ビジネスはどう変わるのか

 量子コンピュータは、量子ビットが持つ「量子重ね合わせ」「量子もつれ」という特徴を利用して、古典コンピュータでは不可能な高速計算を実現するものだ。実用化に向けた研究開発が進んでいるが、現状では計算間違いなどのノイズがある。量子誤り(エラー)を克服した“本当の量子コンピュータ(FTQC)”はまだ登場していない。

 しかし、量子コンピュータへの期待が高まっていることは間違いない。世界の量子コンピューティング市場の規模は2050年には50兆円以上になるという予測もある。各国政府が支援に乗り出していると同時に、大手IT企業の積極的な投資やスタートアップの躍進など活況を呈している。

photo 日本量子コンピューティング協会の高野秀隆氏

 「日本市場も成長が見込まれていて、経済産業省が予算を投入している他、理化学研究所を中心とした『量子技術イノベーション拠点』が整備され産学官の活動が活発化している状況です。半導体など国内産業が衰退した過去があるだけに、量子技術に関しては世界に負けたくないという思いがあるようです」――こう説明するのは、日本量子コンピューティング協会の高野秀隆氏(代表理事)だ。

 高野氏は、量子コンピューティング技術のビジネス利用で効果的な領域を3つ挙げる。新素材の探索や化合物の構造の予測、創薬などを支える「シミュレーション」、機械学習に関連する計算や、金融取引などで役立つ「代数問題」、物流やネットワークなど組合せ最適化問題に代表される「探査とグラフ」だ。


 「組合せ最適化問題がビジネスでの利用シーンをつかみやすいでしょう」と高野氏は話す。例えば、労働力不足が喫緊の課題である物流業界で、組合せ最適化問題を量子コンピューティング技術のアプローチで解く取り組みが始まっている。

 高野氏自身は、まちづくりに量子技術を生かす「クオンタムシティ構想」に取り組んでいる。あえて大きく複雑な課題や条件を設定することで、この技術の可能性を探る狙いだ。配電網や物流の最適化、観光ルートの案内などに役立てようとしている。

 量子コンピューティング技術を普及させるには、人材育成が非常に重要だと高野氏は指摘する。日本量子コンピューティング協会はオンライン講座や研修サービスなどを通して、量子コンピューティング技術を扱えるエンジニアと、同技術をビジネスに生かせるゼネラリストの育成に注力。一定水準を満たした人材に認定証を発行して活躍を後押ししている。

 内閣府は、量子技術の利用者を2030年までに1000万人にすることを目指している。これは量子技術とは知らずにサービスを使う人も含む。これから量子技術のビジネス利用が広がっていくはずだ。

DXで組合せ最適化問題に注目が集まる 「“量子”にこだわらなくてもいい」

 量子コンピューティング技術の研究成果の一つが「量子アニーリング」の商用化だ。量子コンピュータを使って組合せ最適化問題を解決するためのアルゴリズムを指す。量子コンピュータが発展途上にある中、HPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)技術で組合せ最適化問題の高速処理を実現した。

photo Jijの山城悠氏

 「組合せ最適化問題を解くことが重要なのであって、“量子”など手法にこだわらずにビジネス課題を解決したいという企業が採用するケースが増えている」――こう話すのは、量子技術スタートアップのJij(東京都文京区)を率いる山城悠氏(CEO)だ。

 最適化計算という技術は古くから研究されてきた。ビジネスにおける意志決定をコンピュータに任せるというもので、量子コンピューティング技術の発展とDXの波に乗って脚光を浴びていると山城氏は話す。


 Jijは、専門家でなくとも最適化計算ができるプラットフォーム「JijZept」を提供している。HPCで動くのが特徴だ。東邦ガスなどエネルギー分野でコジェネレーションシステムの最適化に取り組んだ他、KDDIとの通信基地局に関する最適化や建設業における工事現場の運搬スケジュール最適化などを手掛けてきた。

 数理最適化計算のステップは、トラックの運行計画を例にすると分かりやすい。

(1)ヒアリング:運行計画を作っている現場のプランナーに、どのような条件を考慮しているかを確認する。運転手の勤務時間や道路の通行制限、倉庫や配送先の位置、在庫の状況などさまざまな条件が挙がる。

(2)数理モデル構築:条件を数式化する。勤務時間であれば◯時間働いたら◯分休憩するといったルールを数式で表す。

(3)最適化計算:数理モデルを基に最適化計算を実行すると、運行計画が完成する。

(4)アプリケーション化:納得する数理モデルが完成したらアプリケーション化して本番運用をする。

(5)運用:運行計画を現場に渡してフィードバックをもらい、改善点などをヒアリングして数理モデルをアップデートするなど一連のサイクルを回して精度を上げる。

 「機械学習のような学習プロセスがないので大量の学習データは不要です。現場へのヒアリングを踏まえて技術的なアプローチを提供できるのが数理最適化のメリットです」(山城氏)

数理最適化の開発プロセス 数理最適化の開発プロセス(提供:Jij)

量子コンピュータのハードウェアが不在 シミュレーションを支えるのは

 量子コンピューティングの領域で活躍するもう一つのスタートアップが、blueqat(東京都渋谷区)だ。既存の半導体製造技術を応用した量子コンピュータの製造に取り組んでいて、米NVIDIAが主宰するGPU量子エコシステムに日本企業として唯一参画している(2024年7月現在)。

 blueqatは、化粧品メーカーのコーセーと共同で量子アニーリングを使った商品開発に取り組んだ。クレンジングオイルの開発では、安全性などの制約を守りつつ、膨大な原料の組み合わせ候補から選択肢を絞る工程に利用。毛穴に皮脂などがたまってできる角栓の除去に特化した原料の調合法を約10秒で生成した。処理にかかる時間を従来の約900分の1に短縮する大きな成果だった。

 同社は飛騨高山の観光促進事業で効果的な広告を生成するプロジェクトや、特許データベース向け検索アルゴリズムの開発、量子暗号技術の研究なども手掛けている。

photo blueqatの湊雄一郎氏

 「私たちは量子コンピュータとHPCによるシミュレーションを両方扱っています。最近はHPCの比重が高まる流れになっています」――こう話すのは、blueqatの湊雄一郎氏(CEO)だ。FTQCが未完の状況で、CPUやGPU、ベクトルマシンを使ったシミュレーションが中心だと説明する。こうした背景から、blueqatは自社開発した量子コンピュータやHPCの計算リソースをSaaSとして提供するクラウドサービスを展開している。

量子アニーリングをクラウドで手軽に利用 「やりたい研究に集中できる」

 組合せ最適化問題を解く手段として注目を集めているのが、量子アニーリングをクラウドサービスで実行する方法だ。量子コンピュータと同じ振る舞いをHPCで実現する「シミュレーテッドアニーリング」という技術を使う。

 HPCに量子アニーリングの仕組みを搭載したクラウドサービスとして展開しているのがカゴヤ・ジャパン(京都府京都市)だ。国内で運用管理をしている自社データセンターのサーバ8000台以上の設備を生かして「HPCサービス 量子アニーリング」を提供している。ハードウェアには、大量のデータを一括処理する能力に長けたNECのベクトル型スパコン「SX-Aurora TSUBASA」を採用した。

photo カゴヤ・ジャパンの鶴岡謙吾氏

 「SX-Aurora TSUBASAをベースにしたHPCインフラに量子アニーリングのソフトウェアを搭載しています。HPCを使った科学技術の計算やシミュレーションに必要なソフトウェア開発キット(SDK)やライブラリなどのモジュールも用意しています。インフラの運用管理から解放されHPCを使えるので本来やりたい研究や開発に集中できます」――カゴヤ・ジャパンの鶴岡謙吾氏(セールスグループ フィールドセールスチーム)は胸を張る。


HPCサービス 量子アニーリングの概要 HPCサービス 量子アニーリングの概要(提供:カゴヤ・ジャパン)

 カゴヤ・ジャパンのHPCサービス 量子アニーリングは、ユーザーごとに専用のメモリやストレージを用意して提供する。他のユーザーと共有しないので高いパフォーマンスを発揮できる上に、データ保護の観点でも有利だ。データセンターに同社スタッフが24時間365日常駐しており、万が一トラブルが起きても迅速に対応できる。従量課金制ではなく月額定額料金なので、海外のクラウドサービスにありがちな為替変動によるコスト上昇の心配はない。

 自社の研究などに使うだけでなく、エンドユーザー向けのサービス基盤としても利用可能だ。Jijは、JijZeptの基盤としてカゴヤ・ジャパンのHPCサービスを利用している。

 量子コンピューティング技術は発展途上ではあるが、研究で生まれた技術は実用段階に入っているものもある。カゴヤ・ジャパンのように既存のコンピューティング技術を使いながら、新しい技術を提供するサービスも登場している。これらがビジネス課題を解決する手段になるかもしれない。

 量子コンピューティング技術やHPCが自社の役に立つのか判断するためには、その技術ができることについて知ることが大切だ。カゴヤ・ジャパンは関連セミナーやハンズオンを積極的に開催している。参加して最新情報をキャッチアップするのはいかがだろうか。

量子アニーリング ハンズオンセミナー開催!

 組合せ最適化問題に取り組んで、ビジネス課題を解決したい――そんな方に向けたセミナーを開催。組合せ最適化問題を量子アニーリングで解くためのQUBO形式に変換して解を求める演習を通して、知識を習得できます。高校数学とPythonの知識があれば大丈夫です!

  • 主催:カゴヤ・ジャパン
  • 協賛:日本量子コンピューティング協会

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提供:カゴヤ・ジャパン株式会社
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia NEWS編集部/掲載内容有効期限:2024年9月22日

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