“埋もれた職人”に光を――ひろゆき氏に聞く「ニコ動(RC2)」(2/2 ページ)
「才能の無駄遣い」を惜しまない職人たちが、ニコニコ動画に集結している。新バージョン「RC2」は、職人達が「ゲーム風動画」まで作れる仕組みを提供。「埋もれた才能を発掘できる土台を作りたい」と、ひろゆき氏は言う。
「どうでもいい」コンテンツに光を当てたい
MTV Networks、吉本興業グループ、エイベックス・エンタテインメントなど大手動画コンテンツホルダーと提携し、公認動画の配信も行う。まずは企業に動画を投稿してもらうが「最終的には、コンテンツホルダーの動画をユーザーさんが合法的に投稿できるようにしたい」(ニワンゴの杉本誠司副社長)と考えている。
企業コンテンツでも、埋もれた才能を掘り起こしていきたいという。テレビなどにはあまり登場しないタレントなども、ニコニコユーザーなら気に入るかもしれない。
自社が権利を持つコンテンツを動画共有サイトに出したがらない企業も多い。ひろゆき氏は「書籍の場合、著作権保護期間中に売れなくなってしまうものがほとんど」という経済的な分析を踏まえてこう話す。
「売れないコンテンツは『どうでもいい』と忘れ去られていくけれど、ニコニコならそんなコンテンツに光を当てられる可能性がある。眠っているコンテンツを発掘できれば、その業界が活発になったり、そこにお金が入ったりするきっかけも提供できるかもしれない」
ニコニコ動画上では、テレビではあまり放送されず、放送されても高視聴率とならないような埋もれたコンテンツが、日々“発掘”されているという。例えば将棋の対局。たまたまアップロードされたすばらしい対局の動画を、ユーザーが『面白い』と気づいてコメントを付けはじめ、話題になってランキング上位に。「何が起きているんだろう?」と興味を持ったユーザーがさらに流入し、その面白さを発見して盛り上がっていったという。
動画にコメントが重なることに抵抗感を持つコンテンツホルダーもいるため、コメントを開放するかどうかはその企業次第。ただ「ユーザーのフィードバックが得られる」と歓迎する企業も多いという。「小沢一郎さんに登場していただいた際は、ネガティブコメントが多いことを気にしてニワンゴが自主的に動画を下げてしまったですが、本人は全く気にしていなかったようだし……」(ひろゆき氏)
ユーザーも権利者――削除ミス問題
みんなでニコニコするためには、著作権者の権利をいかに守るかが課題だ。企業コンテンツホルダーとは対話を重ね、権利侵害動画をパトロールする取り組みを強化してきた。だがこのパトロールの中、誤ってアマチュアバンドの動画を削除してしまうという問題も起きた。「インディーズバンドの動画を消してしまったことは、本当に申し訳ないと思っています」(ひろゆき氏)
ニコニコ動画に削除依頼する手法や基準は、企業ごとにまちまちだ。動画を指定して依頼する企業もあれば、「当社の動画とみられるものは、ニワンゴの判断で消してほしい」と任される場合もある。今回は後者の依頼の元に「メジャーアーティストっぽいものはどんどん消そう」と作業していたところ、メジャーアーティストではない、一般ユーザーが投稿したバンドの動画まで消してしまったという。
権利侵害動画を100%正しく判定するのは容易ではない。権利者になりすまして削除依頼する人もいれば、権利者側が、自社のコンテンツを正確に把握しておらず、間違えて削除依頼するケースもあり得る。「みんなが納得できる1つの落とし所というのは、ないのかもしれない」――権利者ごとに話し合って削除ラインを作り、その範囲でミスのないように作業していきたいとひろゆき氏は話す。
ビジネスは? 「広告の“焼き畑農業”じゃ意味がない」
ニコニコ動画の収入源は現状、月額525円の有料版「ニコニコプレミアム」と、バナーなどの広告、「ニコニコ市場」からのアフィリエイト収入の3種類ある。10月に入ってからは、親会社・ドワンゴの着うたのアフィリエイト広告も掲載。「意外と売れている」(ひろゆき氏)という。だが運営はいまだに赤字で、今期(2008年9月期中)の黒字化を目指している。
平均利用時間では「日本一の動画サイト」となったニコニコ動画。9月の1日当たりのページビューは5500万、ユニークユーザーは120万、動画再生回数は2200万、1人当たり滞在時間は1時間──この圧倒的な利用量を武器に、広告を増やしていくことも難しくないだろう。
「広告掲載枠を増やして広告表示回数を2倍にし、『お金も2倍下さい』と言えば短期的に売り上げが増やせるかもしれない。でもネット広告の単価は下がってきているし、収入増はたかが知れているだろう。やり過ぎると“焼き畑農業”になるだけ」
「それに、広告を見たユーザーさんがいくらお金使うの? という問題がある。広告の成果は、ユーザー1人当たりの可処分所得次第。広告出してもユーザーさんのお金が増えるわけじゃないから、やはり限界がある」
広告よりは、有料会員の会費や物販(ドワンゴの着うた販売)のほうが効率のいい収益源になるという。現在の有料会員数は10万人強で、全会員の3%弱。これを倍に増やせば、それだけで収入が月間約5000万円分増えることになる。「プレミア会員の良さをもっと伝え、有料会員を増やしていきたい」(杉本副社長)
ただひろゆき氏は「ぼく個人としては『ニコニコ動画がなくならなければいい』と思っているので、黒字にはこだわってないんですけどね……」などと本音をちらりとのぞかせる。
台湾でも大人気だが「台湾版は微妙」
海外からのアクセスも伸びており、台湾人に特に人気。台湾人258人がそろって「ニコニコ組曲」を合唱したとする動画は、投稿から2日で10万回以上再生されてるなど人気となっている。
18日には「台湾版」もリリース。メニューの文字の一部を繁体字中国語に変え、コメントも繁体字中国語で投稿できるようにしたが「台湾の人に『言葉がおかしい』と言われてしまった。微妙なサービスですみません」(ひろゆき氏)
携帯は「頑張って作ってないのにユーザーが増える」
ドコモとau携帯向けに提供しているモバイル版も順調だ。登録ユーザー数は50万を突破。「そんなに頑張って作ってないのにユーザーさんが増えて、モバイルってすごいなぁ」と、ひろゆき氏は正直すぎる感想を述べる。
モバイル版開発責任者・ドワンゴの伴龍一郎さんは「ドワンゴはもともと携帯コンテンツが得意な会社。ニコニコ動画モバイル版にも業界最高水準の新技術をいくつも投入した。ひろゆきさんは知らないかもしれませんが、できはいいです」とフォローする。
「技術的にすごいのは知ってますよー」とひろゆき氏も認めるが、携帯電話は回線速度が遅かったりインタフェースの自由度がPCよりも低いなど「ぼくらでどうしようもない問題がある」(ひろゆき氏)のも現状。今後の携帯電話の進化を見ながら、本腰を入れる時期を見計らっていく。
ニコンドライフへ……?
RC2の発表会では「ニコンドライフ」を提唱。ネットでは「ニワンゴは3D仮想空間に参入するのか?」などといった噂も流れたが――「すみません、ほんの一発ギャグのつもりだったんですが」(ひろゆき氏)
ニコンドライフとは。改めて聞くと、こんな答えが返ってきた。「例えばぼくはラジオを聞かないけれど、タクシーの運転手さんや床屋さんは必ずラジオを聞いていて、それが当たり前になってる」
「今はほとんどの人にとって、テレビや携帯電話が当たり前のメディア。でもネットをよく使う人で『ニコニコ動画』が当たり前、という人が現れるといいし、きっと現れるんじゃないかな」
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