「Amazonクラウド」の威力:ネットベンチャーでもできるクラウド(3/3 ページ)
少ない人員の企業が新たなWebサービスを軌道に乗せるには、想定している以上の費用が掛かる。このバックヤードを支える手法として、クラウドを使ったシステムの構築は、今や有力な選択肢になりつつある。
Amazon EC2への移行でサーバコスト8割減
このようないきさつでAmazon EC2への移行を進めた。ピーポーズのサービスをいったん停止してサーバを移行したのは1月中旬。トラブルはまったくなく、予定時間内に作業が進み、新環境でサービスを再開できた。
驚いたのは、Amazon EC2で動く弊社サービスの速さである。以前の環境では、中位機種のサーバを使っていたこともあり、動作がやや遅かった。これがAmazon EC2ではまったく感じられなくなり、Webページが気持ちよく表示されるようになった。さらに、サーバ関連の費用は実に80%も削減できた。
Amazon EC2を使うメリットはほかにも幾つかある。例えば、以前であれば、テスト用のサーバはいったん稼働させると、契約終了までずっと稼働させ続けておくしかなかった。Amazon EC2では、テストが必要なときに稼働させ、テストが終了したら停止させることが可能だ。サーバを停止している間は課金対象にならない。
サービスの利用が拡大してサーバを借り増す必要が出てきた場合にも、インスタンスを1台単位で柔軟に付加できる。リソースが必要なくなったら、インスタンスを減らすことも可能だ。
従来のホスティング会社では、サーバを新規に借りる場合には、物理的な機器などを準備するため、3〜10日ほどの時間が必要だった。Amazon EC2では必要と思ったその時にインスタンスを立ち上げられる点がメリットだ。
Amazon EC2では、ロードバランシングの機能もサポートしている。大量のトラフィックを処理するにはサーバを複数台用意してロードバランサで負荷分散をすることが不可欠である。ホスティング会社でロードバランサを借りると、かなり大きなコストが掛かる。だがAmazon EC2では、1時間当たり0.025ドルの従量課金で済む。データ処理量に応じて別途料金は必要となるが、ロードバランサの機能をインスタンス並みの低価格で利用できる点は大きい。
Amazon EC2の課題
いいことづくしのように思えるAmazon EC2だが、課題もある。6月11日の昼ごろ、pepozおよびメルPEPOのサービスが3時間程度停止した。原因は、Amazon EC2の物理サーバがあるデータセンターに落雷があり、電源トラブルが起こったためである。既存のホスティング会社であれば、すぐに緊急の電子メールで通知を流すところだが、Amazon EC2の場合はそのような措置はなかった。管理用のWebサイトにアクセスして告知用のページに入ると初めて事実が確認できたものの、お詫びのメッセージは掲載されていなかった。
これは、日本でミッションクリティカルなサービスを運用している企業から見ると、あってはならないことである。Amazon EC2はまったく異なる価値観と文化のカルチャーの人たちによって運営されているサービスであることは、重々認識しておかなければならない。なお、落雷による電源事故について付け加えておくと、ほかの企業のデータセンターに落雷があったとしても同種の電源事故は起こり得たわけで、不可抗力であったことに間違いはない。
課題はあるものの、Amazon EC2への移行は成功だった。われわれのような数人規模の企業でも、クラウドを使うことで大きなメリットが得られる。日本でも多くの企業がこのような恩恵を得られるようになるのは、時間の問題だろう。
著者プロフィール:今泉大輔(いまいずみ だいすけ)
ピーポーズ 代表取締役。青森県弘前市出身。早稲田大学教育学部英語英文科中退。カードビジネス専門誌の編集長を経て1993年に独立し、1994年にメディアプラネッツ有限会社を設立。2003年5月からシスコシステムズのビジネスコンサルティング部門にリサーチャーとして常駐している。2007年7月にピーポーズを設立。「pepoz」と「メルPEPO」に続く新規サービスの開発に力を入れている。ITmedia エンタープライズの「オルタナティブ・ブログ」では「シリアルイノベーション」を執筆している。
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