Netbookが売れてもMicrosoftは大丈夫:1台売れたら50ドルの損失?
Netbookの販売が増えればWindows 7の廉価版ばかりが売れて、Microsoftの利益率が低下する――。そうだろうか?
もしあなたが今、この記事をノートPCで読んでいるとすれば、そのPCはNetbookではないだろうか――米DisplaySearchの8月31日付の調査メモを読むと、そんなふうに推測したくなる。2009年4〜6月期は、ノートPC市場全体で昨年同期と比べて22%増加の力強い成長を示したが、Netbook(同調査メモでは「ミニノートPC」と表現している)は同時期に40%増という飛躍的な成長を遂げた。
同調査メモによると、全世界のポータブルPC市場に対する北米市場の比率は29.4%で、その内訳はNetbookが26.6%でノートPCが30.2%となっている。Netbook市場に参入する企業も増えており、米Acer、米Dell、東芝、中国のLenovo、米Hewlett-Packard(HP)といった大手メーカーも相次いでこの市場で名乗りを上げている。これは当然の流れだ。不況の影響でPC市場全体が冷え込む中、Netbookの販売増加はメーカー各社の収益の短期的な底上げにつながるからだ。
しかし一部の専門家の間からは、Netbookの市場拡大は米Microsoftにとって世界の終焉(しゅうえん)を意味するという声も聞こえてくる。
「これは大変なことだ」と彼らは叫ぶ。「Netbookの販売が増えればMicrosoftはますます多くのマシンにWindows 7の廉価版を提供しなくてはならなくなり、同社の利益率が低下する。このマクロトレンドが続けば、来年の今ごろはスティーブ・バルマーCEOがスターバックスのコーヒーをテイクアウトするような羽目になるだろう」
わたしはここでMicrosoftを称賛するつもりはないが、同社を歴史の墓場に葬ろうとも思わない。
確かに、NetbookはMicrosoftの利ざやを大幅に減少させる可能性がある。米調査会社NPDが先ごろ公表したデータによると、コンシューマーが派手なノートPCよりも超小型ポータブルの方を選ぶたびに、Microsoftは約50ドル損をすることになる。この数字に3800万台(DisplaySearchの調査による2009年4〜6月期のNetbook市場の規模)を乗じると、19億ドルという金額になる――これらのコンシューマーがすべて、Netbookを買わなかったとしたら本格機能を搭載したノートPCを購入していたであろうと仮定した場合だが、この仮定には疑問を感じる。
仮にこの金額から10億ドルを削ったとしても、Microsoftにとって決して“はした金”ではない。同社の2009年第4会計四半期の売上高は131億ドルで、昨年同期と比べて17%の減少となった。しかしNetbookの普及でMicrosoftの利益が大きく減少したとしても、同社が深刻な経営危機に陥るというわけではない。ほかにもさまざまな部門からの収入があり、マスターチーフ(訳注:Microsoftのゲーム機Xbox 360で人気のゲーム「Halo」シリーズの主人公)の活躍も続いている。
それに、Netbook自体が同社の影響力の拡大につながる可能性もある。
Microsoftのクリス・リデルCFO(最高財務責任者)は7月23日の決算発表の電話会見で、同社の厳しい状況が来年には好転する可能性があることを示唆した。SMB(中堅・中小企業)および大企業においてIT機器の一斉更新が予想されるからだという。
「企業向けPCの市場は、コンシューマー市場を上回るペースで成長すると期待される」とリデル氏は会見で語った。「販売台数の成長率が高まるのに伴い、平均販売価格も上昇するだろう」
さらに重要なのは、販売担当者などの外勤ワーカー向けの超小型デバイスを除けば、企業でのNetbookへのニーズは比較的低いということだ。企業ユーザーが必要としているのは、電子メールとWebブラウザだけでなく、プロダクティビティスイートや、大量のメモリを消費する専用アプリケーションが動作するデバイスなのだ。また、企業のPCの現在の使用年数は平均すると6年で、日増しにPCの老朽化が進んでいる。そして企業がPCのアップグレードを決断したとき、専用のシンクライアントを採用する場合を除けば、ほとんどの企業は、Microsoft Wordとビジネス分析アプリケーションを同時に実行しても、処理能力の限界を超えたプロセッサから煙が上ったりしないようなマシンを購入したいと思うだろう。
またPC製造業界が、安価なNetbookのパーティーを終えようとしている点も見逃せない。
7月31日に開催されたMicrosoftの財務アナリストミーティングでバルマー氏は、今年中にはメーカー各社が大型画面を搭載した高価格のウルトラポータブルPCを投入し始めるとの見通しを示した。
「ユーザーが軽量という利点を手に入れるとともに、当社にお金を払ってくれるのを望んでいる」とバルマー氏は語った。
近く登場する「Nokia Booklet 3G」は、従来のNetbookよりも高い価格に設定されると伝えられており、こういったミニノートPCの登場は、高価格・高性能タイプのNetbookへのトレンドが既に始まったことを示している(訳注:このコラムはBooklet 3Gの価格が発表される前に執筆された)。メーカー各社も高マージンを求めているのだ。そしてこれらのミニノートPCで高速なプロセッサが採用されれば、Microsoftは当然、その機に乗じて、より強力なWindows 7バージョンをOSとして組み込むよう促すことだろう。
関連キーワード
Netbook | Microsoft(マイクロソフト) | Windows 7 | ノートPC | ミニノートPC | Nokia Booklet 3G | Nokia(ノキア) | Android搭載PC
関連記事
- NokiaのミニノートPCはWindows 7搭載 価格は575ユーロ
Nokiaが先に発表したミニノートPC「Nokia Booklet 3G」の詳細なスペックを明らかにした。 - Netbookへの刺客? “超薄ノートPC”をMicrosoftがプッシュ
- AndroidはNetbook市場でWindows 7を脅かすか? (1/2)
AcerがAndroid搭載Netbookをリリースすると発表した。機能に制限のあるWindows 7のStarterエディションよりも柔軟性の高いAndroidを選択するのは賢明かもしれない。
Editorial items that were originally published in the U.S. Edition of “eWEEK” are the copyrighted property of Ziff Davis Enterprise Inc. Copyright (c) 2011. All Rights Reserved.