「このままでは日本のネット業界は危ない」 グリー、プラットフォーム戦略の狙い
ソーシャルアプリやSNSが世界競争にさらされている。「日本のネット業界は危ない」――グリーの田中良和社長には強い危機感があるという。
「日本のネット業界は危ない」――急成長を続けるグリーの田中良和社長は強い危機感を感じている。
iPhoneアプリやSNS向けゲームで海外のメーカーの存在感が増している。このままでは日本のゲームメーカーやSNS産業自体が「なくなるかもしれない」とみる。
同社はSNS「GREE」のプラットフォームを公開し、iPhoneアプリを皮切りに世界に進出。日本のSNSとして踏ん張り、「業界を盛り上げていきたい」という。
1月12日に発表したプラットフォーム戦略では、(1)外部のWebサービスやアプリケーション、端末からGREEの機能を利用できる「GREE Connect」(仮称)と、(2)外部開発者がGREE上でサービスを構築できる仕組み作り――の2つの方向性を提示した。
(1)については今春、技術仕様や機能を公開予定。(2)はまだ「検討段階」で、内容なリリース時期なども「発表できる段階になはい」という。具体的な内容が未定のまま発表したのは、「『グリーはプラットフォーム戦略を一切採らないのでは』という誤解を解くため」という。
これらの方向性は、「Facebook Platform」や「mixiアプリ」が先行してきたものと同じだ。外部開発者がSNS上にアプリを構築できる(2)の仕組みが特に脚光を浴びており、Facebookアプリでは数千万、mixiアプリでは数百万ユーザーを獲得するアプリも誕生。「モバゲータウン」もゲームアプリのオープン化戦略を進めている。
プラットフォーム戦略は、「SNSにゲームが増える」ではない
ただこういったプラットフォーム戦略を「オープン化」と呼ぶと「本質を見失う」と田中社長は言う。「日本でSNSのオープン化と言えば、ゲームアプリが増えるというイメージの小さな話になってしまいがち。だが本質はそうではない。プラットフォーム戦略の推進でネットの世界が大きく変わり、時代が変わる」
多くのユーザーを抱えるSNSがAPIを公開し、アプリケーションプラットフォームになることで、アプリの利用者数が劇的に増え、業界の勢力図も激変。ネットの使われ方も変わっていくとみる。
ゲームアプリですでに変化が起きている。最も使われているFacebookアプリ(牧場ゲームの「FarmVille」)は7000万ものユーザーを獲得。人気ナンバーワンのmixiアプリ(サンシャイン牧場)のユーザーも400万以上。それぞれ、友人などと交流しながら進める「ソーシャルゲーム」と呼ばれるゲームアプリで、前者は米国、後者は中国のベンチャー企業が開発した。
「ソーシャルゲームの売り上げは、日本の伝統的なコンソールゲームの売り上げに近づいて来ていると思う。この変化がゲーム以外にも広がれば、さらに大きな変化が起きる。プラットフォーム戦略は『SNSにゲームが増える』という狭い話ではなく、もっと大きな夢を持って取り組みたい。GREEはモバイルSNSで日本最大級。大きなプラットフォームになるだろう」
ネットのプラットフォーム化とアプリの進化の先に開けている世界は「まだ分からない」。例えば、SNSもアプリもバラバラの部品となってお互いが連携し、各自が好みのツールを組み合わせて使うような世界になるかもしれない。「今後どうなるか、すべて分かっているわけではない。ただ5〜10年後に今を振り返った時、大きな変化だったと思うことになるだろう」
「このままだと日本のネット業界は危ない」
mixiアプリには日本の大手ゲームメーカーも多数参入しているが、存在感は小さく、中国のベンチャー企業が開発した「サンシャイン牧場」に大きく水を空けられている。「この事実はもっと脅威を感じるべき。mixiアプリではいきなり中国に負けた。このままだと日本のネット業界は危ない」と、田中社長は警鐘を鳴らす。
「今後、日本のベンチャーより資金力のある中国や米国の企業が日本向けソーシャルアプリをもっと作ってくるだろう。5年、10年後には、中国や米国のアプリが当たり前になり、日本のものがなくなることもあり得る。そうなると日本でアプリ制作の仕事もなくなるし、日本らしいアプリもなくなってしまう」
GREEのプラットフォーム化で、国内のゲームやアプリメーカーなどと連携。収益をシェアする仕組み作りなどで「IT業界自体を盛り上げたい」と考えている。「ぼくらが日本のIT業界で働けるのは、ユーザーが日本のサービスを使ってくれるから。日本の文化や雇用、税収を守るには、日本のIT産業を守らないと」
Facebookが日本法人を設立し、本格参入をうかがうなど、SNS本体も世界競争にさらされつつある。「mixiアプリで日本メーカーは一度敗戦している。そこだけで負けがとどまる理由がないと思う。世界を意識しないと、日本からSNS産業がなくなってしまう」――GREEは日本のIT業界が生んだSNSとして世界を相手にする覚悟だ。iPhoneアプリやPC版を皮切りに、世界進出も計画している。
「例えばEC分野では、米国のAmazonも強いが日本の楽天も頑張っている。検索ではGoogleがあってもYahoo!JAPANが頑張っている。SNSやソーシャルゲームがYahoo!JAPANや楽天のように生き残るか、OracleやWindowsのように海外製品に国産が負けてしまうか、今は大きな分岐点にあると思う」
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