SFでプログレッシブな「初音ミク」を語り尽くす:難波弘之 対 野尻抱介(3/3 ページ)
日本を代表するロックキーボードプレーヤーにしてSF作家の難波弘之氏が初音ミクに興味を持っているという話を「尻P」こと野尻抱介氏が聞きつけた。かくして「どう転がるか全く読めない」座談会がスタート。
難波 だから、1人ひとりの初音ミクがあるっていう。そこがやっぱり。もちろん僕もSFファンだから、そりゃあ人工知能的な初音ミクが開発されたらそれはものすごい面白い可能性はあるなとか考えちゃうんですけどね。人間のミュージシャンを挑発してばかにしてくるようになったりして。「この曲だっせー」とか言いだす。
野尻 ほほー。
難波 ツンデレではなく、攻撃的な。
杜松 それはあんまりでも見ないパターンですね
難波 いやーそういう事態が起きる可能性があるのかどうか、今のところはあんまりなさそうですけど、わかんないですよね。ほら、アーサー・C・クラークが、昔『Fはフランケンシュタインの番号』(Dial F For Frankenstein)って短編を書いて、インターネットがないときに、世界中の電話回線がつながって1つの意識を持つっていう話あったじゃないですか。
野尻 ああ!
難波 今で言ったらインターネットなんだけど、さすがにSF作家だから、意識を持つっていう小説にしちゃうわけですよね。
杜松 ありましたね、集合意識みたいな。
難波 そうそう、クラークお得意の。あれって今考えたらインターネットっぽい感じ。意識のあるインターネットっぽい感じ。
初音ミクのキャラでいろんな力が引き出される
野尻 でもそういうAI方面でモノになりそうだっていう予感と、今のボカロブームとは、だいぶ似てるようで違う。眠っていた人材が一気にネットでつながった、というのが、ボカロの力なんですよね。
難波 そうですね、それはありますね。
野尻 そこに、でも単なる楽器じゃなくてキャラクターが居ると。初音ミクみたいなキャラクターがちょこんと座ってることで妙にまとまるというか、いろんな力が引き出されちゃったということですね。
杜松 引き出されたし、呼び戻されたんでしょうね。VOCALOIDで、一度は手放しちゃった音楽に戻ってきたっていう人がたくさんいるんですよ。吹奏楽上がりであったり、かつての宅録系の趣味人であったり。
難波 結局、歌で煮詰まってたりした可能性は高いですもんね。
松尾 自分で歌うことのはずかしさとか、それを外にだすことのさらに恥ずかしい感じ。それを出したとしても聴いてもらえない、という壁がいくつも存在する。
野尻 ニコニコ以外、ミク以前にも音楽を出すことのできたmuzieやBoon、あのへんと、ミクが出てきた後のニコニコ動画とでは全然再生数が違うと。2桁くらい違う。佐久間さんがボカロ使ってたのも、そこもあるんじゃないですかね。とにかくもう、すぐ、話題になる。聴いてもらえる下地がある。
難波 そのへんの感じって、実は僕が昔ティーンの頃やってたSFファンダムにすごくよく似てるなあって思ってて。あの頃ってネットなかったけど、今ネットでやってることのほとんどは、あの頃やってたこととよく似てますよ。再生数を誇る感覚も、ビッグネームファンと呼ばれることが夢だったとか、そういう感覚にすごく良く似てる。例えばSF大会の企画で、部屋に何人来た、とかね。そういう感じがよく似てるなあって思うんですよね。
杜松 そうですね、メジャーに行って大きなセールスを、っていう人ももちろんいますけど、このVOCALOIDをつかってる、同好の士の大きな輪の中での認められたい、という人は多そうです。そして今はそのシーン自体が大きく広がってきてるから、もしかしたらこれをそのまま世の中にもっていけるんじゃないか、みたいな期待感はあるかもしれないですね。
(続く)
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