「ハードの目利き力」──「ニンテンドー3DS」が固定シェーダを採用した理由
ニンテンドー3DSには、シェーダを内蔵した国産GPU「PICA200」が採用される。岩田社長は、技術の「筋」の善し悪しを判断する「ハードの目利き力」が非常に重要だと説明する。
任天堂が来年2月に発売予定の「ニンテンドー3DS」には、シェーダ機能をハードウェア内蔵とした国産GPU「PICA200」が採用される。主流のプログラムシェーダではなく、制限のある固定シェーダを採用した理由について、岩田聡社長は「消費電力と表現力のバランスが良いと思った」と説明した。
10月末に開いた同社決算説明会の質疑応答で、PICA200と固定シェーダを採用した理由について問われて答えた。
同チップの提案を受けて「それで良いのではないか」と決定プロセスに関わったという岩田社長は、同チップによる固定シェーダ採用の利点として消費電力と表現力のバランスを挙げ、「未来永劫にこの方法がいいのかは分からないが、今の段階ではバランスはこれがいいのかなと考えた」と述べた。
3Dグラフィックスに陰影などを付けて表現力を高めるシェーダ(Shader)をソフトウェアで実装するプログラマブルシェーダに比べ、使える機能が決まっている固定シェーダには「表現力に一定の制限はある」が、3DSでは「プログラマブルシェーダでできる無限の可能性のうち、使いそうな種類、事前に選んだ種類だけ、ハードで用意してある」ため、「普通に使いそうなことは全部用意されているので、別に劣っているわけではない。現実に、3DSでエネルギーをかけて作られた絵を見ると、グラフィックスが不満だというふうには感じないのでは」と話した。
宮本茂専務も「ソフトを作る側からすると、安定した性能が欲しい。ファミコンの頃にハードウェアが自動的に全部をやってくれていて、非常に安定した性能がとれていた。制限はあるが、そういう任天堂の経験則や『任天堂らしくていいんじゃないか』という直観のようなものもある」と述べ、竹田玄洋総合開発本部長も「携帯ゲーム機においては、消費電力が一番大きな要素。解像度やソフト開発費などを総合的に判断して携帯ゲーム機においては固定シェーダが一番妥当ではないかなというそろばん勘定」と説明する。
重要になる「ハードの目利き力」
ゲームキューブに採用された「1T-SRAM」のように、任天堂が採用する技術にはユニークなものが多い。こうした技術とどうやって出合うのか。竹田総合開発本部長は「任天堂はチップ開発技術のある会社ではないので、いろんな方と偏見なしに付き合いができるという利点がある。任天堂はユニークな存在であるがゆえに、技術の会社にとってみればコンペティターではない」と説明、「全方位の付き合い」が任天堂の強みだという。
岩田社長はWiiリモコンなどに搭載した加速度センサーの例を挙げ、「『ハードの目利き力』、すなわち『この技術は筋が良いのか良くないのか』を目利きする力が非常に重要になってくる」と話す。
「その技術の素性を評価し、それがまだ世の中で保証されていない段階だけれども、恐らくいけるだろうと判断し、採用し、実際にものにする」ことで、技術開発企業が「任天堂なら自分たちの技術をうまく大衆化し、市場を大きくしてくれるかもしれない」と期待し、多くの企業が任天堂に売り込みをかける──という正のスパイラルを実現していることが任天堂の「特殊性」だという。そのためにも「開発関係の人間のすごく重要な仕事は、いい目利きをすることなのかなと思う」と岩田社長は述べている。
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