初音ミクへの思いこそ「究極の愛」か 現代の恋愛、人気作家など議論:ORF 2010(2/2 ページ)
「若者はコストパフォーマンスで恋愛を考えている」「初音ミクへの思いこそ、究極の恋かもしれない」――濱野智史さん、平野啓一郎さん、櫻井圭記さんが現代の「恋愛のアーキテクチャ」を語った。
アイヌ語には「4人称」があるという。3人称の“彼ら”と自分たちをひっくるめた概念で、櫻井さんは著書「フィロソフィア・ロボティカ――人間に近づくロボットに近づく人間――」で、ネット社会で4人称は拡大していくとで指摘している。
濱野さんは「初音ミクはまさにこの4人称」と話す。「ミクという“3人称的な誰か”がいるが、実際に作品を作り、支えているのは俺たち、オタクたち。他人への愛とは違う、“4人称に対する愛”みたいなのが立ち上がってきている」
なぜその人が好きなのか 「分人」への承認
愛とは何か。なぜその人が好きなのか。平野さんは新作小説「かたちだけの愛」(12月10日発売)を書きながら考えてきたという。その1つの答えが、「誰といるときの自分は好き」という、相手を媒介にした自己愛だ。
人は、一緒にいる人や環境によって人格が変わる。友人と話している時、家族と家にいる時、会社で同僚と働いている時――相手や環境によって変化するキャラを、平野さんは「分人」(ぶんじん)と名付ける。
「この人といるときの自分は、面白いことを言えるしリラックスできて好き」「あの人といると、緊張して何も言えなくなるから嫌い」など、人には好きな分人と嫌いな分人があるもの。「なぜその人が好きなのかは、その人といるときの自分が好きというのがあるのでは。相手が好きという感情のおかげで自分を愛せるという関係がうまく釣り合っていると、誰かと長い時間を過ごすことに納得ができるのではないか」(平野さん)
恋愛を「全人格的な承認を求めるもの」という前提で考えると、恋愛は「分人化を許さない」(濱野さん)が、平野さんの考え方は「分人化され、限定されたナルシシズムでもいいのではという開き直り」ととらえると「納得できる」という。「オタクは全人格的な承認が欲しいと思っているのに阻害されている」(濱野さん)とも。
ネット時代、恋は簡単、愛の維持は難しい!?
ネットや携帯の進展は、地続きだった恋愛を「恋」と「愛」に分化し、それぞれをエンパワーメントしていると濱野さんは指摘。ニクラス・ルーマンによる恋愛の定義を濱野さん流に読み解いて解説する。
ネットや携帯が普及した現代、“グッとくる”属性を発見する「恋」は、「萌え」にも言い換えられ、検索すればいくらでも見つけらる。愛は、「お前のことを考えているよ」と、あらゆる場面・あらゆる行為で証明し続けることと定義できるが、mixiやTwitter、携帯メールなどで相手の行動を24時間チェックできてしまう現代、相手に対して常に「愛している証明」を要求できる状況で、愛を維持することはより大変になっている――というわけだ。
恋愛小説が難しくなっている
「ロミオとジュリエットは、携帯電話があったら成り立たない」――携帯やネットの普及で、恋愛小説が年々難しくなっていると平野さんは話す。
物語を作るのは「会いたいけど会えない」「連絡を取りたいけど取れない」といった状況。「出会いの機会が増えて、コミュニケーションの規模が無限に拡大できる」現代では、「かなり状況を限定しないと燃え上がる話にはならない」(平野さん))という。
ケータイ小説でヒットした「恋空」は、ヒロインが死に、「コミュニケーションできない状態になって初めて愛が生まれる」(濱野さん)。メールのやりとりのスピードでも距離感を演出しており、「ケータイメールをもらい、ダッシュするシーンがあったりする」(濱野さん)
平野さんも恋空を読み、恋する2人の関係が(1)音信不通、(2)メールという記号、(3)電話という音声情報、(4)会ってセックス――と「メディアが伝えられる身体情報ごとにきれいにレイヤーになっている」のが面白かったと話す。だが「最後に2人が愛し合っていると実感しているのはセックス」で、「メディアの再現性はあまり信頼していない」のもポイントだ。
「これだけメディアが進歩し、初音ミクみたいなものもいいじゃないか、という考えがあるなかで、櫻井さんの話でも、単なる友達ではなく、肉体関係を含めた友達が求められているのが面白いと思った」(平野さん)
櫻井さんもケータイ登場以来、ドラマ作りが「激変した」と話す。攻殻機動隊は、脳神経でネットに直接アクセスし、情報交換できる世界を描いているため「犯罪を構築するのが大変。公安の特殊部隊(攻殻機動隊)が出てくるほどの事件がなぜ、彼らが出てくるまで明るみにならなかったのか、明るみになったときにどう犯罪として成立させるか、苦労する」という。
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