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営業ゼロで「売れる」理由――創業13年で3900億円企業に 豪Atlassianに聞く「急成長術」

「Confluence」や「HipChat」などエンジニア向けツールで知られる豪Atlassianは、創業わずか13年で、世界135カ国・4万社以上に展開。企業価値は3900億円に上るともいわれている。急成長の秘訣を、来日した共同創業者に聞いた。

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 オーストラリアに本社を置くソフトウェア企業・Atlassianが急成長を続けている。同社は、プロジェクト/バグ管理ツール「JIRA」や、コラボレーションツール「Confluence」、チャットツール「HipChat」など、企業向けに特化した業務効率化ソフトを幅広く展開。FacebookやNASA(米航空宇宙局)、Tesla Motorsなど大手をはじめとして、世界135カ国・4万社以上が導入している。

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Atlassianの製品群

 創業は13年前の2002年。グローバルに急成長し、その企業価値はいまや33億ドル(3900億円相当)になるとも報じられている。米国やオランダ、日本などに現地法人を設立。従業員は1200人を数え、この1年でさらに1000人増やす計画という。

 グローバルに快進撃を続ける同社の特徴は、「営業チームを一切持たない」といったユニークな社風だ。営業なしで成長できる理由は――来日したAtlassianの共同創業者 兼 Co-CEOのスコット・ファークァー氏に聞いた。

学生ベンチャーながらBtoBに照準

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スコット・ファークァーCo-CEO

 同社を起業したのはファークァー氏が21歳のころ。ニューサウスウェールズ大学在学中に知り合ったマイク・キャノンブルックス氏と2人でAtlassianを創業した。「私がマイクを共同創業者に選んだ基準は、知り合いの中で一番頭が良くて、一緒に起業してくれるぐらい“バカ”な人、でした」――ファークァー氏はそう言って笑う。

 当時、ネクタイを締めて粛々と会社に通う「サラリーマン」にだけはなりたくなかったという。「就職活動はしなかった。なるべくネクタイを締めずに、大卒初任給ぐらい稼ぐにはどうしたらいいか考えた結果が起業だった」。

 学生ベンチャーといえば、Facebookに代表されるように、コンシューマー向けの製品を作る企業が目立つが、同社は最初から企業向けのシステムに特化したサービスを開発している。学生ながら、BtoBに目を付けたのはなぜか。

 「在学中、IBMやプライスウォーターハウスクーパースなどの大企業で、エンジニアのインターンシップをしていた。その時、ビジネスソフトのひどさを目の当たりにした」――自分ならもっと良いソフトが作れると考えていた。

「営業マンなし」で売れる理由

 2人ともエンジニアで、営業経験はゼロだった。にも関わらず、会社設立後ほどなく、大きな受注を獲得した。大手航空会社・アメリカン航空からの受注だ。「何もしないで売れた。良いものを作れば、営業マンなしでも売れるのだと、この時に確信できた」。

 今でも同社には営業マンがいない。「サービスが顧客に届くまでの“抵抗”を最小限にしたい」という思いからだ。「できるだけ多くのソフト開発者にリーチするには、営業マンが1人1人電話をかけていては間に合わない。IT業界には10人未満の小さな会社もたくさんあり、小さな会社には特に、営業コストをかけられない」。

 では、どうやって製品を売り込むのか――最も大きいのは「口コミ」だという。現場のエンジニアが製品を試し、良いと思えば、口コミで評判が広がっていく。そのために同社は、良い製品を作り続けることを最も大切にし、開発に最大限のリソースを投入。製品の改善を続ける。

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「アメリカン航空はまさか僕らがエンジニア2人だけの会社とは思わなかっただろう」と話すファークァー氏

 同時に、営業マンに問い合わせなくても製品に関するあらゆる情報が把握できるよう、Webを通じた情報公開を徹底してきた。「特に会社が小さいうちは、できるだけブランドをアピールし、導入事例を公開するなど情報をオープンすることが大事だ」

 営業マンの存在を否定しているのではない。「アンチ営業マンではなく、オートメーション(自動化)のプロだ」――ファークァー氏は自社の“営業”のあり方をこう定義する。

 ファークァー氏は、生まれたばかりのスタートアップベンチャーが信頼を得るための“裏技”も教えてくれた。「アメリカン航空から注文を受けたとき、創業者2人だけの企業だったが、相手先はそうは思っていなかっただろう。まるで大きな会社であるかのように、『sales@atlassian.xxx』『support@atlassian.xxx』など20ぐらいメールアドレスがあったから。ネットは自分たちをふくらませて見せられるのがいいところだ」

急成長支える“メッシュ型コミュニケーション”

 「たいていの会社は、間違った組織構造をかかえている」――ファークァー氏はこう指摘し、自社の“メッシュ型”構造が急成長につながったと話す。

 多くの企業の組織はピラミッド型で、下層にいる人は決裁権を持っていない。だが、Atlassianは“メッシュ型”の組織に設計。トップは方向性だけを決め、現場に大きな裁量を与えて都度の判断は任せることで、動きをスピードアップしている。「経営者は会社の方向性を考えることにエネルギーと時間を集中し、どう走るかは下に任せている」のだ。

 社内での情報共有を徹底。「同僚の給料以外はすべて知っている」ほどオープンな組織運営を行っており、グローバルでの開発状況やバグ対応状況なども共有している。そのため、例えばバグが見つかった場合も、豪州のエンジニアが退社した後、その対応履歴を見て、まだ勤務時間中の日本のエンジニアが対応する――など、国境を越えた協力も容易という。

 同社の製品が選ばれる理由の1つに、フラットな組織構造ならではの“現場目線”がある。「Hewlett PackardやIBMなど旧来のソフトハウスの製品は、紙で処理していたものをPCに持っていこうという発想で作られているが、当社の製品は開発者の視点で、開発者のために作っている。観点がまったく違う」

 同社の製品を導入すれば、メッシュ型コミュニケーションを促進できるという。例えばサイバーエージェントの「Ameba」運営チームは「Confluence」を導入。複数の部署・フロアにまたがって勤務しているエンジニアやデザイナーの間でソースコードや開発ツールの情報を一元的・横断的に共有することで、業務効率アップやコミュニケーションの活性化につなげている。

 また、旅行オンライン予約サービスのExpediaやsalesforce.com、Dropboxは社内でチャットツール「HipChat」を活用しているという。このように、同社の製品を導入してメッシュ型コミュニケーションを実現している例は数知れない。

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HipChatの利用イメージ

 日本にはピラミッド構造の会社がまだまだ多いが、メッシュ型に変わることはできるだろうか。「日本でも若い世代は自分で判断できるし、メッシュ型構造で設計されているFacebookのようなSNSに慣れている。そういった若い人が大手企業に行って文化を変えるか、自分で会社を作るしかない。他の国はそうなっているから、日本もそうなるだろう」

「豪州で一番働きがいのある会社」に

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ファークァー氏に「どんな点が働きがいがある?」と尋ねられて答える日本法人社長のスチュアート・ハリントン氏(右)

 同社は「豪州で一番働きがいのある会社」と評された。「世界135カ国で、医療から自動車、宇宙関連などあらゆる分野の4万社以上が当社ツールを採用している。多くの企業の業務を改善できるのは、非常に意味とやりがいのある仕事だ」

 さらに、現場に裁量権を与えた“メッシュ型”の組織体制が、1人1人が自発的に判断して動くカルチャーにつながり、社員のやる気と機動力を高めているという。急成長しながら組織のカルチャーを維持していくのは「簡単ではない」としながらも、入社時のトレーニングを徹底するなどして、風通しが良く働きやすいカルチャーを維持していると、ファークァー氏は話している。


提供:アトラシアン株式会社
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia ニュース編集部/掲載内容有効期限:2015年3月31日

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「JIRA」「Confluence」「HipChat」など、開発チームのコミュニケーション、コラボレーションを支援するツール群を提供しているAtlassian。市場ニーズの変化に対応するために、ビジネスを支えるソフトウエア開発にも一層のアジリティが求められている中で、同社のツールは国内でも大きな支持を獲得している。では競合製品も多い中で、同社ツールが現場に支持される理由とは何なのか? 共同創業者でCo-CEOを務めるスコット・ファークァー氏へのインタビューから、その開発思想を探った。

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