漫画「境界のないセカイ」単行本化が白紙に 連載打ち切り 性役割に関する「表現上の問題」で
「マンガボックス」で連載中の漫画「境界のないセカイ」の単行本化が白紙となり、連載も打ち切りに。講談社が「表現上の問題がある」と単行本の発売中止を決定したため。作者は続きを書かせてくれる版元を募集している。
漫画家の幾夜大黒堂(いくやだいこくどう)さんは3月15日、漫画アプリ「マンガボックス」(ディー・エヌ・エー運営)で連載中の漫画「境界のないセカイ」が、同日公開の第15話で打ち切りになるとブログで報告した。単行本を発行する予定だった講談社が、作品中に描かれた男女の役割の表現について「表現上の問題がある」と発売中止を決めたという。マンガボックスでは人気連載だったといい、続きを書かせてくれる版元を募っている。
「境界のないセカイ」は、性別を変えられる未来の世界を描いた作品。単行本の発売は昨年決まっており、2月上旬には単行本作業も終了。講談社のサイトで発売が告知され、Amazonなどで予約も始まっていた。だが2月中旬になって「講談社社内で表現上の問題が持ち上がった」と、マンガボックスの担当編集が幾夜氏に伝えたという。
講談社が危惧したのは、第5話で登場人物が「女性なら男性と恋をするのが普通でしょう? 女性と恋をしたければ男性に性選択すればよいのですから」と語るシーンがあるなど、「男女の性」に基づく役割を強調しているととらえられる場面があることだという。「男は男らしく女は女らしくするべきというメッセージが断定的に読み取れる」との判断で、この部分に対して起こりえる性的マイノリティの個人・団体からのクレームを回避したい――と伝えられたという。
幾夜氏は第5話のせりふについて「同性を愛する人々にひどいことを言っている」という認識はあったが、物語が進む中で、主人公がこうした考え方に疑問を持ち、最終的には多様な生き方に寛容な考えを持たせていくつもりで、主人公の変化を描く過程の一部でだったという。「むしろ作中で肯定する意図のない、後に否定したい部分が問題となって発行中止となったことが無念でならない」と打ち明けている。
講談社の危惧を解消するため、幾夜氏は該当部分の修正に加え、「性別を変えることなく同性を愛せないか葛藤する少年少女の話」など、問題部分と対になる内容を描き足すこで、作品のメッセージを中立化できないか検討したが、それを形にする前に「講談社の決定は覆らない」との通知を受けた。講談社が単行本を発売できないとマンガボックスが同作で収益をあげられる見込みがなくなるため、連載中止が決定したという。
また、連載当時マンガボックス編集部との打ち合わせでは、該当シーンは問題にならないと判断。連載終了の一番大きな原因は、著者と編集担当のマンガボックス、出版担当の講談社との連携がきちんと取れていなかったこと――とみている。
幾夜氏は「作者という立場からすると、講談社さんの判断は守りに入りすぎているんじゃないか」と打ち明ける一方で、「一歩引いた立場にで考えると、講談社さんが萎縮する事にも同情的な気持ちにもなる」と講談社の立場にも理解を示す。東京都渋谷区が同性カップルをサポートする条例を出して以降、性的マイノリティに関わる言説がむしろ過激さを増すなど、「せっかく性的マイノリティへの理解が進んできたのに、一転して腫れ物扱いされてしまうようになってしまったら不幸」と心配している。
幾夜氏はブログに連絡先を明記し、作品の移籍先を募集。急に仕事がなくなってしまったため、別の仕事も募っている。また、作品の移籍・継続がかなわなかった場合は、商業単行本とは違う形で、これまで執筆した分をまとめたいとしている。
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