光あふれる温かい世界を あんべよしろうさん:教えて! 絵師さん
ゲームや書籍のイラストを手がけるあんべよしろうさん。ファンタジーの世界もレトロな雰囲気も、光の表現に思わず見入ってしまいます。
物心ついた時からお絵かきが好きでした。幼稚園の「運動会のしおり」に絵を使ってもらえたことが原体験となり、その後の興味を決定付けた気がします。小中高とノートに落書きや模写をし続けていましたが、美術部や絵画教室には所属せず、漫画の影響で入った体操部で跳ねたり回ったりしていました。絵を作品としてきちんと仕上げるようになったのは専門学校に入ってからだったと思います。
当時はイラストレーターを広告業界の職業と認識していたので、自分の描くような絵を仕事にできるのは漫画家くらいだと思い、卒業後は漫画家さんの元でアシスタントとして働きながら漫画を描いていました。しかし、絵の練習ばかりで物語を作る訓練をしていなかったんですね。早く絵が描きたいのにその段階まで全然たどりつかないし、ようやく仕上げた作品を持ち込んでも「絵は描けているけど話が物足りないね」という意見ばかりで……。自分がやりたいのは漫画ではなくイラストなのでは、ということに5年もかかって気付きました。
イラストに路線変更してからは、雑誌のコンテストの小さな賞やpixiv年鑑への掲載をきっかけに、3年ほど前から少しずつお仕事をいただけるようになりました。現在はフリーのイラストレーターとして、ゲームや書籍などでイラストを描いています。回り道にはなりましたが、漫画の現場で教わった創作に対する考え方は、今の自分に大きな影響を与えていると思います。
基本的に毎日、昼ごろから夜中まで描いています。休みは特に決めていませんが、午前中はゆったり過ごしているのと、仕事の合間に人と会ったり家族と出かけたりして気分を切り替えています。好きなことを仕事にしているので日々楽しく過ごせています。もちろん大変なこともありますが、「好きでやってることだしな」と前向きになれている気がします。
制作に使用しているのはPC(Windows)と「Cintiq 24HD」。ほとんどの場合、ラフから仕上げまでPhotoshop 1本で進めています。液晶ペンタブレットを使用し始めてから、それまで作業化しかけていたデジタルでの作画が「お絵かき」の感覚に近づきました。最近は試験的にCLIP STUDIO PAINTを用いることもあります。
絵柄そのものに対するこだわりはあまり強くない方だと思いますが、柔らかさや温もりを感じられるような絵作りを心がけています。見た時にほっと一息つけるような作品といいますか。キャラクター単体だけでなく場面や空間の雰囲気を含めて描きたいので、ライティングやレンズの仕組みをもっと勉強する必要性を感じています。
作家としては、ノーマン・ロックウェルとフランス・ハルスが好きで、画集をよく見ています。鶴田謙二さんの描かれる作品もとても魅力的ですね。情景を切り取ったような画面構成や、いきいきとした表情の描き方に影響を受けていると思います。
教えて! 自慢の1枚
COME IN WE ARE OPEN
今年の年賀状に使用したイラストです。木の素材感やレトロチックなモチーフが好きなので、地味な画面ではありますが描きたいものを描くことができて気に入っています。
この世界で…
お仕事で描いたイラストです。光の表現を意識し始めたころの作品で、わりと上手くできたかなと思っています。
今日はもう寝る時間
ノートに何気なく描いた落書きを仕上げた作品でしたが、ネット上で多くの方に見ていただきました。お仕事につながるきっかけになった作品の1つだと思っています。
関連記事
- pixivを美術の世界の入り口に 日本画家・イヂチアキコさん
少女をモチーフにした作品を手がける日本画家、イヂチアキコさん。美術作品を積極的にWebでも公開する理由は――。 - “偶像としての女の子”を遠くから りばたさん
「名前もわからない、何を考えているかもわからない、偶像としての女の子を描きたい」――制服を来た彼女たち、見てるこちらがいろいろ想像してしまいます。 - 女の子の輝きを絵に閉じ込めて るごさん
キュートからシリアスまでさまざまなテイストの女の子を幅広く描く、るごさん。ファッションや色使いがかわいさを引き立てています。 - 揺れる髪から生まれるファンタジー またよしさん
どこかファンタジックな雰囲気が目を惹くまたよしさんのイラスト。こだわりは、繊細に描き込まれた髪の毛だそうです。 - “男のかっこよさ”をシンプルに追求したい みっつばーさん
「男キャラをかっこよく」がこだわりと話すみっつばーさん。絵を描き始めたのは高3――漫画家を目指した「遅い出発点」からここまでの歩みを聞きました。 - ネットやテレビ横目に「集中しない」 描き込みと余白のバランスがこだわり へびつかいさん
細かいモチーフを使いながらもすっきりと整然と見えるへびつかいさんのイラスト。秘密は「描き込んでいない箇所」へのこだわりでした。 - 「このまま死ねたらいい」――現実では言えない言葉を伝えるために TCBさん
どこか憂いを帯びた人物画が印象的なTCBさん。「このまま死ねたらいい」「性懲りもなく引っ掻き回して、後戻りできなくなった」など、シリアスなタイトルにもドキッとします。 - 物語の世界へ導く色彩を探して 藤ちょこさん
イラストの世界に吸い込まれそうなくらい、細かく描き込まれた美しい背景が印象的な藤ちょこさん。「昔は背景を描くのが大の苦手だった」というお言葉が出るとは思いませんでした。 - アイデアの源泉は言葉や物――色鮮やかに暖かく iroricoさん
色鮮やかでどこかファンタジックな世界を描くiroricoさん。イラストだけでなく雑貨制作も手がけています。 - “等身大のおしゃれと萌えが共存”したキュートな女の子 U10さん
こだわりは「等身大のおしゃれ感と萌え感の共存」! U10さんの描く女の子、ときめきます。 - フルデジタルで描く絵本のような幻想世界――KATSUOさん
童話や絵本の世界を連想させる幻想的な絵を描くKATSUOさん。繊細なタッチはフルデジタルで描かれているそうです。 - 独学の日本画で描く妖怪の世界――アマヤギ堂さん
妖怪や動物の妖しげな世界を描いた日本画で、独特の存在感を放つアマヤギ堂さん。お気に入りの作品は「特にないです」と話す理由は……? - “きれいでかわいい”だけじゃない、“ミステリアスな女性”を美しく――マツオヒロミさん
ネットを中心に活躍する絵師さんにフォーカスする連載企画「教えて! 絵師さん」。第2回は、1度見たら忘れない、鮮やかな色使いの少し影のある女性が印象的なマツオヒロミさんです。 - こだわりは「目」――“ラスボス”イラストも手がけるおはぎさん
ネットを中心に活躍する絵師さんにフォーカスする連載企画「教えて! 絵師さん」がスタート。第1回は小林幸子さんの動画イラストなどを手がけるおはぎさんです。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.