暗号化解除をめぐる米法案、司法当局へのバックドア提供を義務付け
Apple対FBIのiPhoneロック解除をめぐる攻防が続く中で公開された暗号化解除をめぐる法案は、裁判所が暗号化された情報やデータの解読を企業や個人に命令できる内容になっている。
米連邦議会が準備中の暗号化解除をめぐる法案が4月7日(現地時間)、米政治系メディアThe Hillによってファイル共有サイトScribd.comで公開された。
上院情報特別委員会のリチャード・バー上院議員(共和党・ノースカロライナ州)とダイアン・ファインスタイン上院議員(民主党・カリフォルニア州選出)が作成したこの法案(バー暗号化法案)は、企業や個人は裁判所命令があれば、情報あるいはデータを理解できる(intelligible)フォーマットで提供するよう義務付ける。それができない場合は、情報あるいはデータを当局が入手するための技術的な支援を提供する必要がある。
「データが機能、製品、サービスによって理解できない(unintelligible)ようになっている場合、そのデータを理解できるフォーマットで提供する義務がある」とある。つまり、端末のロックで読めないデータも、WhatsAppのようなサービス全体に施された暗号化も、裁判所は解読を命じられるようになる。
米Appleが捜査協力のためにiPhoneのロック解除ツールを米連邦捜査局(FBI)に提供することを拒否したことをきっかけに、国家安全と個人のプライバシーのバランスをめぐる議論が高まっている。
FBIがAppleにロック解除ツールを要求する拠り所とした法律「All Writs Act」(全令状法)は時代に即していないとAppleや米Microsoftは主張しているが、バー暗号化法案が現在の内容のまま可決されれば、Appleが同じような命令を拒否すれば違法になる。
Appleは、捜査当局に協力はするがバックドアの提供は拒否するという姿勢を明確にしており、国がどこまで個人のプライバシーに対して権力を持つべきかを国家レベルで議論すべきだと主張している。
法案を作成している両議員は声明文で「われわれはまだ討議草案を完成させていないので、コメントできない。現在ステークホルダーからの意見を求めている段階だ」としている。
この法案については、米連邦政府は公に支持を表明しない見通しであると、米Reutersが複数の情報筋の話として報じている。
本稿執筆現在、ケヴィン・バンクストン氏をはじめとする多くの人権活動家やプライバシー保護団体がTwitterなどで反対を表明しているが、Appleからのコメントはまだない。
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