「フェアに戦いたい」 JASRAC、競合を歓迎 審判請求取り消しまで7年半かかった理由は
「最大の理由は、状況の変化だ」――JASRACが公取委の排除命令取り消しを求めて行っていた審判請求を取り下げ。浅石理事長は、競合を歓迎する姿勢をアピールした。
「最大の理由は、状況の変化だ」――日本音楽著作権協会(JASRAC)の浅石道夫理事長は9月16日、公正取引委員会による排除措置命令取り消しを求めて行っていた審判請求を取り下げた理由について記者会見でこう述べ、公取委が指摘した問題は事実上解消したとの認識を示した。
「競合他社がいる状態は、JASRACのステップアップのために時代が用意してくれた贈り物だ」とも述べ、ライバルの著作権管理会社・NexTone(ネクストーン)を歓迎する姿勢をアピールした。
問題視された「包括利用契約」とは
JASRACをめぐっては、放送局と結んでいる「包括利用許諾契約」が、競合他社の参入を阻害しているとして、公正取引委員会が09年、排除措置命令を出していた。
包括契約とは、放送された楽曲の実数に関わらず「放送事業収入の○%」といった形で、使用料を包括的に算定する方法。楽曲を使用する際、1曲1曲許諾を取ってそれぞれについて使用料を支払うという手間が省ける。
公取委が問題視したのは、包括契約そのものではなく、使用料の算定方法だ。包括契約を結んでいる放送局は、JASRAC楽曲は使い放題。だが、JASRAC以外の管理団体が管理する楽曲を使用すると、JASRACに支払う使用料に上乗せして支払う必要がある。
放送局は使用料の追加負担を嫌って他の管理事業者の楽曲を利用しないため、他事業者は放送向け管理事業を営むことが困難になっていると公取委は指摘。使用料の算定方法を改善し、放送で使われた楽曲のうち、JASRAC楽曲の割合を反映した方法に改めるよう命令していた。
ほとんどの放送局で「全曲報告」に対応
JASRAC楽曲の利用割合を正確に出すためには、放送で使った全曲を放送局に報告してもらい、そのうちJASRAC曲が何%か計算する必要があるが、当時、全曲報告に対応していたのは一部の局だけ。「利用割合を反映した徴収方法を採用するのは不可能だった」と浅石理事長は述べる。7年半経った現在は「当時とは逆に、一部の局以外は全曲報告が実現した」ため、JASRAC楽曲の割合を正確に反映した使用料の算出ができるようになったという。
さらに、JASRACと、競合の音楽著作権管理会社であるイーライセンス、ジャパン・ライツ・クリアランス(両社は16年に合併し、NexToneを設立)、放送事業者の協議で、放送で使われた楽曲のうち、各管理事業者の楽曲の割合を算出する方法について合意。放送で使われた割合に応じて、JASRAC・NexToneそれぞれが使用料を受け取れる環境が整備されたという。
具体的には、放送局はJASRACとNexToneに対して、放送した全曲目リストを送信。JASRACとNexToneは、リストから自らが管理する楽曲を確認し、放送局に返す。放送局は、放送した全楽曲のうち、JASRAC・NexToneの曲の割合をそれぞれ計算し、所定の使用料を両者に支払う――という流れだ。「放送局は以前は、使った曲をJASRACだけに報告すれば済んでいたのが、JASRACとNexToneの2つになる」(JASRACの大橋建三常務理事)が、それ以外の手間は変わらないという。
「7年半」かかった理由は
公取委が09年2月に排除命令を出してから、JASRACが16年9月に審判請求を取り下げるまで7年半。長い時間がかかったのは、「放送局に全曲報告を行ってもらうのが、09年当時は難しかった」ためだと浅石理事長は説明。全曲報告が可能になった今は、公取委が問題視した状況は解消されたとの見方を示す。
また、14年にイーライセンスがJASRACを相手取り、損害賠償請求を求める民事訴訟を東京地裁に提起したことも影響したという。「公取委の排除措置命令を受け入れると、この訴訟でJASRAC側は負けざるを得ない」ためだ。だが、イーライセンスとジャパン・ライツ・クリアランスが合併してできたNexToneが今年2月、この訴訟を取り下げたため、公取委と争い続ける必要性も薄まった。
「排除措置命令の適否を争うだけのために経営資源を費やさず、審判請求を取り下げて本来の業務に全力を尽くすことが、権利者・音楽著作権管理事業分野全体にとって有益だと判断した」と浅石理事長は言う。
JASRACの役員が今年6月に交代したことも影響したという。「公取委と戦い続けてきた役員に『こぶしを下ろせ』というのも酷な話だ。(6月に就任した)現在の役員のうち、排除措置命令が出た時の業務執行役員で残っているのはわたし1人。わたしがいる間に、結論を出そうと考えた」(浅石理事長)。
競合は「JASRACステップアップのための贈り物」
設立以来、著作権管理を独占してきたとみられがちなJASRACだが、競合と争っていた時代もあるという。「かつて、10%程度のシェアを持つフォルスター事務所という競合があり、25年間競争状態にあった。競争状態で起こり得ることは何か、実体験に基づいた経験がある」と浅石理事長は言う。
2001年の「著作権等管理事業法」施行で新規参入が認められて以降、競合が現れたことも歓迎する姿勢を示した。「競合他社が存在する状態は、JASRACの将来のステップアップのために時代が用意してくれた贈り物ととらえている。他団体とのフェアな競争を戦い抜くことで、ひと回りもふた回りも大きくしていきたい」(浅石理事長)。
一方で、著作権管理団体が増えることで、楽曲利用者が「どの団体に申請すればいいか分からない」と混乱したり手間が増えてるのは、「一番やってはいけない」(浅石理事長)とも話し、利用者は1つの窓口に申請するだけで、どの管理団体の楽曲でも利用できる「拡大集中許諾」の仕組みの整備に意欲を示した。
「JASRACは“どんぶり勘定”で著作権使用料を徴収・分配しており、適切な分配がなされていないのでは」と批判されることもある。大橋常務理事は、「放送で使用された楽曲について、いつ、どの番組で使用されたのかなどの明細を、2〜3年前から各権利者にWebで提供している」と、分配の透明性・正確性をアピール。浅石理事長は、「財務諸表や事業計画、予算も公開している」と話し、一般向けの情報公開にも務めていると強調した。
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