「上層部に理解されない」 ブロックチェーンで新事業、エンジニアがぶつかる壁
「社内でブロックチェーンを使った新規事業の提案をしても、上層部の理解を得られなかった」――中部電力の戸本さんが、社内でのブロックチェーン活用の難しさについて語った。
「社内でブロックチェーンを使おうと提案しても、上層部はピンと来ていない様子だった」――中部電力の戸本裕太郎さん(ICT戦略室 技術経営戦略担当)はこう振り返る。「感覚的によく分からない」などの漠然とした不安から、なかなかブロックチェーンの有用性について共感を得られなかった苦労を、ブロックチェーンによる新規事業開発について語るイベント「Mirai Salon」(東京・丸の内)で明かした。
理解してもらうには「とりあえず作ってみる」
「2016年後半には、スマートグリッド(次世代送電網)を進める上で、電力流通とブロックチェーンの接続が有効だと感じていた」と戸本さんは話す。離れた場所にいるユーザー同士が太陽光充電エネルギーの余剰電力を売買したり、既存の電力供給とまとめて料金を請求したりする上で、ユーザー同士で直接やりとりできて履歴が残るブロックチェーンによる取引は魅力的だ。だが当時、社内の反応は薄かったという。
しかし、2017年に米LO3 Energyがブロックチェーンを活用したマイクログリッド(大規模発電所に依存しない小規模なエネルギー・ネットワーク)を実現したことで風向きが変わった。中部電力社内でも、余剰電力の個人間売買にブロックチェーンを活用することについて、徐々に理解を得られるようになったという。
さらに社内理解を進めるべく、戸本さんは後輩エンジニアと2人でブロックチェーン技術を使った電子決済アプリを開発。独自の仮想通貨「カフェエネコイン」を発行し、社内で購入したコーヒー代金の電子決済や利用者間のカフェエネコインの交換に利用した。「これをきっかけに社内でのブロックチェーン理解が進み、『これが電力の売買だったらどうなるか』という具体的な想像につながった」(戸本さん)
こうした経緯をへて、同社は3月1日、ソフトウェア開発などを行うインフォテリア(東京都品川区)、IoTベンチャーのNayuta(福岡市中央区)らと、電気自動車(EV)など電動車の充電履歴をブロックチェーン技術で管理する実証実験を開始した。
戸本さんは「自社にエンジニアが1200人いる中で、ブロックチェーンが分かるのは自分と後輩の2人のみ」と苦笑するが、今後は電動車の充電以外にもブロックチェーンを用いる取り組みを進めていくという。
ビッグデータを死蔵させないために
富士通もブロックチェーンで新事業に取り組む大企業の1つだ。同社は、ブロックチェーン技術を活用し、異業種間共創を促すデータ流通サービス「Virtuora DX」を開発した。池田栄次シニアマネジャー(ネットワークソリューション事業本部 サービスビジネス事業部)は「約1年前からブロックチェーン活用に挑戦しているが、未知の領域」と、手探りでプロジェクトを進めていた頃を振り返る。
同社は、多くの企業がビッグデータ活用に期待している現代において、主にプライバシーやセキュリティの問題から死蔵されていた企業内データに注目。これらをより広く流通させて活用を推進すべく、ブロックチェーンによる解決策を考えた。
そこで利用したのが、ブロックチェーンを用い、外部環境にデータを置くことなく企業間のデータ取引を実現する「富士通VPXテクノロジー」だ。実データは各企業が手元で保管しつつ、概要情報(メタデータ)のみを共有、実データはP2P(Peer to Peer)で受け渡すことで安全性と透明性を確保した。
「このようなコンソーシアム型ブロックチェーンを活用することで、異業種共創が進む。さまざまな企業が参加すれば、データを活用した街づくりなどにも応用できる」(池田シニアマネジャー)
成功するか分からない手探りの状態で新事業を進めなくてはならないのは、富士通も中部電力と同様だ。池田シニアマネジャーは「市場接点や、その分野に詳しい人とのネットワークをいかに早く持つかが大事だ」と強調した。
【訂正:2018年6月12日10時45分更新 ※初出時、登壇者の氏名に間違いがありました。お詫びして訂正致します。】
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