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インタビュー

「まさかのダンゴムシです」 商品化を勝ち取った虫嫌いの開発者

ダンゴムシを10倍に拡大し、精密なギミックとともに立体化したバンダイのカプセル玩具「だんごむし」。しかし、開発者は大の虫嫌いだった。商品化の謎に迫る。

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 触れると丸くなるダンゴムシ。よく転がるダンゴムシ。子どもの頃はよく遊んだのに、大人になると触れることすら嫌になるから不思議だ。

 そんなダンゴムシを、事もあろうに10倍に拡大し、精密なギミックとともに立体化したのがバンダイのカプセル玩具「だんごむし」(8月第5週に発売予定)。正確には「ガシャポン」のカプセルレス商品の第2弾で、丸まった巨大ダンゴムシがそのまま転がり出てくる。しかし開発担当者の誉田恒之氏は大の虫嫌い。「東京おもちゃショー2018」の会場で事情を聞いた。


バンダイ ベンダー事業部 企画・開発第二チーム アシスタントマネージャーの誉田恒之氏と「だんごむし」

――なぜダンゴムシなのでしょう?

 子どもはダンゴムシが好きです。自分も小学生の頃は遊んでいましたし、周りの人たちに聞いても同じでした。これほど身近でなじみのある虫ですから、大人向けに本格的なもの、大きなものを売り出したら意外と受け入れられるのではないかと思いまして。それが2年ほど前です。

 決め手になったのは、この丸まったダンゴムシが、ガシャポンから出てくるということ。シュールじゃないですか。

――シュール過ぎます。確認ですが、会社に「ダンゴムシを作れ」と強制されたわけではないですよね?

 むしろ会社には黙って進めていました。ダンゴムシを作っているなどと知られたら社内でばかにされそうなので。当時は(商品化を決める)会議を通るとも思っていませんでした。


丸くなった状態

――図鑑などで勉強したそうですね

 大人向けの商品ですから、ダンゴムシの生態をしっかり研究して作り上げたものを提供したいと思いました。しかしダンゴムシは体の中で伸縮する特殊な体質なので、樹脂で作ってもそうは簡単にいきません。

 裏側には足などのパーツがたくさん入っているのですが、丸めたときにパーツ同士がぶつかり合い、“くの字”にはなっても球体まではいきません。プラスチックで普通にダンゴムシを作ろうとしても丸くはならないのです。


お腹側は複雑な構造

 外側を大きめに作ってみると、今度は殻と殻の間に大きな隙間ができてしまいます。丸まった形を生かそうとすると、今度は広げたときにダンゴムシの形になりません。何度も何度も試作を繰り返しました。

 一度は諦めかけました。でも、休んでいると頭の中に構造のアイデアが浮かんできて。5〜6体目の試作で、ようやく頭とお尻がくっつくところまで来て、希望が見えました。ここまで1年くらいかかったと思います。

――図鑑や資料を見るのは嫌ではなかったですか?

 そうですね。開発時には(他部署に)3Dデータを作ってもらうのですが、ファイルを開いた途端、ダンゴムシのお腹のディテールが見えたりします。それが気持ち悪くて見られません。修正する作業も気持ち悪くて……。

――分かります、分かります

 ただ、これは皆さんに喜んでもらうための商品ですから、多少のデフォルメを加えました。例えば本物のダンゴムシは足には細かい毛がびっしり生えていますが、あえて省略しています。最初は少し気持ち悪いかもしれません。でも、しばらく見ていると“かわいい”と感じるところまで簡略化しました。机の上に置けるレベルだと思いますよ。

――机の上に……ですか。ところで社内の会議を通らないと思っていたのですか?

 バンダイはやはりキャラクタービジネスが主流です。ノンキャラクターアイテムもやりますが、人気のある犬や猫などが多いです。

 それが今回はダンゴムシです。

 しかも結構なパーツ数なので安い価格設定では商品として成立しません。カプセル玩具は1回200〜300円が主流で、500円というのは大人向けの高額商品に限られます。

 それがまさかのダンゴムシです。

 普通に話をすれば100%商品化はできないでしょう。そこでプレゼンの方法を考えて考えて考え抜いて、会議に臨みました。

――その最強プレゼンテクニックを詳しく教えてください

 転機は1つ前にチャレンジとして出した「ザクヘッド」(17年2月発売)です。皆が考えていた以上の大ヒットとなり、社内が「実績がないからやめろ」とは言いにくい状況でした。むしろ「新しいことをどんどんやろう」という風潮になった、その潮目の変化を見て「今しかない」と。当時はまだ完成前でしたが、商品化のプレゼンに臨みました。


「ザクヘッド」

 通常、プレゼンでは商品説明から始めるものですが、その時はあえて商品を出しません。まずプロジェクターでダンゴムシとゾウリムシの映像を並べ、その特長と面白さを延々と説明しました。丸くなる変形のすごいところ、それを再現したモデルは世界初であることなど、もう3段、4段仕込みでアピールしました。

 それでも最初は「ダンゴムシのすごさは分かったけれど、やはり無理なんじゃないか」と言われました。そこからは粘りです。何度も粘って「そこまで言うなら」と商品化を勝ち取りました。ちょっと普通の精神では商品化まで持っていけなかったと思います。

――えらい人たちも大変ですね。そういえば青いダンゴムシはウイルス感染したものと聞きました


青いだんごむし

 そうです。「イリドウイルス」というウイルスに感染してしまうとダンゴムシはすごく発色のいい青になります。

 しかも習性も変わります。ダンゴムシは通常、暗い処、狭いところを好む習性がありますが、ウイルスに感染してしまうと明るいところ、広いところに出て行くようになります。

――それは危険なのでは

 当然、明るいところに出ていくと目立つため、鳥に食べられてしまいます。ダンゴムシは死んでしまいますが、ウイルスは死にません。鳥のふんとなって、ウイルスはさらに勢力を広げます。

――青いダンゴムシには悲しい物語があったのですね

 そうなんです。でも昆虫好きの人たちには、発色の良い青いダンゴムシが好きな人も多いようですね。一方、白いダンゴムシはほとんどの動物で希に生まれるアルビノです。色素が少ないため、目が赤く見えるのが特徴です。


白いだんごむしだけ目が赤く塗装されている

――最後に世の中の虫嫌いの人たちに一言

 最初は少し気持ち悪いと思っても、ぜひ手にとってもらいたいですね。子どもの頃にダンゴムシで遊んだ経験があれば、昔を思い出して不思議とかわいいと思えるようになると思います。だいたい2〜3日たつと、皆さん「かわいい」と言ってくれるようになりますよ。


2日か3日、見続けてみませんか

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