「宅配ボックスだけでは解決できない」 業界のパイオニアが挑む「再配達ゼロ」への道:特集・ITで我慢をなくす「流通テック」(3/3 ページ)
宅配便の再配達問題でにわかに注目を集めている宅配ボックス。そのトップランナー、フルタイムシステムに宅配ボックスの果たしてきた役割と再配達問題解決に向けた取り組みを聞いた。実は宅配ボックスは、既に労働問題を1つ解決していた。
宅配ボックスだけでは再配達問題は解決しない
かつてマンション管理人の労働環境改善のために作られた宅配ボックスが、最近は再配達問題とそれに伴う宅配業者の労働環境改善という視点で注目を集めている。しかし原副社長は、「宅配ボックスだけでは解決しない」と断言する。
例えば人気のタワーマンション。現在、購入層の中心は「パワーカップル」と呼ばれる夫婦共働き世帯で、昼間は誰も家にいない上にEC利用率も高い世代だ。当然、宅配ボックスの需要は増すが、宅配ロッカーの設置スペースは最近まで容積率算入の対象で必要最低限の数しか設置できなかった(17年11月、国土交通省は共同住宅の共用の廊下と一体となった宅配ボックス設置部分については、容積率の規制の対象外とする運用を明確化する旨の通知を出した)。
数を増やす以前の問題もある。例えば、多くの荷物をカートに積んだ宅配業者が、各戸に連絡を入れるため、インターフォンの前を長時間占有してしまう。もちろん宅配業者は1社ではないから順番待ちも発生し、長時間にわたって一般の来訪者が出入りしにくくなるという。
17年6月に販売を開始した「パークタワー晴海」(東京都中央区)では、デベロッパーの三井不動産レジデンシャルがフルタイムシステムと協力し、「再配達ゼロ」を目指す取り組みを行った。宅配業者へのヒアリングに加え、フルタイムシステムが長年にわたって蓄積したデータを分析。近年の宅配利用動向に合わせた課題を洗い出し、対応策を検討した。
例えばAmazon.co.jpの登場で急増したメール便(厚さ数センチの薄い箱)については、宅配ボックスを増やしつつ、各戸専用ポストの規格を変えてメール便に対応できるサイズにした。「今まではメール便1つで宅配ボックスを1つ占有していましたが、ポストに入れられればボックスが空きます」(原氏)
また宅配ボックスの空き状況を宅配業者に知らせる「宅配ロッカーの利用情報閲覧サービス」を構築。運搬車の中でもスマートフォンなどで確認できるため、運んだはいいが宅配ボックスの空きがないといった無駄な作業を省ける。いずれも宅配ボックス単体ではなく、周囲を巻き込んだ施策だ。
「宅配ボックスは社会インフラと呼ばれるようになりました。今は人の役に立つ先進機能が見えているので積極的に開発をしていますが、遠い将来も宅配ボックスが一番のソリューションであり続けるとは限りません。そのときはわれわれも宅配ボックスだけにこだわらない。この考えは大事にしたいと思っています」(原氏)
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