「機械に代替されないデータサイエンティスト」に必要な能力とは?:これからのAIの話をしよう(コンサル編)(3/3 ページ)
データ分析がうまくいっている企業は何が違う? 企業と現場が意識すべきことについて、データサイエンティストに聞いた。
「データに投資を」 企業が今できることは
データサイエンティストとして活動する中で、東野さんは「企業はもっとデータに投資してほしい」と強く感じたそうです。
「データ収集や分析ができる環境にお金を掛けてほしいです。データ分析はトライ&エラーがマストなので、何十回、何百回と分析を繰り返します。インフラにお金を掛けていないと、試行錯誤に時間が掛かってしまう。その時間はお金で買えると知ってほしいですね」(同)
最近は人の採用が注目されがちですが、その前に企業ができることはまだまだ多そうです。先述した環境作りもそうですが、データサイエンティストにどのようなタスクを与えるかも重要でしょう。過剰な期待を抱く企業が、データサイエンスでは解けない課題を設定しても、それはデータサイエンティストには解けません。
「タスクの内容で(成果が出るかどうか)8割決まる」と東野さん。「いっそのこと、コンサルタントなど外部の人間に課題設定を相談すると良いかもしれません。それぐらい重要なことですから」と強調します。
では、データサイエンティスト自身は何をするべきでしょうか。東野さんは「それは役割によって変わります。メンバーレベルならビジネスのキャッチアップと学習時間の確保、1つ上のレイヤーだとビジネス部門との関係性構築です」と話します。
「技術は日進月歩なので、キャッチアップが大切です。そもそもコードを書く必要があるのかどうかまで考えるべきでしょう。AutoMLやMatrixFlowなど、機械学習モデル作成を効率化するツールはいくらでもあります」(同)
データサイエンティストが不要になる日
ビジネス部門はデータサイエンスを理解しないといけないし、データサイエンティストはビジネスを理解しないといけない。両方が歩み寄りを続けると、いつの日か「データサイエンティストが不要になってくるのではないか」とすら思います。
東野さんは「そうなるでしょうね」と答えます。
「データサイエンティストを名乗る人のほとんどは、Pythonやデータ分析基盤を触れるものの、ビジネス(課題の解決)に弱い人が多い印象です。サイエンスやエンジニアリングはツールに代替されると思っていて、最後まで残るのはビジネスを統計や機械学習で扱える問題に落とし込める人ではないでしょうか」(同)
また、「統計をしっかり理解している人は、データサイエンスブーム後もあまり増えていないのではないか」(同)とも感じているそうです。
企業側は、しっかりとビジネスについて考えられる人材を採用する目利きが求められます。したがって、組織をデータサイエンスの力で動かすのに重要なのは、目利きできる人材ではないかと東野さんは考えます。人材会社やツールベンダーにふっかけられないリテラシーも大切です。目利きできる人材をそろえてから、データ分析環境の構築、データサイエンティストの採用と順番に投資していくのがいいでしょう。
取材後記
手段が目的になってしまうのは典型的な悪いパターンだと、誰もが気付いていることでしょう。しかし、ここ数年のデータサイエンスブームやAIブームは、技術という手段ばかりに注目が集まり、目的が忘れられた典型といえます。
私には、日本の人手不足がなぜAIやデータサイエンスで解決されるのか全く理解できないですが、政府はAI人材の育成を推進すると発表しています。データサイエンスの現場で仕事をしながら、マクロとミクロでこうも見ている景色は違うのかと感じる日々です。
分かったつもりが一番怖い。大上段に構えず、地道に課題と技術を結びつけて淡々と進めている企業にこそ、もっと光が当たってほしいと思います。
著者プロフィール:松本健太郎
株式会社デコム R&D部門マネージャー。 セイバーメトリクスなどのスポーツ分析は評判が高く、NHKに出演した経験もある。他にも政治、経済、文化などさまざまなデータをデジタル化し、分析・予測することを得意とする。 本業はインサイトを発見するためのデータアナリティクス手法を開発すること。
著者連絡先はこちら→kentaro.matsumoto@decom.org
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