検索
ニュース

リクナビ問題の本質を山本一郎氏・高木浩光氏らが斬る 内定辞退予測を始めた背景に「得意先からの頼み」「個人情報理解の甘さ」(2/3 ページ)

情報法制研究所(JILIS)が、リクナビ問題が起きた要因などを議論するセミナーを開催。山本一郎氏、高木浩光氏ら有識者が登壇し、各自の専門分野に基づいた意見を述べた。今回の問題を招いた背景には、顧客企業からの要望と、個人情報に対する理解の甘さがあったという。

Share
Tweet
LINE
Hatena

高木氏「統計化しても一人一人のスコアにしたら個人情報」

 リクルートキャリアは一連のスキームにおいて、変更前はCookie情報と企業ID、変更後も大学・学部・氏名といった個人情報を分析に使用している。だが高木氏によると、変更前は氏名などを使っておらず、変更後も就活生の氏名をハッシュ化していたことから、リクルートキャリアは「内定辞退率の算出では個人情報を使っていないため、問題ない」と判断し、同サービスを運営していたという。

 高木氏は「リクルートキャリアは今も、『企業IDを使って結合したものは個人情報ではない』と思っているようだ。スキーム変更後も個人情報を使っていないと考えていたが、個人情報保護委員会からの指摘を受けて理解したと聞いている」と説明。「これが個人情報ではないというならば、どういう誤解をしているのか大変興味深い。氏名が分からなければ問題ないのか」と批判した。

 問題の発覚後、関係者を自称するアカウントがTwitter上に現れ、事態の釈明などを行っていた。高木氏はこの点にも触れ、「(自称関係者を)泳がせていたら『(使っていたのは)統計データだから個人情報ではない』と主張していた。だが本来は、複数の人の情報を集約するのが統計化。Web閲覧履歴を統計化して、一人一人のスコアにするのは個人情報の利用だ」(高木氏)

photo
リクルートキャリアは「個人情報を使っていないため、問題ない」と判断し、内定辞退率を算出していたという

内定辞退率のせいで選考に落ちた学生はいる?

 個人情報保護委は8月26日に、リクナビDMPフォローが個人情報保護法違反に当たるとして、全社的な意識改革などの措置を講じるようリクルートキャリアに行政指導した。だがセミナー登壇者によると、同委による対応にも改善の余地があるという。

 高木氏によると、個人情報保護委が問題視したのは新スキームのみで、旧スキームは不問に付したという。同氏は「顧客企業への執行が済んでいないためかもしれないが、これはちょっと変だ。同じ事なのに区別している」と疑問を述べた。

 高木氏はこの他、9月6日付の読売新聞で「有名国立大学に通う国家公務員志望の女子学生が、リクナビにその旨を正直に書いた上で就職活動をした結果、書類選考での落選が続いた」と報じられたことを紹介。「原因がリクナビのせいだとすると問題だ」と指摘した。

 これを受けた鈴木氏は「(内定辞退率の提供が選考に響いたことを)立証するのはなかなか難しい。個人情報保護法に即して調べた方がいい」とし、山本氏も「個人情報保護委は追加の立入りを行い、バイネームで調べるしか方法はなさそうだ」との見解を示した。

 しかし、リクルートキャリアと取引があった企業は軒並み「内定辞退率のスコアは採用活動には使用していない」とのコメントを発表している。山本氏は、個人情報保護委はこの点の真偽をさらに追及する必要があるとし、「データのせいで(内定が)出なかった生徒は恐らくいただろう。だが彼ら(顧客企業)が公表することはなさそうだ。内定が出なかった人がどれだけいるか、委員会は厳密に調査しなければならない」と述べた。

厚労省文書が示すもの リクナビは氷山の一角か

 厚生労働省も9月6日に、同サービスが職業安定法に違反したと判断し、東京労働局を通じて同社に行政指導を行った。この対応について登壇者は、新旧両方のスキームを違法と断定していることから、おおむね妥当であるとの意見を示した。

 ただ、厚労省は同日付で業界団体宛に文書を出し、「人材サービス事業は、その名称のとおり、人材を取り扱うビジネスであり、人材を大切に扱うことは当然の責務」「求職者の秘密に該当する個人情報を知り得た場合には(中略)厳重な管理を行わなければならない」などと指摘した。

 セミナー登壇者はこれを踏まえ、厚労省がリクナビを指導するだけでなく、業界団体に向けて文書を出した目的や意図について議論した。

photo
厚生労働省が業界団体向けに出したという文書

 「(人材サービス事業という表現などが)いまひとつ何を指しているのかが分からない。個別の案件に広く対応するため、あえてぼかしているのか」と山本氏が勘繰ると、高木氏は「個人情報保護委ができる前は、経産省と厚労省の共管で『雇用のガイドライン』というものがあった。だが、執行を(同委に)一本化した時になくなり、今の一般ガイドラインに吸収された。その後、厚労省からは、あまり積極的に(職業安定法の運用に関する)ガイドが出ている状況ではなかったが、ここで一気に来たなという印象だ」と歴史的背景を踏まえて概説した。

 鈴木氏は「リクルートキャリア1社の問題ではないということを、担当官庁がよく分かっているのでは。リクナビは氷山の一角で、実は“経団連の加盟企業が軒並み(個人情報を)買っているなど、ドブ川”のような不適切な状況があるかもしれない」と指摘。

 「たとえ無自覚だったとしても、データベースに収まっているデータを(他社に)無断提供していることが立証されれば、データベース提供罪で刑事事件になる。(人材会社の)人事部はいま一度しっかり点検すべきだ」(鈴木氏)と語った。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る