少ない画像データで「欠陥品」を高精度に判別、オムロンが製造業向けにAIの新技術(2/2 ページ)
オムロンが、工場の生産ラインで部品の傷などの欠陥を抽出する画像認識AI技術と、機械学習モデル同士を統合させてAIの精度を高める独自技術を開発。製造業の現場が抱える課題を解決する狙い。
「データ収集の壁」を超えるために
もう一つ発表された新技術が、Decentralized Xだ。これは機械学習モデル同士を統合させることでAIの精度を高める技術。高精度な機械学習モデルを作るには大量のデータを用意する必要があるが、中小企業などではそれが難しい。異なる機械学習モデル同士を統合させてAIの性能を高めることで、これを解決するという。
オムロン サイニックエックスのシニアリサーチャー 米谷竜さんは「頑張って大量のデータを地道に集めるという方向性ではなく、手元にデータはなくともAIが賢くなるようなフレームワークを生み出したいという発想が基になった技術」と説明する。
米谷さんは、次のように説明する。
「例えば、りんごが多くとれる畑と、みかんが多くとれる畑があったとします。それぞれの現場で果物の識別モデルを作ると、片方の果物の識別精度が低いモデルができてしまいます。これを解決したい場合、りんごとみかんのデータを1つのサーバに集約する考え方が一般的ですが、プライバシーや通信容量の問題から不可能なケースもあります。Decentralized Xでは、データの代わりに学習モデルをサーバに送って統合することで、りんごもみかんも識別できる賢いモデルを作成できます」
機械学習モデルを共有すれば、大量のデータを共有する場合に比べて通信コストを抑えたり、データの秘匿性を高めたりできるメリットがあるという。データの秘匿性が高く、他社とのデータ共有が難しい場合でも、モデルの共有・統合によってAIの性能を高められるというわけだ。
この技術は、外観検査にも応用できる。部品の欠陥を検出するAIを作るには、欠陥品のデータが必要なため、既存モデルでは発生頻度が少ない欠陥など、データが少ないものは検出しにくいという問題があった。
しかし、各工場に偏在する欠陥データを学習させたモデルを共有・統合することで、それぞれの欠陥に対応できるようになるという。
Decentralized Xについては、事業化のめどはたっていないという。まずは同社のFAやヘルスケア領域での実証を進めていきたいとしている。
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