「まずは正しく失敗したい」 経産省が“AI人材育成”に挑戦する理由:これからのAIの話をしよう(産業政策編)(4/4 ページ)
経済産業省がAI人材の育成事業「AI Quest」を立ち上げ、9月末から実証実験を始めている。なぜ、経産省がスクール事業を行うのか。担当者に聞いた。
小泉氏:ありがとうございます。今回の実証実験で得た知見は、教材も含めて全てオープンにしていきます。あらゆる教育関係者、例えば学校や企業内研修、教育事業者に使っていただきたい。どうやったら社会実装につながる実践的な教育ができるか、それを拡大するにはどうするといいのか、一定の協調領域を作って後押しをしていきたいです。
マスクド:事例や前例があれば、みんなやりたがるんですよね。特に中小企業は、もうからないなら手を出しませんから。本を読んで勉強しよう、セミナーに行こうと言っても、彼らも時間が無いんですよ。経済産業省から(勉強方法の)お手本が出ると、それに乗っかればいいのでありがたいなと。
小泉氏:中小企業対策としては、AI人材と企業の場作り、コミュニティー作りも合わせて支援していきたいと考えています。また、AIスタートアップや大手企業の人材育成についても、引き続き一緒に協議したいです。
マスクド:AI Questがゴールというわけではないんですね?
小泉氏:おっしゃる通りです。この事業を単年度で終わらせるべきではないと考えています。来年以降もどのような形で進めていくべきか検討していきます。
事例公開する企業が少ないという問題
小泉氏:そもそも、本来ならAIの良い実装事例はたくさんあるはずなんです。ただ、事例公開をしたがらない企業が多い。ケーススタディは実例を基にしていますが、データを加工して匿名化したり、ダミーデータに置き換えたりしても、事例提供に拒否反応を示す企業はいます。
マスクド:その結果、起きてしまうのが「事例は出せない問題」ですね。AIの現場では「あるある」です。
小泉氏:私がいる情報経済課では、教師データや作成したモデルに関する知財について、「AI・データの利用に関する契約ガイドライン」を作っています。教材についてもこうした知財のガイドラインを作ることで、企業が安心して自社の事例を提供できるような環境を作っていきたいです。ここをクリアにしないと、従来あった「データが出てこない問題」と全く同じことが起きてしまいます。実践的な社会実装を進めるために必要な経験をしたいなら、実際のケースから学ぶことが今後さらに重要になるでしょう。これはAIに限りません。
マスクド:お堅いイメージだった経済産業省も変わっていっている、というのが印象的でした。社会が変わり、行政が変わる、だから企業も変わりましょう、という流れができれば良いですね。
小泉氏:経済産業省としても、単年度で注目を集めるための花火を打ち上げるのではなく、「本質的に何が重要かを考えよう」という方向になっています。
著者プロフィール:松本健太郎
株式会社デコム R&D部門マネージャー。 セイバーメトリクスなどのスポーツ分析は評判が高く、NHKに出演した経験もある。他にも政治、経済、文化などさまざまなデータをデジタル化し、分析・予測することを得意とする。 本業はインサイトを発見するためのデータアナリティクス手法を開発すること。
著者連絡先はこちら→kentaro.matsumoto@decom.org
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