「ポケモンGO」と「ドラクエウォーク」、互いをもっとベンチマーキングするべき:2019年の位置情報ゲーム
2019年は位置情報ゲームの話題が豊富だったが、中でも「ドラゴンクエストウォーク」の登場が大きい。「ポケモンGO」と比較すると、それぞれに良い面とそうではない部分が見えてくる。
2019年は位置情報ゲームの話題が豊富だった。18年末に話題になったドワンゴ「テクテクテクテク」が6月にサービスを終了し、入れ替わるように「ポケモンGO」で知られる米Nianticが「ハリー・ポッター:魔法同盟」の配信を開始。9月にはスクウェア・エニックスとコロプラが満を持して「ドラゴンクエストウォーク」を投入し、ポケモンGOに次ぐヒット作になった。
ドラクエウォークは、目的地をプレイヤー自身が決められる珍しいRPGだ。ストーリー上、「ラダトームの城」に行くことになれば、まず本物の地図の上で城の場所を設定する。自宅の前でも会社の敷地でもいい。プレイヤーは無理のない距離を歩き、目的地に着けば報酬がもらえる。10月以降は過去のドラゴンクエストシリーズのイベントを相次いで実施し、懐かしいキャラクターが登場してファンを喜ばせた。
後発だけにポケモンGOや「Ingress」をかなりベンチマーキングしていたのだろう。ドラクエウォークでは、地域格差などの問題は生じていない。アイテムが入手できるスポットは道沿いを中心に多数配置し、強敵と戦うレイドバトルは、一人でも時間をかければ勝てる(例外あり)。
日本企業らしくサポートはしっかりしている。障害が発生したり、アプリのバグが判明したりすれば、すぐにゲーム内で告知する(普通のことだが、ポケモンGOでは実現できていない)。大型台風が日本に接近したときは、自宅から出なくても遊べるように「においぶくろ」(まものを呼び寄せるアイテム)を配布した。
ユーザーの要望も積極的に取り入れ、例えばレイドパスを5枚まで所持できるように仕様を変えた。これで仕事や勉強に忙しく、平日はレイドに行けない人たちも週末にまとめてプレイできるようになった。ポケモンGOのトレーナー(プレイヤー)から「ポケモンGOは、ドラクエウォークをもっとベンチマーキングするべき」という声も聞かれるほどだ。
位置情報ゲームは集客ツール
ドラクエウォークは日本しかサービスを提供していないが、ダウンロード数は11月に1000万を突破。ポケモンGOの世界累計10億ダウンロードに比べると100分の1とはいえ売上は好調で、調査会社のSensorTowerはリリース30日間の売上を8600万ドル(約94億円)と推測した。
ただ、ビジネスモデルという点でポケモンGOはかなり進んでいる。例えばマクドナルドや伊藤園、イオンといったスポンサーの存在だ。Nianticの東京オフィスが担当する日本、韓国、台湾14社のスポンサーと契約し、スポンサー由来のジムやポケストップは7万カ所(19年8月時点)。ゲームのプレイが場所に左右される位置情報ゲームの特性を生かして集客や送客を行い、対価を得る仕組みを作り上げた。
イオンやマクドナルドは、決まった日時で「伝説レイドバトル」を開催する「レイドアワー」で人を集めている。マツモトキヨシやソフトバンクは、ポケストップでアイテムをもらうときに回す「フォトディスク」に商品情報やクーポンを表示している。中でもソフトバンクは位置情報ゲームのプレイヤーが注目しそうな二画面スマホの広告を表示するなど、積極的に活用している。
もう一つ、19年の新しい動きとしては、イベント参加権の販売が挙げられる。11月、Nianticはクエスト機能の「スペシャルリサーチ」を活用し、伝説のポケモン「レジギガス」を一足先に捕獲できる「巨大ポケモンの謎を解け!」というイベントの参加権を売り出した。
価格は980円で、レイドパスやアバターのポーズなど、さまざまな特典も付いてくる。レジギガスは後日「EXレイド」ボスとして登場することが発表済みで、しばらく待てば入手機会は増えることが分かっていた。それでも、従来のリアルイベントと違ってどこにいても参加できるメリットなどもあり、多くのトレーナーがチケットを購入した。
位置情報ゲームと「ガチャ」の相性
位置情報ゲームの特性を新しいビジネスを生み出しているポケモンGO(Niantic)。一方でドラクエウォークは、サーバ運営型スマホゲームのビジネスモデルを踏襲した“ガチャゲー”だ。
ドラクエウォークで“10連ガチャ”を引くために必要な金額は3000円(=3000ジェム)。1度でお目当ての武器や装備を引き当てるのは難しく、例えば「天空のつるぎ」の提供割合は0.5%だ。ジェムで10連ガチャを回す場合、100連ごとに1回の「ピックアップ確定枠」が用意されているため、3万円を費やせば天空装備の1つは確実に手に入る。それを目的にガチャを繰り返す人も多い。
ドラクエウォークは、ガチャのおかげでスタートダッシュに成功したが、一方で「高い」「ガチャは嫌い」と拒否反応を示す人も多い。一部の高額課金ユーザーに依存する体質はビジネスとして安定性を欠く。
スマホゲームは、スマホさえあればいつでもどこでもプレイできるのがメリットだ。しかし、その中で位置情報ゲームは、プレイに場所の制約をあえて設けることで成り立つもの。それだけに寒さや暑さなど運営者にはどうにもできないリアル空間の条件次第でアクティブユーザーの数が大きく変化する。Nianticが、単価は低くても広くお金を集め、収益源の多様化を進めるのは、そうしたリスクを承知しているからではないか。
ドラクエウォークは現在のところ商業的に成功しているが、ガチャに頼りすぎるビジネスモデルは舵取りが難しい。今後の継続はもちろん、海外展開も視野に入れるのなら、ポケモンGOのビジネスモデルをもっとベンチマーキングし、良い点を取り入れていくべきかもしれない。
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